1.希少糖と酵素
商売の話や教育の話、香川県の振興の話題はじつはどうでもよいのである。
希少糖という言葉が初めて聞いたものであること。それが酵素の働きにより形成されることに、何かメビウスの輪の如き違和感を感じたのである。
生命の起源の勉強の際には、生命要素の最初のコンポーネントとして炭水化物(有機物)が出てくる。これに窒素がくっつくことでアミノ酸→タンパク質・核酸ができる。
タンパク質はとりわけ動物の基本的構成要素であるだけでなく、生命現象の媒介となる酵素のコンポーネントとなっていく。
生命活動(エネルギー代謝)においては炭水化物の同化と異化が規定的な役割を果たすが、その多くの段階に固有な酵素が絡んでいる。
おそらく希少糖というのは生命活動の主流としては採用されなかった糖生成過程なのであろうが、なぜ選ばれなかったのか、なぜ選ばれなかったにも関わらず消滅しなかったのか、ということは考えるだけでも楽しい。
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2.何森さんの経歴
何森健さんは1943年(昭18年)の岡山県生まれ。65年に香川大学農学部卒業。その後、大阪府立大学大学院を修了されている。
その後香川大農学部で一貫して微生物研究に取り組んできた。
そして、大学構内の土から採取した微生物から偶然、それまでにない酵素を見つけた.
その酵素を反応させて果糖から希少糖を作り出す。
1984年に希少糖の一種である「D―タガトース」の生成に成功。その後も次々と希少糖を作り出し「D―プシコース」の生成にたどり着いた。
2000年に果糖から量産する技術を確立した。バイオリアクターを自作するなど工夫を重ねた結果である。

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この研究過程で、希少糖類の生成過程を一般モデル化した「イズモリング」も発表している。
3.赤旗「学問はおもしろい」
というような背景がある程度わかったところで、本日の赤旗記事。「シリーズ 学問はおもしろい」の本人インタビュー。
まずは会社の代表取締役らしく、こんなCMめいた台詞から始まる。
甘いのにカトリーはゼロの等、夢の糖と言われている希少糖…
希少糖は「自然界に存在する量が少ない単糖とその誘導体」と定義されています。
まぁ、ここまで聞くと「学問はおもしろい」という見出しから読み出した人は引いてしまうでしょう。
私も実はそうだったが、田舎大学ゆえの研究の苦労話を聞くうちに話に引き込まれていく。話の引き出しが三段もある人だから油断がならない。

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ミレーの「落ち穂拾い」に例えて、田舎大学の研究者である自分を、刈り残した落ち穂を拾う貧しい農民に擬する。
もう一つは「落ち穂」が実は落ち穂ではないということ。52枚のトランプのカードの1枚であり、それがなければゲームが成立しないことという発想だ。
ただしそれには52枚揃わければ成り立たない「ゲーム」の論理を導かなければならない。
最後の一つが、希少糖研究は実は生物学(微生物学)に根ざしているのだという2階建て理論。つまり一つの希少糖の生成には一つ以上の酵素が必要であり、希少糖探しは酵素(生命)探しなのだということだ。
たしかに希少糖でお金を儲けるより、農学部の食堂裏に空いた思わぬ扉から希少糖を生み出す酵素の世界へと分け入るほうがはるかに面白そうだ。
*何森さんは1992年、香川大学の農学部食堂の裏手から新酵素「DTE」を見つけ、これによって希少糖「D・プシコース」を生成したという。