「生命の起源」をめぐる学説史

オパーリンを中心に

1861年 パストゥール、「自然発生説の検討」を発表。これまでの「生命の自然発生説」を否定。“生命は生命からのみ生まれる”ことが確認される。

1903年 スエーデンのスバンテ・アレニウス、地球外から飛んできた生命の胚種がもとになって地球生命が誕生したと主張。パンスペルミア説と呼ばれる。

2013年頃 アレクサンドル・イヴァノヴィッチ・オパーリン、モスクワ大学に入学。植物生理学を学ぶ。

1917年 オパーリン、第一次世界大戦中は製菓工業の化学技師として働き、ロシア革命においては化学工業労働者の組合運動に参加した。

1917年 オパーリン、革命後にスイス亡命から戻った生化学者バッハに師事。植物の呼吸や酵素を研究。

1922年頃 オパーリン,生命の起源について自説の本質部分を発表。「化学進化」説と呼ばれる。発表当時は評価されなかった。

地球生成初期は還元状態で、簡単な有機物が生成し、それから生物を構成する複雑な有機物、アミノ酸、糖などが生成した可能性を指摘した。

1924年 オパーリン、自説の要約を小冊子「生命の起源」にして刊行。

1926年 オパーリン、生命の起源論の要旨を発表。

それまでの生命起源説は、自家栄養的好気性細菌とされていた。これは遊離酸素を使って無機物を酸化することでエネルギーを得、これを利用して二酸化炭素を還元して有機物を合成し、増殖していく微生物と定義される。
オパーリンはこれに対し、従属栄養を営む嫌気性細菌が先行すると主張。(卓見)

1928年 イギリスの遺伝学者 ホールデン(John Burdon Sanderson Haldane)、ソ連を訪問。熱烈な共産主義者となる。(ホールデンの生涯は興味深い。いずれ別記事で検討する)

1929年 ホールデン、化学進化による生命の発生説を独自に主張。(ウィキのホールデンの項目には記述なし)

1929年 オランダの化学者デ・ヨングがコアセルベート(coacervate)を発見。コアセルベートは疎水性を持つ液滴内に有機物が封入されたもの。

1930年頃 オパーリン、コアセルベート に関する実証的研究。オパーリンは液滴内に酵素を封じ込めたときに酵素の働きがより盛んになることを発見。生体膜形成による濃縮を生命発生の本質と考えた。(ただしコアセルベートは一つのモデルにすぎない)

1936年 オパーリン、天文学・地学・生化学の研究成果を取り入れ、より充実した『地球上における生命の起源』を出版した。

①原始地球内部で金属の炭化物が生じる。それが噴出して大気中の過熱水蒸気と反応し、水素が炭化される。
②これとは別にアンモニアと過熱水蒸気との反応により低次の有機物質群が生成される。
③これら低次有機物質を含む海が形成され、海洋中でタンパク質を含む有機物が生成される。(有機物スープ)
④有機物が集積してコロイド粒子ができ、周囲の媒質から独立する。これをコアセルベート液滴という。
⑤コアセルベートの進化と自然淘汰とによってやがて原始的有機栄養生物が発生する。

1950年 オパーリン、世界平和評議会の委員となる。

1953年 S.ミラー,始原の大気に相当するメタン,水素,アンモニア,水蒸気の混合ガスを入れたフラスコ内で火花放電をさせ,簡単なアミノ酸をつくりだすことに成功。オパーリン学説が注目されるようになる。

ただし原始地球大気はメタンやアンモニアを高濃度に含む「強還元型」ではなく,二酸化炭素を主とし,窒素・水蒸気などから構成されていたことが、その後明らかになる。

1955年 オパーリン、最初の訪日。以後4回にわたり訪日する。

57年 オパーリン、第1回生命の起原国際会議を主催。これに合わせて研究成果を集大成した『地球上の生命の起源』を発表。

1966年 オパ―リン、『生命の起源-生命の生成と初期の発展』を出版。コアセルベートよりも複雑で整った機構を持つが、原始的生物よりは簡単な系「プロトビオント」を提唱。

1969年 オーストラリアに「マーチソン隕石」が落下。100 種近いアミノ酸が同定される。

1980年頃 「海底熱水噴出孔」が発見される。超好熱菌がここから発生したとの主張が広がる。

1980年 化学反応を触媒することができるRNA分子が発見される。RNA触媒(リボザイム)と名付けられる。その後、リボソームの触媒中心もRNAにより構成されていることが確認される。

1986年 ウォルター・ギルバート、リボザイムの発見を元にRNAワールド仮説を提唱。

1. まず原始の地球に自己複製を行うリボザイムが出現した
2. リボザイムの中にリン脂質の合成を促進するものが現れ,RNAが細胞膜に包まれた。
3. さらにタンパク質の合成を触媒するリボザイムも出現し,細胞膜の中は多量のタンパク質で満たされるようになった。
4. タンパク質の中にDNAを合成できるものが現れ,遺伝情報はより安定なDNAに移された。

1999年 フリーマン・ダイソン、「ゴミ袋ワールド仮説」(Garbage-bag model) を提唱。原始海洋中で,オパーリンのコアセルベートのような原始細胞状構造体が多数でき,そのような「袋」の中に触媒をふくむさまざまな有機分子が取り込まれた。このゴミ袋には自己複製機能を持つRNAが取り込まれ、共生するようになった。(ホールデンもそうだが、ダイソンというのも面白い人物のようで、一度じっくり勉強してみたい)