AnthropologicAl S cience Vol. 122(3), 131–136, 2014

Overview of genetic variation in the Y chromosome of modern Japanese males

Youichi Satoら、

共同研究ではなく、基本的には徳島大学のスタッフの単独調査のようである。(聖マリアンナも一部参加)

アブストラクトでは以下の問題意識が示される。

However, the data of Y chromosome haplogroup frequencies in modern Japanese males is still limited.

そこで彼らは立ち上がった。

We recruited 2390 males from nine populations in seven cities in mainland Japan and typed their Y chromosome haplogroups.

結論としてはこういうことだ。

modern Japanese males appear to be genetically homogenized in mainland Japan

それはそれでけっこうなことだ。

対象及び方法

日本国内7都市の男性住民2390人を対象とした。

内訳は

college students (S) from

①Nagasaki (n = 300)

②Tokushima (n = 388)

③Kanazawa (n = 298)

④Kawasaki (n = 321)

⑤Sapporo (n = 302)

adult males (A) from

⑥Fukuoka (n = 102)

⑦Osaka (n = 241)

⑧Kanazawa (n = 232)

⑨Sapporo (n = 206)

である。

末梢血サンプルを用いてQIAamp DNA Blood kitにより測定した。

都市間差の判定は pairwise FST values による。

結果及び考察

Japanese males belong to 16 haplogroups (Table 1)

頻度はO2b1 (22.0%), D2a1 (17.4%) D2* (14.7%)の順であった。

we did not detect any marked variability among the populations.

ハプロCの内訳を見たところ、

C1 and C3 displayed frequencies of 6.1% and 4.9%, respectively,

であった。

ハプロC(C1 and C3)は福岡のみにやや多い傾向が見られた。

ハプロD は D1, D2, andD3よりなるが、今回の調査ではD1が0.1% D2が 32.1%でD3は皆無であった。

今回の研究では、the frequency of haplogroup D2* peaked in the Fukuoka and Kawasaki students. だった。

haplogroup D2 males are equally spread throughout Japan.である可能性がある。

ハプロOは非常に細かく変異している。

O2b1 frequency in the Fukuoka adults tended to be higherだった。逆にO3a3c and O3a4 frequencies tended to be lowerだった。そもそも福岡ではハプロOそのものが少ない。

O3a3c and O3a4は福岡成人をのぞいて全国に平均して分布している。ハプロOが九州に多いという以前の報告(Hammerら 2006)は否定される。(沖縄も少ない)

結語

 we did not detect any marked variability in the frequency distribution of Y chromosome haplogroups in mainland Japan,

ミトコンドリアDNAの解析 (Shinoda, 2007; Umetsu et al., 2001)によれば、haplogroup M7の南日本優位、haplogroup N9b の北日本優位が示されている。

男性が全国ほぼ均一であることを考えると、男性の移動がより頻繁であることが推測される。

謝辞

Ministry of Health and Welfare, Japan and the Japan Society for the Promotion of Science

あとは下の図の“メタ解析”というか感想

日本人ハプロ

1.ハプロC

これだけ全国が均質化している中でも、ハプロCの地域差は鮮明である。

北からD2人が入ってきた頃、朝鮮半島からも少数のC人が入ってきて、西部にとどまったことを示していると見て良いだろう。

ただC1、C3の比率はどこでも同様だ。日本固有のC1が最初に、ついで同じ朝鮮半島経由で、いわゆる“ツングース”系のC3人が入ってきたと考えられる。

弥生時代前期に渡来人(長江人)を受け入れた縄文晩期人はこれらC人だったのかもしれない。

北海道の一般成人のC3高値はオホーツク人→アイヌ人の流れかもしれないが、それほどまでの影響があるかと言われると…

北海道民500万のうちアイヌ人はたかだか10万人。2%にとどまる。

2.ハプロD

これまで東日本優位と思われていたが、意外にもまったく地域差を認めなかった。サブタイプに分けても差は見いだせない。今のところどう判断してよいのか分からない。

3.ハプロO

ハプロOはO2系とO3系でまったく意味が違う。

O2は弥生人だ。長江文明を原産とし漢人に逐われて、朝鮮半島そして日本へと渡ってきた人々だ。

九州を除けばそれぞれがほぼ均一に分布しており、偏りは見られない。

O3はいわゆる“騎馬民族”だ。満州南部から南下し、先住民(おそらくC3人およびC3人と共生していたO2人)を支配し、あるいは駆逐し最後に九州北部に到達したのがO3aであろう。

それとは別系統(新羅系)がさみだれ式に山陰地方に到達し、この一族が大和・畿内にまで到達したのではないかと思われる。

なおこれら一連の図で、長崎と福岡にかなりいちじるしい差が見られるが、一方が学生であり他方が一般成人であるところからも、その解釈には慎重さが必要であろう。

とにかくこれで一応のベースとなる数字が出たことになる。その意義は非常に大きいと思う。

あとは人口移動が少ない農村地帯で、三代以上継続して居住している人のデータをコツコツと集積すべきであろう。


全ゲノム解析でもよいのだが、その際にY染色体ハプロのデータは引き出せるので、とにかく数万単位のデータが欲しいものである。