1.キルヒホフについて
キルヒホフ(Gustav Robert Kirchhoff)はプロイセンの物理学者。
ケーニヒスベルク大学で学び、1949年にキルヒホフの法則を提唱した。このときまだ25歳である。これは電気回路の理論で、オームの法則を展開したものである。この内容は黒体放射と直接の関係はないので省略する。
30歳でハイデルベルク大学教授に就任。その後は分光学の研究に専心した。

分光器を使っているキルヒホフ
  分光器を使っているキルヒホフ(wikipedia より)
58年には、「熱化学におけるキルヒホッフの法則」を提唱した。これも黒体放射との直接の関係はないが、理論の基礎の一つとなっているので、なんとか食いついてみたい。

2.熱化学におけるキルヒホフの法則
これは、ウィキペディアによれば、反応熱の温度係数が反応前後の熱容量の差に等しいという法則である。
A という物質とB という物質が化合物C を形成する。これが化学反応である。化学物質は固有の熱容量を持っている。これは普通“比熱”という。
化合物の熱容量は化合する前の物質A、物質Bの熱容量を足したものであるが、化合の過程でその一部を放出する可能性がある。(<QA+QB)また化合に際して物質A、Bの熱容量だけでは不足し外部からの熱補給を必要とする場合もある。(>QA+QB)
それが正、負のいずれとなるかは別として、化学反応が熱(反応熱)の出し入れを伴うこと、「反応熱が反応前後の熱容量の差に等しい」というのはよく分かる。
多分これはキルヒホフ以前の結論だろう。

3.反応前後の熱容量の差が「反応熱の温度係数」に等しいとはどう意味か
問題は反応熱そのものではなく、「反応熱の温度係数」に等しいというのがどう意味かということだ。
そこで「温度係数」だが、辞書を見ると、これがなかなか難しい。「絶対温度が1度上がるたびに物体の性質が変化する割合」となっているが、これでは何のことかわからない。
別の辞典によると、温度係数はある物質変化を「温度差の一次関数として表すときの係数」であると書いている。温度と直線関係にあるものならなんでも良いのだ。
例えば温めると柔らかくなるというのなら、柔らかさの絶対温度1度ごとの差分を「柔らかさ vs 温度」係数といえばいいだけの話だ。
そして熱化学の場合は「熱発生量 vs 温度」ということになる。「熱発生量は温度が上がれば増える」のだが、その増加率(直線の傾き)が、化合の種類によって規定されるということだ。
熱発生量というのは「天使の分け前」みたいなもので、AとBが化合させてもらったお礼だと思えばよい。
物質の熱容量は比熱と重さ(分子量)をかけたものだが、比熱は物質に固有のものだ。しかし“天使の分け前”としての熱発生量は比熱と関係なく絶対温度によるものだという事実が、ここから導き出される。
なお、ここまでは煩雑を避けるため一次関数として考えたが、これが指数関数だったり対数だったりする可能性はある。むしろその方がありうる。
例えば抵抗温度係数は下記のごとく示されている。
抵抗温度係数1抵抗温度係数2
            ウィキペディアから
AとBの化合過程で化合物の比熱は増加あるいは低下を止め平衡状態に入る、すなわち温度係数がゼロになる、そういう場所があるはずだ。それは実際にあることが確かめられている。

ところでAとBが合体するというのはモデルに過ぎない。実際には、ある物質にはA、B、C、…などさまざまな比熱の物質が含まれている。ということは、一つの物質が化学反応を起こす場合に、熱放射をするものもあれば熱吸収をするものもあるということだ。
ただこれがある程度の高温になると、熱放射と熱吸収が平衡状態を形成する。

ここまでが「熱化学におけるキルヒホフの法則」の原理に関する、数式を使わない説明だ。
おそらく実験観察に基づいた仮説なのだろう。ここではそう覚えるしかない。





その成果が黒体放射に関わる独創的な研究である。
黒体放射の研究は1859年、35歳のことであるが、その前後の数年間に、分光学を用いて次々と重要な発見をしている。
これは後で説明する。
60年に太陽光スペクトルの暗線がナトリウム由来であることを示し、さらにブンゼンとの共同研究でセシウムとルビジウム元素を同定した。