「リーマン・ブラザーズ」という会社
もう潰れた会社だし、悪いことばかりした会社だから、別に憶えておかなくてもいいのだが、メモ程度に説明しておこう。と言っても、ウィキペディアの抜き書きみたいなものだが。
1.この企業かなりデカイ
ウィキペディアによれば
資本金 | 224億9000万ドル |
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売上高 | 590億0300万ドル |
総資産 | 6910億6300万ドル |
倒産時の負債総額 |
6,130億ドル |
円に換算すると、総資産70兆円ということになる。
銀行の信用というと総資産勝負みたいなところがある。日本の銀行は無理やり3つに統合したが、リーマンはその三大銀行に次ぐ位置に来る。
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ちなみに日本の大企業の総資産は、トップのトヨタ自動車で35兆円だから半分にすぎない。
位 | 会社名 | 総資産額 (百万円) |
業種 |
---|---|---|---|
1 | トヨタ | 35,483,317 | 自動車 |
2 | NTT | 19,653,689 | 通信 |
3 | 東電 | 14,989,130 | 電力 |
4 | 三菱商 | 14,410,665 | 商社 |
5 | ソニー | 14,206,292 | 電気機器 |
6 | ホンダ | 13,635,357 | 自動車 |
7 | 日産自 | 12,805,170 | 自動車 |
8 | 三井物 | 10,324,581 | 商社 |
9 | 日立 | 9,809,230 | 電気機器 |
10 | オリックス | 8,439,710 |
一企業の倒産にすぎないと書いたが、。それだけでも相当の余波があって当然なくらいの巨大さではある。
創業からの経過
1850年、ドイツ南部からアラバマ州モンゴメリーに移住したヘンリー、エマニュエル、マイヤーのリーマン3兄弟が店を開いたのが始まりだ。リーマン3兄弟は“Lehman”という名の通りユダヤ系だ。
2月革命の直後だから、ドイツでは住みにくかったのだろう。マルクスもこの頃亡命し、パリ、ベルギー、ロンドンと転々としている。その後ドイツには帰っていない。
その頃のアラバマといったらど田舎だ。北部では工業が発展し、黒船に乗って日本まで出向いていたが、南部は辺境地帯で、インディアン刈りで名を馳せた「将軍」たちが綿花農場主とグルになってボス支配していた時代だ。
彼らの開いた日用品店「H.リーマン商店」は農場主たちの御用達となった。彼らは現金で払う代わりに綿花を持ち込んだ。リーマン兄弟は綿花取引に経営の重点を移し大成功した。南北戦争を経て、1870年にはニューヨーク綿花取引所が開設された。リーマンもニューヨークに拠点を移した。何かと人種差別のある南部よりユダヤ人の一大集積地であるニューヨークのほうがはるかに商売はしやすかっただろう。
リーマン兄弟社はゴールドマン・サックスの支援を受けてニューヨーク証券取引所の会員にまで上りつめる。ここまでが成功のレジェンドだ。
リーマン兄弟社は綿花取引ばかりしていたわけではない。第一次大戦後のブームに乗って信用取引や投資コンサルティングにも進出していった。そして29年、大恐慌のさなかに投資業務を分社化し、リーマン・コーポレーションを設立した。後にこれが斜陽の綿花取引に代わりリーマン・ブラザーズ本体を担うようになる。
1984年になって、リーマン・ブラザーズに試練の時が訪れる。会社の内紛から営業不振に陥り、アメリカン・エキスプレスに吸収合併されてしまった。その後の10年間、アメリカン・エキスプレスの一部として存続したが、94年にふたたびリーマン・ブラザーズ・ホールディングスとして独立をはたした。
サブプライムローンの大ヒット
とはいうものの営業基盤は脆弱で、放置すればいずれふたたびM&Aの荒波に飲み込まれてしまう。そこで社運をかけたのがサブプライム・ローンの証券化だ。
ここがミソなので少し詳しく説明する。少し面倒くさいので、順番に説明していく。
アメリカでの住宅ローンは住宅ローン会社が行う。住宅ローン会社には二種類あって、ひとつは純民間、もう一つは政府が援助するローン会社だ。民間会社には違いないが住宅金融公庫と多少似ているところもある。
民間の住宅ローン会社は、日本のように銀行ローンを又貸しするだけの存在ではない。独自に融資資金を集めてくる。それが「モーゲージ証券」というものだ。住宅ローン会社が優良なローンから怪しげなローンまで多数のローンを束ねて、「証券」という形で商品化する。投資家は一定のリスクを取る形でその証券を購入することになる。もちろんその「投資家」の中に銀行もふくまれる。
「モーゲージ証券」を組織したのは住宅ローン会社だが、機関投資家やヘッジファンドなども、その高い利回りを求めて、その「モーゲージ証券市場」に参加してきた。ここまではわかりやすい話で、リーマンに限らずどの銀行もやっていたことだ。
リーマンのすごいところは2つある。一つは一般の投資信託の中に 「モーゲージ証券」を混ぜあわせた金融商品を開発したことだ。「モーゲージ証券」は別名「ジャンク(屑)債」といって素人は決して手を出さない仕掛けのものだ。それを混ぜた上で「多少リスクが高い投資信託」のような装いを凝らして発売したわけで、これだけでも立派な詐欺だ。
(ジャンク債を利用したもう一つの利殖手段が、97年にLMTCの編み出した方法だ。これは高度な知的技術を駆使した本格派だが、リーマンの方は知性などおよそ感じられないチンピラ詐欺師の手法である。案外そちらのほうが騙しやすいのかもしれない)
もう一つ、さらにすごいのは、「モーゲージ証券」でもとびっきり危険なサブプライム層へのローンまでも組み込んだことだ。「サブプライム」という言葉自体が詐欺的な用語である。サブというのは、ふつうは“副”とか“準じる”とかいう意味だ。プライムというのは“優良”ということだから、すごく優良ではなないが、まずまずという意味にしか採れない。
ところがサブプライムの定義を具体的に見てみると
①所得に対する借り入れが50パーセント以上、②過去1年間に30日間の延滞が2回以上、
③過去5年以内に破産経験
となっている。「準優良」どころではない、「最悪」だ。日本なら間違いなく自己破産だ。まさにJunkyとしか言いようがない。これならサラ金会社に投資したほうがまだましだ。
こんな連中にカネを貸したらどうなるか。それが下の表だ。
サブプライムローンの延滞率 |
||||
04年第4Q |
05年第4Q |
06年第4Q |
07年第1Q |
08年第2Q |
9.83% |
11.61% |
14.44% |
15.75% |
18.67% |
そんなもの要らないという人の口にドル札を突っ込めば、結果はこうなる。
リーマンはこのような毒饅頭を混ぜ込んだ金融商品をハイリターン商品として売りだしたわけだ。それをスタンダード&プアーズやムーディーズが優良商品として保証したから、全世界で売れまくった。
破産の道へまっしぐら
起死回生を狙った詐欺まがいの戦略は大成功。リーマンは全米屈指の大銀行へと成長をとげる。しかしそれもつかの間、住宅需要がしぼむとあっという間に坂道を転げ落ちていく。
08年の第二Qには純損失が39億ドルに上った。株価は4ドル台にまで急落した。最後は韓国政府系の韓国産業銀行に身売りしようとしたがそれもかなわず、15日の破産・解体へと突き進んでいく。誰もそれを止めることは出来なかった。
最後にファルドCEOは個人のリーマン株をすべて売り抜けて逃げ去った。160年の歴史を持つ巨大金融機関がこの世から姿を消した。
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