ベネズエラ医療危機の真実が叫ばれていますが、作られた危機だけが声高に叫ばれ、本当の危機は無視されています。これはその一端を報告した記事です。

CORAL WYNTER
Barquisimeto
September 25, 2017

この記事は、グリーン・ウィークリー・ウィークリーが、ララの州都バルキシメトで「命のための女性運動」をになっている活動家カトリーナ・コザレクから取材したものです。

今年の初めから、ここララ州で出産時に76人の女性が死亡しました。これはベネズエラの中で最悪の数字であり、他の国の死亡率の3倍にものぼります。

この州は貧しい黒人が多く住んでいますが、医者も看護師も、黒人女性の扱いは本当にひどいものです。彼らは女性の尻を叩き、名前を呼び捨てにしてこう言います。
「叫ぶんじゃない。お前がセックスをしていた最中にはそんなに叫んでいなかったろう」
これらは、産科病棟のホラーストーリーの一部にすぎません。
本当なら医師はこんなことをしたら免許を失ったり、停止処分を受けたり、刑務所に行く可能性もあります。しかしそのようなことは、これまでのところ起こっていません。

ベネズエラ医療危機をもたらした犯人
ベネズエラの保健システムは州単位に「分権化」されています。まずこのことに注意することが重要です。
保険医療のための資金と、医薬品などの供給は国からまわされて来ます。しかし、それにもかかわらず、州の健康に関する行政上の決定はすべて地方自治体が管理統制しています。
ここララ州の場合、知事は野党のアンリ・ファルコン、州保健部長も野党のルイ・メディナです。
この州の保険医療はひどいものです。薬の不法取引に関わる地下のネットワークが形成されています。それがマドゥロ大統領に対する経済戦争の一環を担っています。
ほとんどの医師や看護師は、上層階級に属しています。だから政府が社会と健康管理システムをどのように運営すべきかについて、私たちとは全く異なるビジョンを持っています。圧倒的に、彼らは野党=ララ州政府を支持するのです。

ベネズエラ人医師が抱える道徳的問題
看護師や医師は、例えば帝王切開を行うと称して、公立病院から出産用医療セットを譲渡するよう要求することがよくあります。しかし多くの医師たちが、その出産用医療セットをヤミ業者に横流ししてしまいます。
ではどうするか。医者や看護師は、患者に「あなたは自分の薬を見つけなければならない」と伝えます。そうすると患者・家族は薬局に行って必要な器具や薬を買い求めなければならなくなります。「まさか、ウソでしょう」と思うでしょう。
しかし本当です。カラボボ州(ララ州の隣)のバレンシア中央病院の病院長は、薬や器具をヤミ業者に横流ししたのがバレて逮捕されました。
メリダ州の病院ではさらにおぞましいことがありました。
ある看護師はある日、街頭での衝突で負傷したチャベス支持者が担ぎ込まれました。このとき一人の看護婦はこの患者に致死的な薬液を注入するよう強制されたといいます。

女性グループが立ち上がった
コザレクらバルキシメトに住む女性グループはこのような状況を打破するために立ち上がりました。彼女たちは、出産キットを医師と看護師を迂回して確保するためのシステムを作り上げました。それは「女性のための地域共同防衛隊」と名付けられました。
それは病院の労働組合が仲立ちするものです。帝王切開の症例が発生したとき、女性グループからの連絡を受けた労働組合が、当局に出産キットの払い出しを代理申請します。キットを受け取った労働組合から患者に手渡すというシステムです。
「私たちはこのシステムによっていくつかの正義をもたらすことができました」と、コザレックは述べています。「病院の労働者と一緒に、私たちはこの状況をコントロールすることができるようになりました」
この社会実験が行われたのはバルキシメト郊外La Carucienaの小規模公立病院でのことです。それは公立病院ですが、死亡事故や不審死の大部分が発生する州都の主要病院ではありません。
コザレックは振り返ります。「これは簡単なプロセスではありませんでした。医者たちはこの試みに反抗しました。先週には、病院の専門医2人が退職すると脅かしてきました」

州幹部を巻き込んだ大泥棒作戦
保険医療の戦線での「戦争」で使用された別の戦術は、泥棒作戦です。すなわち大型・高額医療機器の盗難です。
これらの機器は公的病院のためにチャベス政権が購入したものでした。しかしそれらを現場で使用するのは医師たちです。
医師の多くは個人開業医を兼ねていたり、あるいは転職して開業するつもりです。このような場合、医師は、個人開業のためにそれらの装置を盗むことが往々にしてあります。
何人かの医師は窃盗がばれて刑務所に行きました。しかし多くの医師はうまいことそれを手に入れました。もっとひどいのはそれを転売することです。
しかしそれは盗品買いがいないと成立しません。その先頭に立ったのが野党政治家です。
ララ州の知事も州都バルキシメトの市長も野党所属です。彼らこそが医薬品や医療機器の闇市場ネットワークを構築する主役となったのです。
全国女性連合の闘い
コザレックたちは「全国女性連合」(Unamujer)に結集して、これら野党勢力と対決することになりました。
「私たちは2015年に記者会見を開きました。ララ州での妊産婦の死亡率は高い、そしてさらに上昇しつつあると主張しました」
「私たちは州政府前の広場まで行きました。私たちのビデオカメラが撮影を開始した時、近くの野営事務所から50人ほどが出てきて、私たちに石を投げ始めました。私たちは20人くらいしかいませんでした」
「私たちは、投石者のうちの何人かが知事の有給秘書であることを確認しました」

このあと最後の一言を誰かに聞かせたい

これが現実です。しかしいつものように、この現実はどれも国際的なマスメディアで語られていません。
その代わりに富裕層相手の小商売を営む「庶民」が三段抜きの記事で取り上げられる(しかも外信の受け売り)。これでは創刊90年の歴史が泣こうというものでしょう。