面白い記事に当たった。きちっとした論文ではないのだが、雰囲気は伝わる。

日本神経科学学会で奨励賞をもらった五十嵐啓さんの受賞挨拶だ。

題名は「嗅覚から記憶へ」というもの。五十嵐さんはノルウェ-科学技術大学でフェローをつとめているらしい。

以下、要旨を紹介していく。見出しは私のもの。

1.嗅神経の流れ

嗅球の単一の僧帽細胞の軸索を顕微鏡で観察すると、軸索は遠く離れた外側嗅内野まで、細くも延々と続いています。
(前項でも明らかなように、嗅神経はさまざまな方向に枝分かれして伸びて行っている。この中から外側嗅内野への流れを本質的な流れとして選択したことがすごい)

外側嗅内野は海馬へと直接投射するため、嗅覚入力は末梢(嗅上皮)から海馬までわずか3シナプスで到達することになります。

(これは発生学的には、嗅覚中枢からひょろひょろと伸びてきたものであることを示唆する。そこで成長が止まったから先端が球状に膨大したのであろう)

2.海馬・嗅内野での匂い情報処理

海馬(CA1領域)と外側嗅内野の間では、課題学習に伴って、匂いを識別するスパイク活動が増加することが確認されました。

「オシレーション活動の同期」が20-40Hz波長帯で起きています。

「オシレーション活動の同期」は、異なる部位間での情報伝達を促進させ、記憶を形成させていることの証明です。

3.記憶の意味

かつて経験したことのある匂いを嗅いで、そのときの記憶がたちどころに蘇る、ということは、私達の日常生活でよく起こることです。

(ニオイというのは、記憶があって初めて意味を成すものだ。前項でもあったように、ニオイというのは「…のようなニオイ」なのだ。「…のようだ」というのは、記憶上の過去の経験と付き合わせて判断することだ。したがってそもそも嗅覚というのは記憶装置を必要とする感覚なのだ)

4.今後の研究方向

今後、シンプルな嗅覚―海馬回路系を用い、感覚情報から記憶への変換様式を明らかにするつもりです。

そのことで、「匂いの記憶」が嗅覚―海馬回路系を通じてどのように実現されているのかが明らかになるでしょう。

さらに、「嗅覚―海馬」モデルの構築を通じて、システムとしての脳機能のメカニズムが個々の脳部位での機能とどう関わるのか、それらがいかに結合すると高次機能が実現されるのかを検討していきたいと思っています。

(ということでなかなか気宇壮大だ。私の嗅脳→大脳皮質仮説から言えば、それが大脳発生の王道だろうと思う。大いに期待したい)