ともあれ、受賞あいさつ程度では流石にもの足りない。五十嵐啓さんの論文を探したが、日本語の文章はほとんどない。
やっと見つけたのが下記の総説
ライフサイエンス 新着論文レビューというサイトに掲載されている。

連合学習における嗅内皮質と海馬との協調的な神経活動の増強 (2014年6月4日)

要 約
① 記憶,とくに「陳述的な記憶」の機能は嗅内皮質により担われている.
嗅内皮質は脳皮質と海馬とのあいだの神経回路を通じて情報を橋渡ししている。
しかし記憶が形成される過程については不明である。
② 最近,嗅内皮質と海馬の神経回路が、(脳波上の)ガンマ波長帯の振動をともなう神経活動により相互作用していることが示された。
③ 今回の我々の研究は、学習中に嗅内皮質と海馬の「神経振動活動の同期」が増強されていることを発見した。(より細かく言えば、嗅内皮質の外側部と海馬のCA!遠位部)
④ さらにこの「同期の増強」が、個々の細胞のスパイク活動の集合と相関していることを明らかにした.
④ これらの結果は、ラットに「匂い-場所連合学習」を行わせ、嗅内皮質および海馬の局所脳電位を同時記録することにより観察された。
⑤ 以上の結果は、神経振動活動が、海馬と嗅内皮質の神経情報を統合させる機能をもつことを示唆した.

かなりわかりやすく書き直したつもりだが、それでも専門用語のオンパレードだ。
さらに私の意訳したところではこうなる。
まずパソコンを想像してほしい。パソコンがUSBで外付けのハードディスク(記憶装置)と接続している。
パソコンからデータをハードディスクに転送するとする。
このときパソコンの出力波形をモニターし、あわせてハードディスクの入力波形をモニターして、これを同時記録する。
そうするとデータの転送中は両者が同じ波形を描くはずだ。それはデータの送受信に特有の波形を描くであろう。
そう予想して実験をやってみると、まさしくその通りになった。
ということだ。
著者はさらに個別の細胞のスパイク発火も調べて、④の結果を得ているが、これについては実験方法が良くわからないので、「多分そうだろう」というレベルで保留しておく。
記憶という機能については、流通型(実行型)情報と貯蔵型(言語型)情報の置き換え(エンコーディング)の問題も絡んでくるので、もっと奥の議論だ。言い過ぎにならないように注意しなければならない。

と言いつつ、私は素人だから何をしゃべってもかまわない。
この実験で強く示唆されるのは、海馬は嗅脳そのものだということだ。
そして嗅覚というのは、動物が陸に上がってから獲得した最新鋭の感覚器だということだ。
そしてほかの感覚がせいぜい中脳止まりの感覚なのに、これは前脳に集中するという偉そうな感覚なのだ。
しかも前脳にすらない記憶装置(したがって評価・判断装置)まで持っている出過ぎた感覚器なのだ。
しかし前脳や中脳はそのうち自前の記憶装置を持つようになる。とくに言語活動が出現してからは言語化し得ない嗅覚は主役の座を追われることになる。まさに「辺縁化」させられるのである。