結局、英語版ウィキで見る限り、ケミストリーというのは物理化学のことであった。
無機化学、有機化学というのはその応用系であり、皮に過ぎない。
羊頭を掲げて狗肉を売るというたぐいになる。
ただしこのたぐいの話は実によくあるのであって、私の専門である医学などというのも考えてみれば相当に胡散臭いところがある。
むかし文庫クセジュだったかに「人間生物学」(ショシャール)というのがあって、まさに「それって医学じゃん」という感じだった。
もちろん、生物学もそう偉そうなことは言えないわけで、生物を対象とする有機化学の一分野と言えなくもない。


英語版ウィキで物質のことをマターと呼んでいることに新鮮な感じをおぼえた。
言われてみればたしかにマターも物質だが、普通物質といえばサブスタンスという英語が思い浮かぶ。
化学が物質をあつかう科学だとすれば、その対象となるのは化学物質であり、それは通常ケミカル・サブスタンスと呼ばれる。
サブスタンス(物質)と呼べば済むものをマター(事物)と呼ぶのは、化学屋さんの一種の衒いみたいなものではないかと思う。
むしろマター全般をあつかうのが物理学で、その中でサブスタンスに特化したのが化学なのではないかと思ったりもする。
物理学は森羅万象、ありとあらゆる形而下的な事物や現象を扱う。これに対して形而されていないもの、こちら側から言うと、いまだ認識されていないものは、形而上学、哲学の対象世界に入る。


考えてみると「医学者」というのも怪しい商売で、いっそ「人間相手の生物学者です」と名乗ればということになる。もっと露骨に言えば、「医者の免許持っている生物学者です」という話だ。
たまに医者のアルバイトするから、普通の生物学者より実入りは良い。たいていは学位取るまでの「学者」で、その後は博士号のある医者として金を稼ぐことになる。少なくとも普通の生物学者からはそう見られている。
それが素人の前に出ると、とたんに偉そうにふんぞり返る。そして御大層な生物学者のフリをする。
困るのはこういう連中が教授会の主流となるから、「医学は理数系だ」と主張して、生物と人間の見境もつかないような医学者や学生を集め、育てることになる。731部隊は目前である。