神川喜代男 著 「脳をつくりあげた生物の不思議―生命のしくみと進化を探る」

という本を読んだ。ブルーバックス新書で、発行は1995年となっている。いまから20年も前の本だ。

「出会い」というのだろうか、素晴らしい本だ。

実は最初は読む気などしなかった本だ。

「脳をつくりあげた生物の不思議」という題名がどうもピンとこない。なぜ「生命の不思議」ではないのか。

第二に、裏カバーに書かれた著者略歴が、かなりうざったい。

大阪大学医学部卒業なのはよいとして、卒業年次が1953年だ。失礼ながら、今生きているとすれば現役組としても88歳だ。この本を書いたのは66歳ということになる。

脳外科医としてレーザーメスの開発に関わった経歴もある一線の臨床医ではあるが、どうも途中でそちらはリタイアして鍼灸の方に顔を突っ込んできたらしい。

「まあせっかく取り上げたのだから…」と、パラパラとページをめくっていると、これが面白いのである。

95年に書かれた本としては、きわめて内容がアップ・ツー・デートだ。

それにもかかわらず、書きすぎや無理な断定はない。情報を取捨選択する目が大変肥えていると伺わせる。

学生の講義を念頭に書かれているのかもしれないが、あらゆる物事、あらゆる科学的認識を歴史の流れの中で見ているのも、初学者には大変ありがたい。

進化論の立場に立つ以上当然のことであろうが、大脳辺縁系ドグマは事実上否定されている。大脳は脳の進化の最終産物として位置づけられている。

心理学者が乱暴に踏み込んでいる「精神」の領域についても、必要以上の言及は慎重に避け、臨床ケースの検討に絞って論じている。
ちょっと文句もつけておく

ただし、よくまとまっていて、考えを整理するのには役立つが、目新しい事実はないので、そのつもりで。
生化学のところは、やや冗長・散漫に流れ、中味も流石にちょっと古くなった。

ということで、読むべきは第1部「エネルギーから眺めた生物の世界」と第2部「脳から眺めた生物の世界」で、これで約100ページ。

最後の2節は外人がよくやりたがる“博識自慢”だ。まぁご愛嬌であろう。