「日本人はどこから来たのか」
海部陽介著 文藝春秋社 2016年

この手の本としてはきわめて新しい。ほとんどの本が2003~2005年に集中して出版されて、その後はほとんど新たなものが出てこない。
そういう意味では干天の慈雨的なありがたみを感じる。
文章はきわめて明快で割り切った書き方になっている。分かりやすいといえば分かりやすいのだが、「そこまで言って委員会」的な雰囲気も漂う。
とくにY染色体ハプロについてまったく触れられないのは奇妙な感じがする。この分野の蓄積がこの15年間、まったく止まっているのも気がかりである。

問題意識は日本人だけでなく、アジア人がどこから来たのかにあるという。
とくに欧米での通説が南方由来説一辺倒になっていて、ゲノム分析以前の日本での研究蓄積が示す北方由来説を無視することに異議を唱えている。

第二には、4万8千年~4万5千年前にペルシャ湾岸から西方、北方、東方へ一斉に人々が進出したというビッグバン説と、それに1万年遅れで日本をふくむ東アジアへの人口進出があったという説とを一連のセットとして見る考えだ。

これについては同感である。

さらに2万年前ころにおそらく南方から漢民族や長江人につながる人々が進出したこと、その中でより北方に進出した漢民族が長江人を駆逐し中原を支配したこと、追われた長江人が日本に逃れ縄文人と混血して日本人を形成したこともおそらく同感できるのではないか。

次に日本人の3つの源流ということだが、海部さんが力を入れていると思われる南方ルートは、港川人などが現代沖縄人とつながっている根拠が乏しいので、現時点では「かつて住んでいた人」という扱いになるのではないか。

海部さんの説では最初に列島入りしたのは朝鮮半島経由の人々で、3万8千年前。そのあと北から入ってきたということになっているが根拠は不明。

3ルート

ツングース系(YハプロのC1系)の人々が対馬海峡を越えて西日本と日本海沿いに分布したことは間違いないのだが、それが樺太経由の縄文人(D2系)に先んじていたかどうかはわからない。

海部さんの本では根拠が示されていないと思う。