一応聴覚について基礎的な知識を理解しておこう。

1.耳から神経へ

http://bunseiri.michikusa.jp/ というサイトに分かりやすい説明があるので、ここから拾って他の資料も少し加えていきたい。
ear

外耳は耳介と外耳道だ。鼓膜から奥が中耳になる。ここは基本的にはがらんどうの組織で、3つの耳小骨が鎮座している。デシベルを稼ぐところだ。

耳小骨が付着するのが蝸牛窓。ここから内耳になるが、聴覚に関係するのは蝸牛のみだ。三半規管は内耳に元からいる大家だ。

cochlea

蝸牛の断面で、上と下は共鳴箱。真ん中の蝸牛管が本体だ。ここに充填されたリンパ液が耳小骨からの振動を受けて波を作り出す。これを有毛細胞がそよぐことによって感知し、電流を発生する。リボン型マイクの原理だ。

2.蝸牛神経から蝸牛神経核へ

電気信号に変換された聴覚刺激は神経系を上行し始める。

これが寄せ集められて蝸牛神経となり、脳に送り出される。ここからが七面倒臭い。4回もニューロンを変えるのだ。

choden
1次ニューロン: 蝸牛から蝸牛神経核へ

2次ニューロン: 蝸牛神経核から上オリーブ核へ

3次ニューロン: 上オリーブ核から下丘へ

4次ニューロン: 下丘から内側膝状体へ

5次ニューロン: 内側膝状体から皮質聴覚野(第一聴覚野)へ

なぜそんなことをするのか分からない。多分聴覚刺激が関係各方面に配布されているのであろう。

ということは逆に言えば、聴覚刺激はかなり複雑・多彩なやり方で人体に受容されているのだろうと思う。

3.「内耳神経」について

これまで聴神経と言ってきたが、考えてみると、この言い方はどこから出てきたのか。

学生時代には内耳神経と習ったはずだ。

解剖学にはいくつかの語呂合わせというのがあって、掛け算の九九のように憶えさせられる。

12の脳神経もその一つで、

「嗅いで視て、動く車の三つの外、眼内舌咽、迷う副舌」というのだ。この内の「内」というのが内耳神経(第8脳神経)だ。

だから解剖のときは内耳神経と憶えたはずなのだが。

それに内耳神経を聴神経というのはほとんど間違いなのだ。内耳の二つの働きである蝸牛神経と前庭神経がたまたま同じ船に乗り合わせたに過ぎない。

これを聴神経と呼ばれたのでは、前庭神経の立場がない。

これからは蝸牛神経と呼ぶことにする。内耳神経という言葉にはあまり意味はない。内耳から出てくる神経だというだけの呼び方である。同じ船に乗っていると言うなら、顔面神経もあわせて3本セットで憶えておいたほうが良い。

神経というのは基本的には上下に走っているので、横断面にはあまり意味はない

4.外側毛帯という核付き伝導路

蝸牛神経の終点は蝸牛神経核、その後いったん交差して体側の外側毛帯に行く。いずれも三脳構造から言えば後脳である。交差するのは多分ステレオ効果を作るためであろうが、全部の神経が行くのだろうか。

外側毛帯というのは名前のとおり、帯であり基本的には街道であるが、その中に神経核が散在していて、めいめいが適宜休憩する形をとっている。東海道中で今夜は府中に泊まるか鞠子に泊まるか、宇津ノ谷峠を越えて岡部で頑張るかという具合である。

健康生活情報.comより転載nerve2_600


5.第一次聴覚中枢: 下丘(中脳)

外側毛帯を通り終えると中脳の下丘(中心核)に着く。ここまでは聴覚情報はほとんど生のまま送られるが、ここでかなりの下処理が行われる。

ひとつは、音の周波数弁別,音の高さ,音声言語,聴覚空間の認知など当座の使用には差し支えない形にブラッシュアップされる。

もう一つは、体性感覚,顔面知覚,視覚などほかの感覚入力とのすり合わせである。

下丘へは上行性と下行性,さらに下丘内から局所性に多様な入力があり,これらが統合的に処理されている。(脳科学辞典 ただし、とりあえず委細省略)

進化のある段階までは、下丘が聴覚中枢であったのかもしれない。この辺はより深く追究してみるべきだろう。


6.内側膝状体(前脳)

聴覚の旅はまだ続く。今度は視床の内側膝状体である。外側膝状体といえば視神経の中継地であるが、その内側に位置するということは視覚と聴覚の重要性を示しているのかもしれない。

脳科学辞典では次のように記されている。

大脳皮質聴覚野へ送る聴覚情報の選別が内側膝状体の主な機能であると考えられている。

要するに独自の働きはほとんどわかっていない、ということである。著者もこう言っている。

内側膝状体や聴覚野に至らずとも下丘までで基本的な聴覚情報処理はされている

…現在知られている知見を持って内側膝状体の担う聴覚情報処理機能を断定することは非常に難しい。

そして分かっているのは、大脳(聴覚野)行のフェリーターミナルだと言うだけだと告白している。

3つの亜核があり、腹側亜核がメインである。背側亜核と内側亜核は他の部位から修飾的な情報を得ている。

ということは毛帯→下丘から送られてきた原音にメーキャップを施して“音らしくする”ことに意味があるということになるのか。これは例えば音楽などでは重要な機能になるであろう。

ただし「内側膝状体内の亜領域同士の結合はない」とされているので、作業場というよりは倉庫に近い存在なのかもしれない。

この辺も、進化の目で見直して見る必要があるのではないだろうか。

7.大脳聴覚野

そこで次に川村光毅さんの「音楽する脳のダイナミズム」というページ。

周波数分析は中脳の下丘のレベルで完成します。間脳と大脳皮質のレベルでは、スペクトルの弁別がなされます。

第一聴覚野(コア領域)は各振動数に対応した単純な音をうけとります。この周辺の内側帯部→外側帯部→傍帯部では聴覚処理の内容が高められます。

ヒトの脳では、聴覚連合野の後方に連続して感覚性言語野(ウエルニッケ野)が存在し、聴覚野からたくさんの線維を受けています。
文章の性格上、情動と関係する神経連絡が詳述されているが、ここでは省略する。

なお、この文章に付された図はとても良い。(画面上を左クリックするとはっきり見えます)
視覚と聴覚の情報処理の流れ
とても良いというのは視覚イメージの流れが上手く整理されているからだ。とくに最終イメージとしての「形・動き・視空間」という三位一体はストンと落ちる。

右側の「聴覚仮説」についてはなんとも言えない。多少視覚イメージ構築プロセスからの強引なアナロジーと感じさせるふしもあるが、それ以上言えるだけの根拠がまだ持てていない。

ただ、視覚に勝るとも劣らない複雑な分析・統合システムがあることは間違いなっそうだ。