ハイパーインフレの原因についてはベネズエラ大使館は下記のように説明している。正確には下記のように説明した論文を紹介している。

日本語訳がややわかりにくいが、英語を読むよりはまだ良いかと思って読み始める。

1.おおっぴらなダフ行為

ベネズエラは為替相場は固定されている。昔の日本のように1ドルが360円なのだ。ところが公定レートあるところかならず闇レートが存在する。

闇レートは、行列に横入りするようなもので、そもそも犯罪であるが、強烈な需要がある場合は必要悪ともなる。

闇レートはその成り立ちからして、それほど大きな規模ではない。したがって乱高下はするがだからといって表経済にはさほどの影響はないはずである。

たぶん、そういう常識はもはや通じなくなっているのであろう。

文章は最初から意味がわからないが、

政府はGDPの35%を年間輸入可能量とし、これに相当する外貨を輸入業者に割り当ててきたらしい。ところが輸入業者が輸入した商品をいくらで売るかは輸入業者に委ねられている。

そこで輸入業者はこういうことをする。

輸入に必要なドルを確保するときは、公定レートで政府から受け取る。しかしそれを販売するときは闇レートに換算して値付けして、販売するということである。

ごく普通に聞けば、これは犯罪である。どのような価格設定をしようと売れなければ仕方ないので、そのへんは普通には(ルイビトンを百ドルで売ろうが千ドルで売ろうが)市場の論理であるが、ドルの割当というのは誰でも獲得できるわけではないので、そこには競争原理は働いていない。

これだと、許認可をめぐる関係の不透明性が強く疑われ、元売りから小売に至る流通のいたるところに恣意的契機が存在するであろう。

ついで論文は、状況をわかりやすくするために例を上げているが、そこにはありえない話が展開されている。

自動車のスペアを輸入する会社が、国から公定ルート、つまり1ドル=10ボリバルで外貨を受け取って製品を購入したとする。(文章では公定ルートではなく「優先的な為替レート」と書かれている)これを国内で販売するときには、闇ルートである1ドル=1,000ボリバルを使用する。

もうこれだけで唖然とする話だ。

しかし話はこれで終わらない。話はさらに進む。


2.ヤミ社会が金融を仕切る

これは以前より続く状況である。しかし2006年以降、事情は変わった。

ブラックマーケットでの推定為替レートが一般社会に拡散されるようになった。3つから4つのウェブ・サイトが毎日、ヤミ為替レートを公表するようになったのだ。

このレートは、実体経済の動向にも、外貨準備の水準にも、通貨ボリバルの供給量にも応じていない。それは恣意的で、操作された、不均衡なレートである。

論者はこう言って嘆く

2006年以降、為替レートの変動理由とされてきたのは、変わりやすい政治である。ベネズエラで何らかの選挙プロセスの日程が示されただけで、この種の為替レートは急騰し始める。選挙が終わると、変動はまだ収まりはしないものの緩やかとなる。同様の動きが、政治情勢に合わせて観測される。

3.ちょっと私の意見

私はここまでの論者の為替相場論には賛成できない。気持ちとしては分かるが、為替相場というのはそういうものだからである。方程式の解ではなく生き物として扱わなければならない。それがどう動くのかをよく研究して対応していくしかないものだ。

固定レートなど一時の杭にしか過ぎないので、それを永久的なものと捉えるのは許せない間違いである。

ただし、投機資本の介入による売り浴びせなどに対しては、国際協調のもとで一定期間の為替レートの凍結も必要となる。ただしそれは97年のマハティールのごとく、国家主権をかけた大勝負となる。

ベネズエラにはそのような選択肢はないから、いずれデノミと変動相場への移行が必要になるだろう。

4.為替レートとインフレ

為替レートの変動を経時的に見たグラフがある。以下の説明がある。

次のグラフを見ると、「違法な対ドル闇レート」の政治的なサイクルがわかる。2012年から変動が激しくなっており、さらに2015年12月の国会議員選挙直前にはさらに大きく動いている。

これらの影響とダメージがインフレ率に及んでおり、2012年8月から現在までで14,640%と犯罪的に上昇している。

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この為替操作は、物価上昇を引き起こすだけではない。生産水準、したがって雇用水準にも影響する。

5.べつに「供給ショック」でも何でもない

著者はこのあと、次のような議論を展開していく。

この為替操作が経済を歪めるメカニズムは、供給ショックとして知られており、次のように起こる。

1.違法なマーケットで為替レートを不均衡に操作する。

2.輸入を行う大規模な独占企業や寡占企業が、操作され違法にウェブ公開された為替レートを参照して国内価格を決定する。

3.経済の中で生産・輸入されるあらゆる財やサービスのコストが上昇する。

4.コスト上昇に伴い物価が上昇する。つまり誘導されたコスト増による、誘導されたインフレである。

5.労働者の実質的な給与が減少する。つまり、家庭の購買力が低下する。

6.家庭は家計の見直しを余儀なくされ、優先順位がさほど高くないもの(娯楽、衣服、靴等)から順に、多くの財やサービスの需要を縮小させる。インフレの程度と場合によっては、生活必需品の必要量まで縮小する。

7.需要の縮小により中小規模の事業者、特に生活で優先順位があまり高くない財・サービスを提供する事業者が影響を受ける。

8.これら事業者は従業員者数を減らす必要に迫られ、雇用水準に影響が出る。

9.家庭の購買力はさらに低下する。これはインフレ率の誘導された上昇だけでなく、失業にも起因するものである。

10.経済に多大な影響を与える悪循環が始まる。違法な為替レートの犯罪的操作により、物価が急騰し、生産が減少し、中小規模事業者の損失、ひいては失業に繋がるサイクルである。

わかったようなわからないような話である。

たぶん、こんな「風が吹けば桶屋が儲かる」式の話は意味がない。

要するに新手の犯罪なのだ。経済学的事象ではないのだ。主犯は大手輸入業者であり、闇レートの作成者ではない。
大手輸入業者は、金融官僚のおろかさにつけ入り、固定レート制度の弱点を利用し、闇レートの作成者に値を吊り上げさせ、その値段で商品を売りまくっているのだ。にも関わらず財務警察も独禁制の運用者も知らぬふりしているのだ。こんなにひどい犯罪はないのだ。
6.犯罪は罰せられなくてはならない

基本的に相互の善意に基づいて成立している商契約を、一方が明らかに悪意を持って裏切っているのだから、契約は破棄されるべきだ。他に代替業者がいないのなら、仕方がないので条件をつけて再契約するしか無いだろうが、その際にはいったん預けたドルをドルのまま返却させるべきだ。あるいは闇レートの現在の時価(ボリーバル)で返納させるべきだ。

わからないのだが、生活必需品の海外での購買と国内での販売を業者に託す時点で、入札は行われているのだろうか。契約内容は公開されているのだろうか。

論者も最後にこう書いている。

国、つまり政府だけでなく国が、外貨割り当てを受けている大規模な輸入業の独占企業に対してより大きな統制と管理を敷くことが急務である。国民が外貨割り当てに関する情報について、どの企業が割り当てを受け、どのような製品を輸入するのにどれだけ費やしたのか、どのレートで外貨を受け取ったのか、知ることが重要である。輸入事業者に対して、国からどのレートで外貨を受け取ったのかを包装に明記することを課した公正価格法第6条を守らせる必要がある。緊急に独占禁止命令を適用しなければならない。

この記載は十分正しい。だから以下の結論は逆に納得がいかないのである。

ベネズエラ国民に対する大規模かつ犯罪となる違法為替レートの操作と戦うことは、今日では単なる経済課題ではない。平和と民主主義の安定を確保する手段であり、平等と社会的正義のモデルに向けて歩み続けられるという希望である。

私にいわせれば、「違法為替レートの操作と戦うこと」は、実はどうでも良いことなのだ。むしろ大規模輸入業者の不正を取り除いたあとでは、「必要な悪」だとさえ言える。このような不正の土壌を形成したのが、不自然・不必要かつ長期にわたる固定為替制度なのだから、経済担当者はそのことを肝に銘じるべきである。