割り箸から見た環境問題 2006」というファイルがあって非常に面白い。
環境三四郎というペンネームで書かれているが、東大駒場の教員と思われる。
面白いと言いつつもPDFファイルで43ページにわたる。5分で読めるように要約して紹介する。興味ある方は本文をどうぞ。

はじめに
1 章 割り箸の生産
2 章 割り箸の流通
3 章 割り箸の消費
4 章 割り箸の廃棄
5 章 割り箸論争の整理
6 章 考察
7 章 資料・参考文献

という構成で、言うまでもなく第5章が主題部分、そこまではいわば序論ということになる。
そんなつもりで取りかかって欲しい。

はじめに
1.我が国において割り箸の「存在感」はきわめて大きい。
それは割り箸問題への市民の関心の深さとして現れている。
2.それは外食文化の発展とともに市民にとって馴染み深いものとなっている。
それと同時に、有用期間の短さ、使い捨て率の高さ、代替箸の存在などが、実際以上に「もったいない」感を刺激する。
3.2005年、中国から日本に輸出される割り箸が一斉に値上げされた。また、これを機会に割り箸が純粋に(中国の)森林を破壊していることが明らかになった。 
これにより割り箸を止める方向のインセンティブが働いている。


1 章 割り箸の生産 
原材料: 主にエゾマツ・アスペン・シラカバである。高級料理店ではスギ・ヒノキも使われる。タケは割り箸より串としての用途が広い。
高級割り箸はさほどの環境負荷になるとも思えないので割愛する。
主たる生産地: 98%は中国(旧満州)で生産されている。もともと生産性が低く放置されてきた木材を伐採するため、植生破壊負荷はシビアである。
なお日本の割り箸生産は80年代に激減し90年代に崩壊した。
間伐材の利用: 間伐材といえども国産で、高価格。間伐材ゆえの品質不良。しかし企業PRにはなる。

2 章 割り箸の流通
年間消費は250 億膳。一人あたり200膳と言われる。その 98%を輸入割り箸が担っている。事実上中国が独占しているが、2005年には様々な措置により価格が5割増しとなった。(あまり実感はないが…)

3 章 割り箸の消費 
最初に日本における割り箸の歴史がかんたんに触れられている。
江戸時代中頃から竹製の割り箸が使われ初め、そば屋などで利用されていた。
1877(明治10)年に、奈良県の寺子屋教師である島本忠雄によって、木製割り箸が開発された
大正時代には衛生箸という名で食堂などにおいて広く利用されるようになった。
太平洋戦争直前には50億膳に達したが、戦時中割り箸は禁止された。敗戦時はほぼゼロに落込み、回復には15年を要している。
順調に消費を拡大したが、80年代後半から消費が伸び悩みジグザグ傾向が現れているのは割り箸論争の影響であろう。
ついで割り箸の最大の長所である、清潔・衛生についていくつかの保留点が触れられる。
最初の報告が1994 年度の東京都立衛生研究所によるもの。43 点のうち製造国不明の割り箸6点などからら防かび剤が検出されている。
また、2002 年度の検疫所における検査で、中国産割り箸 32 件中 7 件から二酸化硫黄が検出された。漂白用に用いられたものであろう。

4 章 割り箸の廃棄 
申し訳ないが、読んでも暗澹たる心持ちにさせられるばかりなので省略。
率直に言えば紙おむつの再利用を考えたほうがはるかに生産的だ。

5 章 割り箸論争の整理 
ということで、ここからが勝負どころになる。すこし詳しく紹介しておきたい。
著者によれば、主な割り箸論争には3つあるという。
割り箸論争の口火を切った 1984 年の論争、特に自然保護との関係から論争がさらに過熱した 1989・1990 年の論争、そして割り箸業界側からの反論が強く押し出された 2000 年の論争の 3 つである。
さすがは割り箸問題専門家である。

5.1 1984 年論争 
発端は林野庁林産課長の発言である。
朝日新聞の「論壇」欄において、三沢毅林産課長が「割り箸は木材資源の有効利用法」と主張した。

原材料が低利用材であること、地域経済に貢献、森林資源の育成に貢献を挙げている。

2週間後に同じ「論壇」欄で日本自然保護協会の金田平理事が反論した。

反論骨子は、自然林の採伐であり、主力が輸入材であることを挙げているが、もっとも強いインパクトとなったのが「森食い虫」という呼称であった。

この議論への判断は、実態の把握を必要とする。そこで朝日新聞が実態調査を行った。

結果、割り箸の用材は低利用材ではない、インドネシアの割り箸は森林危機の一端を担っているなど、全体として「緑」浪費論を支持する論調であった。

5.2 1989・90 年論争
第1段階
1989年 「世界自然保護基金」が、日本の割り箸使用は熱帯雨林破壊の要因の1 つだと声明した。
日本環境保護国際交流会が塗り箸キャンペーンを展開。英文テキストを発刊する。
第1章「割り箸という無駄使い」、第2章「ペナン族の苦難」、第3章「消滅する熱帯林」と題されている。
役所の食堂などで割り箸廃止の動きが広がる。
第2段階
林野庁と業者は対抗キャンペーンを張る。議論は熱帯林との関係に集中。南洋材に占める割合は0.02%にすぎない、用材はもともとマッチやパルプとして使い捨てられるものと主張。
業者の危機感を背景に、反論はやや感情的になり、「使い捨てが問題ならティッシュこそ問題だ。OA 用紙を大量に消費している役所や企業によるキャンペンは偽善だ」と拡散する。
第3段階
市民グループによる再反論も展開されるようになった。市民感情に寄り添う表現になったのが最大の特徴。
「熱帯林、森林破壊だから全廃せよ、といっているわけではない。…モノを使い捨てて顧みなくなった日本人の習慣を、その気になれば使わずに済む割り箸を通じて見直そうというのが、運動の趣旨」(市民グループ「割りばし問
題を考える会」)
ダイエーが間伐材の割り箸を開発し、予想外の売れ行きを見せた。
これは議論が「良い」割り箸と「悪い」割り箸があるという形で収斂しつつあることを示した。
「割り箸文化」問題では、割り箸が日本の伝統文化の一環でもあり、高度成長期に5倍も増えたという「使い捨て文化」の象徴でもあることの認識が共有された。

5.3 2000 年論争
これは私も知らなかった論争である。
石川県の輪島市が「ノー割りばし運動」に取り組んだ。これに対し奈良県の吉野製箸工業協同組合(以下組合)が危機感を擁き、公開質問状を発した。

組合は「吉野割りばしは、スギ、ヒノキの間伐材を使っており、環境にやさしい製品だ」と主張。
これに対し、輪島市は「使用を自粛しているのは外国材が大半を占める安いはし。吉野の高級箸を敵視しているわけではない」と回答。
最終的には、伝統の「はし文化」の共存共栄で合意。

6 章 考察
割り箸をめぐる論点を整理すると以下のようになる。
①割り箸と森林破壊との関係
これについては、厳密には割り箸の是非ではなく、割り箸の用材として何を使うかの選択をめぐる問題である。
熱帯雨林の破壊につながるような用材選択は非であり、国内の間伐材を用いるなら是である。
ただし後者はほぼゼロ、というのが実態である。
なお、中国の割り箸企業が国内資源の劣化を受けてロシアからの木材輸入を増加させているという報道は注目すべきである。
②割り箸と地域経済との関係
割り箸産業には一定の経済効果があるが、それを以て割り箸は必要であるとまでいえない。
極端な例で言えばコカやケシの栽培は地域に経済効果があってもアウトである。
③割り箸と文化との関係
割り箸が批判されるのはムダ使い文化に根ざすと考えられるからである。
資源の無駄づかいが批判されるのは、資源の有限性が論拠となっている。無限に使える資源、ある程度の持続可能性を持つものであれば、無駄使いとの批判は当たらないかもしれない。
石油という有限の資源を原料とするプラスチック箸より割り箸の方が自然に優しい、という理屈が成り立つかも知れない。

6.4 まとめ

割り箸について考えていく際には、議論の論点は何なのか明確にした上で議論していく必要がある。そうでなければ、お互いの主張が繰り返されるだけで、すれ違うままに終わってしまう。
このことは環境問題全般に通じるものである。