しばらく、川村さんの文章(エッセイ)を読む日が続きそうだ。

最初は「ロゴスとパトス」という文章。

1.心/精神と脳との関わり

驚いたことに、心を脳から切り離して、脳の関連外のものと考えている頑固な人がいる。自然科学者の中にもそういう人達はいる。

困ったものである。

2.神経・脳の進化

細胞の量の増加、それにともなう質的転換としての細胞分化はこのように生物を進化論的にみたときに観察される。

このあと進化の弁証法が語られるが、やや古めかしい。

3.マウス脳の発生学

脳室の壁を構成する脳室層には神経幹細胞(マトリックス細胞)がある。当初は対称性分裂を繰り返す。

胎生11日以降、幹細胞は非対称性の分裂をするようになる。

その一部は脳室層に神経上皮細胞として残り、他方はニューロンに分化する。

ニューロンは神経核や皮質を作る場所に移動し、そこに定着する。

胎生16-17日以降、ニューロンの産生はピークを迎え、その後はグリアの産生にきりかわる。

4.すべてをDNAが決めるわけではない

ニューロンごとの行く先が決まっているわけではなく液性因子により誘導されるようだ。

5.ロゴスとパトスを扱うための課題

1)言語野の構成と言語による認知/認識の機構

2)扁桃体/海馬/視床下部/前頭前野皮質を含む広範囲にわたる脳の構成と機能と機構

のより広範な知見の集積が必要だ。

6.扁桃体が情動に関わる価値判断システムの中核

① 内臓感覚、味覚、平衡覚など原始的なものを含むあらゆる種類の感覚が脳幹および視床から直接入力する。

扁桃体は大脳辺縁系に属する古い皮質や視床下部と密接に結合し、情動神経回路の中心的な位置にある

魚類、爬虫類の段階では、扁桃体に脳の主座が置かれている。

7.ロゴスの主座は言語野

感覚・情報処理は、認知システムと情動システムという相互に密接に関連した二重の構造のなかで把握される。

言語(ロゴス)中枢や情動(パトス)中枢をを研究するためには、関連物質(遺伝子や蛋白分子)の相互の関わり合いを追求することが大事だ。


率直に言わせてもらうと、ロゴスとパトスとの対立というのはあまりに観念的である。

大体が、「対立物の統一」などというのはスターリン的に歪曲された疑似「弁証法」である。

弁証法は客観的な弁証法と主体的な弁証法に分かれる。車に乗っているヒトの弁証法とそれを見ているヒトの弁証法である。

客観的に見れば、基本となるのは存在と過程の矛盾である。過程は絶対的であり存在は相対的である。しかし過程はエネルギーであり存在(質量)を抜きに語れない。

そしてエネルギーはビッグバン以来拡散する方向にある。いわばエントロピーの拡大方向にある。

しかし主体的存在(生命)にとってはエントロピーは逆方向を向いている。主体が存在し続ける限り、エネルギーの有機化が進み構造が高度化する。

これは「主体」が宇宙全体の動きに逆らうエネルギーを基盤としているからである。

つまり、弁証法を規定する基本矛盾は、

第一にエネルギーのあり方を巡る存在と過程の矛盾である。

第二に宇宙全体の流れに反逆する有機化の流れと、それを押し流そうとする無機化の流れの矛盾である。

第三に、付加的であるが、生命体が同時に、滅亡する存在であり発展する主体であることの矛盾である。