去年の暮、北朝鮮問題が深刻化したときに下記の文章をブログに掲載しました。
ここでは北朝鮮問題を3つの枠組みに分けて考える必要があると主張しました。
1.日朝両国関係の枠組み
2.非核・平和・安全保障の国際・地域的枠組み
3.東アジア地域の共存・共栄の枠組み
そして、これらの枠組み協議のいずれにおいてもアメリカは部外者なのに、現実には最大の当事者となっている。この矛盾こそが当面する問題なのだと主張しました。
もう一つ道筋問題では、安全→平和→統一を段階を追って前進すること、統一の課題では経済統合→文化統合→政治統合という三段階が重要と主張しました。

2018年04月25日 「米朝関係の新展開について 覚書」という文章、および 「トランプ就任後の米朝関係」という経過表を北海道AALA機関紙に投稿し、あわせてブログにも掲載しました。
また併せて1990年以降の米朝関係を年表化したものを三部に分けて掲載しました(我ながら相当膨大です)。
それが昨日、トランプによる会談中止声明という形で思わぬ展開を見せました。世はアメフト一色、不意を衝かれた感じです。
とりあえずこの1ヶ月の経過を大急ぎでまとめてみました。結論としては前回記事とそれほどの変わりはありません。
4月に敷かれた基本線には変化がないのですが、とくにアメリカ国内で受け止めを巡って様々な思惑が出てきたのが特徴だろうと思います。

以下、この1ヶ月の経過をフォローします。

4月 大統領補佐官に就任したボルトン、北朝鮮を非核化する上で「リビア方式」が有効と主張。

4.27 南北首脳会談

5.01 文正仁(ムン・ジョンイン)大統領統一外交安保特別補佐官、米外交誌に寄稿。平和協定が結ばれた場合、在韓米軍の駐留は不要となると提言。

5.03 ニューヨーク・タイムズ、トランプが在韓米軍の規模削減を検討するよう指示したと報道。

5.04 ボルトン、NYタイムズ記事を否定。

5.04 トランプ、「現時点では在韓米軍の規模削減は検討していない」と表明。また韓国に駐留費の全額負担をもとめる方針も示唆。

5.04 谷内正太郎国家安全保障局長がボルトン補佐官とホワイトハウスで会談。核兵器と弾道ミサイルの完全で恒久的な廃棄を実現する目標を確認。

5.04 ボルトン、韓国の鄭義溶(チョン・ウィヨン)国家安保室長と約2時間会談。朝鮮半島で米韓が確固たる同盟を維持していくことを確認する。

5.06 北朝鮮外務省の報道官、米国が「圧力と軍事的な威嚇」を続けていると非難。

5.09 ポンペオ国務長官が二度目の訪朝。北朝鮮政府は拘束していた米国人3人を解放する。

5.10 トランプ米大統領、首脳会談の日時・場所をツイッターで発表。「世界平和にとって非常に特別な時間になるよう、我々2人とも努力する!」と書く。

5.10 ボルトンがワシントンポストに寄稿。「トランプ政権内では、誰も一切、北への幻想を抱いていない」と述べ、核放棄要求で妥協することはないとする。

5.10 ペンス副大統領、共和党の集会で演説。北朝鮮の「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化」を要求。

5.11 米政府、北朝鮮のエネルギー供給と経済再建支援を検討すると明らかにする。

5.11 米韓合同軍事演習。北朝鮮は激しく反発。南北閣僚級会談を中止する。

5.13 ポンペオ米国務長官、非核化を条件として米民間企業による北朝鮮投資を認める可能性を示唆。

5.15 サンダース報道官、ボルトン補佐官の「リビア方式」に言及。「我々の方式だとは認識していない」と述べた。

5.16 金桂寛(キム・ゲグァン)第1外務次官、「一方的核放棄」を迫るボルトン補佐官を「えせ憂国の志士」と罵倒。

5.17 トランプ、北朝鮮非核化は「リビア方式」をとらないと言明。

5.21 ペンス副大統領、FOXニュースとのインタビューで発言。「トランプを手玉に取るべきでない」と北朝鮮を非難。これに関連して「北朝鮮はリビアのように終わるかもしれない」など発言。

5.22 文在寅(ムンジェイン)大統領が訪米。トランプ大統領と会談。南北首脳会談の内容について説明。

5.22 トランプ、米朝関係と米リビア関係は違うと主張。「(米朝が)合意すれば、金正恩は、とてもとても幸せになるだろう」と語る。
「少し失望しているんだが、金正恩は中国の習主席と2度目の会談の後、態度が変わってしまったんだ。それが気に入らない」とも発言。

5.24 北朝鮮が豊渓里(プンゲリ)の地下核実験場を爆破。

5.24 崔善姫(チェ・ソンヒ)外務次官、ペンス米副大統領を非難。「あのような無知で愚かな発言が米副大統領の口から噴出したことに、驚きを抑えられない」と発言。

5.24 トランプによる金正恩あての書簡が発表される。これにより6月12日予定の米朝首脳会談が中止される。核実験場の爆破直後のことであった。

5.24 ホワイトハウス当局、「(交渉に向けた)裏口はまだ開いている。ただ最低限でもレトリックの変更は必要だ」と述べ、崔善姫発言の修正をもとめる。

5.25 金桂寛次官、(会談中止は)「極めて遺憾だ。われわれはいつでも、いかなる方法でも問題を解決する用意がある」との談話を発表。さらにトランプ氏の「勇断」を「ずっと内心で高く評価してきた」と語る。

5.25 マティス国防長官が記者会見。米朝首脳会談が「外交努力で再設定されるかもしれない。私は楽観的だ」と述べる。

以上、経過を見てもらえばわかるように、かなりせこいケンカです。これで首脳会議つぶしてしまったんではあまりにもったいない。
基本的には北朝鮮側の隠忍自重をもとめるべきでしょう。ボルトンがそもそもどのような意図で「リビア方式」を語っているのかも必ずしもはっきりしていません。
ただ用語としての「リビア方式」は北朝鮮がこれだけ嫌がっているのだから、使わないようにすべきでしょう。これは交渉をする上での最低限の礼儀です。