Ⅰ 三人の老政治家が注目される理由

この1年の間にアメリカ大統領選挙、イギリス総選挙、フランス大統領選挙という注目すべき選挙戦が展開された。

この3つの選挙で、3人の老政治家が大活躍して注目を受けた。それはアメリカのサンダース、イギリスのコービン、そしてフランスのメランションである。

それぞれの個別の特徴は別にして、眼につく共通点は、彼らが一貫して左派リベラルの立場を守ってきたこと、彼ら自身は老人であるにも関わらず、若者の熱狂的支持を受けたことである。

彼らを支えたのは左派連合であると同時に老青連合でもあった。とくに青年のイニシアチブが際立っている。

青年層が老政治家を支えて立ち上がった理由には大きく言って3つあると思う。

A) 貧困化と格差拡大

「格差問題」は、富裕層への富の集中、中間層の疲弊、貧困層の拡大という3つの状況の複合である。さらに「板子一枚下は地獄」という不安感が社会的緊張(ゆとりのなさ)を招いている。

これは決して昔からのものではない。80年代にレーガン大統領が独占資本優位の経済政策を取り始めたからだ。最高税率を28%まで引き下げられた。最低賃金を抑え続けた。最低賃金はインフレによって目減りした。「69年は時給11ドル近かったが、2016年は7ドルだ」(ピケティ)

新自由主義は決して経済の必然ではない。アメリカの独占資本が利益を上げるために、国内外の人々に押し付けたルールの結果なのだ。だから変更することは可能なのだ。

B) 青少年の未来の喪失

格差問題が政治化する最大の理由は、中間層の疲弊と没落である。それは能力がある多くの青少年から未来を奪っている。

高すぎる奨学金、高学歴でも就職できない悩みが青年のあいだに広がっている。

「人口の1%の最富裕層のための政治ではなく、99%のための政治」はウォール街占拠運動のスローガンであるが、いまや世界の青年の共通のスローガンとなっている。

C) 民主主義の危機

格差の拡大の中で、政治的平等、法のもとでの平等の原則は大きく揺らぎつつある。その結果、民主主義に対する信頼が損なわれ、言論に訴えるよりも一過性の情緒に流される傾向が強まっている。

ヨーロッパでは深刻な経済危機のもとで、移民排斥を主張する極右派の台頭という事態も起こっている。

これに対し、民主主義を守る闘いが格差問題と結びつ来つつある。それは今回のフランス大統領選挙でもっとも典型的に示された。メランションは言う。「どんな問題でも解決策はある。それは民主主義だ」

すなわち格差問題も貧困問題も、「民主主義」を通じてしか解決できない。だから民主主義は何よりも大切なのだということを示している。

これらの論点について、三人の老政治家の認識は共通すると言ってよい。


Ⅱ なぜ老政治家が若者の心を捉えたか

A) 今の世の間違いが分かる世代

とはいえ、若者の心を政治に反映させるのには、若者自身が立候補するのが一番良いはずだ。なぜ老いぼれ政治家に自分たちの夢を託すのか。

率直に言えばよく分からない。例えばスペインやギリシャではみずからの世代の代表を議会や政府に送り込んでいるからだ。

ただ若者たちだけで戦えば、勢いだけで行けるあいだはいいが、高齢者や組織労働者などへの食い込みは難しい。ただ戦闘的なだけでなく安心感を与えることも必要だ。
選挙戦が白熱すれば、他党派との切り結びや戦略的思考が不可欠となるが、若者にはそれだけの修羅場経験がない。

そういう色々なことがあって戦略的に判断したのではないかと思われる。逆に言えば、青年の政治意識がそこまで熟度を増しているということだと思う。

その際の最大の選択基準が「ぶれない政治家」ということだろう。

B) 老青連合がお互い必要という事情

その他にも特徴がある。非エリートであること、党派性が薄いことなど、いずれも若者にとって「お神輿として担ぎやすい」要素を持っている。コービンの場合は2大政党の一つである労働党の党首ではあるが、議会内では少数派であり、一般労働党員の力のみが頼りである。これは逆に言えば政策的フリーハンドを握りやすいという利点にもなっている。

こういった戦略はおそらくサンダース陣営に乗り込んだ若者たちの発想であろうと思われる。しかしそれは巧まずして、世の中の空気にぴったりマッチした。

老青連合路線は教訓化され、それがイギリスにも持ち込まれた。そしてコービンの成功は、教訓としてフランスにも持ち込まれたのであろう。

日本においても、老青連合の凄まじい推進力とc破壊力はこの間試されずみの教訓となっている。