『ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書』という映画を見てきた。
うーむ、これほどまでに真相は明らかになってきたのかと感動を覚えた。
じつは1990年ころにウォーターゲート事件については勉強したことがあって、その成果がウォータゲート事件関連年表になっている。

帰ってきてから、その年表を読み返してみたが、今日の映画が与えてくれた情報のほとんどは90年ころには明らかになっていなかった。
どちらかといえば鉛管工グループの民主党本部忍び込み事件のほうが本流で、たしかにニクソンを追い込んだのはそちらの方なのだが、この一大スキャンダルの本流はトルーマンからアイク、ケネディ、ジョンソンへと至る、ベトナム干渉の歴史なのだ。

当時なぜ私がウォーターゲート事件にここまで首を突っ込んだかというと、鉛管工グループがそっくりそのままケネディ暗殺グループであり、もっとさかのぼるとキューバ反革命グループであるからだ。

この視点は当時としては斬新であったから、それなりにネット社会での注目を集めたものだ。

しかし本日スピルバーグの映画を見ると、それは「やり口」の卑劣さであって、15年にわたり米国国民に隠し世界の人々を欺いたベトナム侵攻作戦の本質的な汚さに比べれは、枝葉末節のことだったのである。
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     ワシントン・ポストの記者を相手に演説するグラハム

スピルバーグの映画は、いつものことだが、掘り下げは浅く技術的な巧みさと制作予算の豪華さだけが浮き上がる。レッドフォードの「大統領の陰謀」のかっこよさには到底及ばない。

そういうわけで見終わった後の感想は正直すごいというほどのものではなかった。

しかしちょっと感想文を書いておこうと思って、自分の年表を開いた途端、それはまったくの間違いだということが分かった。

この映画のエピソードのほとんどは1971年の前半の期間に集中する。それらの話はウォーターゲート事件の始まる前のものと認識されてきた。しかしそれは前奏曲ではなく、第一楽章そのものであった。
私の年表に記載されているのは以下の行である。

1971年
3 ワシントン・ポスト紙のアンダーソン記者,カンボジアの秘密爆撃を指示した国防総省の秘密文書を暴露.国防総省はドナルド・スチュアート首席捜査官を中心に漏洩元の調査に乗り出す.
6.13 ニューヨーク・タイムズ,ランドコーポレーションの職員でキッシンジャーの元同僚ダニエル・エルズバーグの漏洩した,国防総省の秘密調査の内容を暴露した「ペンタゴン・ペーパーズ」の掲載を開始.
7 アーリックマン首席補佐官,エルズバーグに関する特別調査班を編成.責任者としてヤング補佐官とエージル・クローグ補佐官を任命.ヤングとクローグは行政府ビル地下に本部を設営.オフィスのドアに「鉛管工」の看板を掲げる.元CIA諜報員でチャック・コルソン補佐官の部下ハワード・ハントと元FBI捜査官のゴードン・リディーがスタッフとして参加.
7 ニューヨーク・タイムス紙,SALT交渉に関する米国側の譲歩の内容を暴露.情報源はデジタル情報中継センターに勤務する陸軍下士官スティーブン・リンガー.
9 鉛管工グループのハントとリディー,エルズバーグのかかりつけの精神科医ルイス・フィールディングのオフィスに侵入.実行犯はピッグス湾参加者のフェリペ・デ・ディエゴ,CIAの航海士として350回以上もキューバに侵入したエウヘニオ・マルティネス,元CIA職員のバーナード・バーカーの三人組で,いずれもハントのマイアミにおける手下.
というレベルの情報しか流布されていなかった。

このときはまだボブ・ウッドワードもディープスロートもまだ登場していない。

事件はまだウォーターゲート事件ではなく、エルズバーグ事件であったのだ。

とりあえず、もう一回ウォーターゲート事件を勉強する必要がある。それも一連の流れを、権力による盗聴事件として捉えるのではなく、ベトナム戦争の本質暴露事件として把握する必要があるようだ。

メリル・ストリープは名演だ。一人の英雄のエピソードを、一人の女性のエピソードとしても演じきっている。

女性も土俵に上げろと主張した宝塚の女性市長と相通じるものがあるが、それよりはるかに強い。厳しいリスクテイクをしている。周りもしっかりと支えている。

そう簡単に比べる訳にはいかないが、とにかく宝塚市長さんにはぜひこの映画を見て、じっくりと考え込んでほしいと思う。