「ロシアのショパンたち」 ピアノ小曲百選  改訂増補版 その2

2017年07月15日

アレンスキー 1861~1906

34 Op.15 2台のピアノの組曲から I. ロマンス

何と言ってもアレンスキーの代表曲である。4本の手20本の指が必然性をもって動いていて、無駄がない。

アレンスキーについては前の原稿で目一杯書いたので、詳しい紹介はしない。

35 Op.15 2台のピアノの組曲から III. ポロネーズ

前の原稿では2曲めのワルツをとってこちらを捨てたが、その前は3曲めになっていた。面倒なのでそのままにする。

皆さんには3曲通しで聞いていただきたい。

36 Op.23 2台のピアノの組曲「影」から 1.学者

学者(音楽学者)をからかっているような題だが、実は真面目に対位法を展開している。ジュノバとディミトロフというブルガリア出身のドゥオが真面目に演奏していてこれがいい。

37 Op.23 2台のピアノの組曲「影」から 3.道化

この曲ではクームス盤のほうが華やかで軽やかだ。ジュノバとディミトロフは逆に重い。しかし立派な演奏だ。

38 Op.23 2台のピアノ組曲「影」から 5.バレリーナ

クームスのCDでは「バレリーナ」(La Danseuse)となっているが、曲の作りは「ホタ」だから「踊り子」のほうがいいと思う。ズシズシと床がきしむような曲である。

39 Op.25 4つの小曲から No.1 即興曲

アンダンテ・ソステヌートでロ長調となっている。楽譜を見たわけではないが、黒鍵だらけだろう。

40 Op.25 4つの小曲から No.2 夢想

アンダンティーノでハ長調となっている。演奏家にとってはずいぶん感じが違うだろう。

この2つはピアノ独奏曲としてはアレンスキー最良の曲と思う。

作品19の1と作品24の2は、良い音源がないため割愛した。

41 Op.28 「忘れられたリズムによる試み」から 1-ロガエード(Logaèdes)

この小品集ではこの曲だけが良い。アレンスキーの曲でいいのは、こういうふわふわの曲だ。

42 Op.41 4つの練習曲から No.3 変ホ短調

この曲はほとんどショパンだ。

41と42のあいだで2台のピアノのための組曲(作品33)の第6変奏スケルツォをパスしている。作品36の「24の性格的作品」以降のピアノ作品のほとんどをスルーしている。

43 Op.65 2台のピアノ組曲「子どもたちの組曲」から 8. ポーランド風に

この時期アレンスキーは絶不調である。この第8曲だけがかろうじて精気を保っている。

この曲にするか、作品53の5曲目「ロマンス」にするか迷ったが、取り替えるのも面倒なのでそのままにする。

44 練習曲集 Op74_6 プレスト(ニ短調)

結局アレンスキーからの選曲が難しくなったのは、作品74を聴いてしまったからである。

最近奇特な人が現れて、作品74の12曲を完全アップロードしてくれた。お陰で、100曲ギチギチに詰まっていた中から3曲も削らなくてはならなくなった。

本当はもっと入れたいのだが。

45 練習曲集 Op74_7 アンダンティーノ(変ホ長調)

とにかく音の響きが分厚く、まったく別人である。ソノリティーは完全にラフマニノフのものだ。

46 練習曲集 Op74_12 アレグロ・モデラート(嬰ト短調)

これがアレンスキーの「白鳥の歌」だ。売れなくなったアイドルが裸になるのとは違う。

もう少し生きていればという感じがする。

リャードフ  1855年~1914年

47 Op.9 2つの小品 1ワルツ ヘ短調 1884

アレンスキーより6つ年上で、活躍を始めたのも少し早いが、息の長い作曲家で、全盛期は少し後ろになる。

これは83年の作品で1曲めがワルツ、2曲めがマズルカとなっている。完全にショパン書法で書かれている。

5人組の後継者とされているがそのような雰囲気はない。なお、アレンスキーもリャードフもRコルサコフの「不肖の弟子」とされている。

48 Op10_1 前奏曲 変ニ長調 1885

この人の曲はとにかく短い。あっという間に終わる。この曲が1分45秒。俳句みたいなものだ。音も割りと節約している。

これがあのトルストイやドストエフスキーを生んだ同じ国の人とは信じがたい。名前まで簡素である。

49 Op.11_1 前奏曲 ロ短調 1886

これがリャードフの代表作。今度は完全にロシア音楽の世界だ。職人技を体得している。

50 Op.23 小品「湿地にて」ヘ長調 1890

ちょっと制作背景は分からないが、ロシア民謡を主題にした舞踊音楽のようである。

51 Op.32 ワルツ「音楽の玉手箱」1893

リャードフでもっとも有名な曲だ。そのためにその手の作曲家と見られている側面もある。

どうでも良いが、Snuff Boxというのは「嗅ぎタバコ入れ」のことで、おそらくオルゴールが内蔵されているのだろう。

ゼンマイが止まってしまう、という演出もある。プレトニョフがアンコールで派手にやっている。

ピティナによると親指酷使曲だそうだ。

52 Op.36 3つの前奏曲 第2番 変ロ短調 1895

またもショパンもどきだ。本物よりうまい、というところがすごい。しかしわずか1分だ。

53 Op.37 練習曲 ヘ長調 1895

「ロシアのショパンたち」にふさわしい曲が続く。これもショパンそのものだ。この人はひょっとすると贋作作家になれるのではないか。

54 Op.38 マズルカ ヘ長調 1895

フランスの香りさえ漂う。しかし終わりにかけてはロシアっぽさが顔を覗かせる。

意外に長いと思うが、これでも3分20秒。

55 Op.44 舟歌 嬰ヘ長調 1898

5分30秒というリャードフにすれば超大作。展開部の盛り上げ方は見事なものだ。やればできる。

youtubeではニコラーエバの名演が聴ける。

56 Op.57-1 前奏曲 変ニ長調 1900

作品57の3つの小曲は1前奏曲 2ワルツ 3マズルカよりなる。ベリャーエフから出版されている。

この頃は作れば売れるという恵まれた環境にいたはずだが、それでこんなもの。これが2分30秒で、次のマズルカは1分20秒。

57 Op.57-2 マズルカ ヘ短調 1905

ひどい話で、1曲めを書いたのが1900年、3曲めがそれから5年後、発表されるのがさらに1年後だ。

58 サラバンド ト短調 1899

作品11とほぼ同じ頃作曲された。作品番号はついていないがちゃんと発表されているようだ。

見事なバッハだが、さすがに恥ずかしかったのだろうか。

こうやって書いていると、リャードフは寡作家だったように思われるかもしれないが、決してそんなことはない。

ラペッティの「リャードフ・ピアノ曲全集」はCDで5枚組だ。チャイコフスキーの7枚組には負けるが、かなりの量である。

買うには買ったが、聴き切ったという自信はない。ひょっとすると未だ掘り出し物があるかもしれない。

前も書いたが、キキモーラは必聴です。ストラビンスキーがリャードフをパクったということがよくわかる。リャードフもRコルサコフのパクリと言えなくもないが。とにかく器用な人だ。

リャプノフ  1859年~1924年

59 Op.1 No.2 間奏曲 変ホ短調 1887

この人は世間的には超絶技巧練習曲をのぞいてほとんど知られていない。

モスクワ出身者はみな和音が分厚く、曲が長い傾向がある。

つまりやや野暮ったいということだが、この人の特徴は多彩でありながら透明度を失わない和音の美しさにある。

ここまでで初めて登場するモスクワ音楽院の出身者である。しかし卒業後はペテルブルクに出て、そちらの教授になっている。

バラキレフの追随者と目され、最後までバラキレフの面倒を見た。たしかにバラキレフっぽい作風だ。

この曲は作品番号は1番だが、この時すでに29歳になっている。かなり遅いスタートだ。それまでモスクワにくすぶっていたようだ。

60 Op.1 No.3  ワルツ 変イ長調

ショパンというよりチャイコフスキーのワルツかもしれない。そこはかとない暗さがある。

61 Op.6_6 前奏曲 ヘ短調 Andantino Mosso 1895

1分38秒という短い曲だが、ロシア風の感傷に満ちている。

62 Op.8 ノクターン 変ニ長調

単体で発表されている。それだけ力を入れたということであろう。演奏時間も7分に達する。コンサート会場で聞けば映えるのであろう。

出だしのメロディーは美しいが、展開部がやや胃もたれする。そういうところはラフマニノフ風である。コンチェルトでも書く気分なのかもしれない。

リャードフなら3分の1に縮めるだろう。

63 Op.11 超絶技巧練習曲 第3番 鐘 1901

誰が聞いてもラフマニノフの鐘を思うかべるだろう。ラフマニノフの曲は1892年の作曲。それから9年後だからリャプノフが知らないわけはない。

しかしそれを承知で書きたかったのだろう。

64 Op.11 超絶技巧練習曲 第6番 嵐

この曲は第3番より3年も早く完成されている。そのまんまの情景である。

まぁ、超絶技巧の練習が目的なんだからしょうがないか。ロシアのショパンと言いながらだんだんかけ離れてきたようだ。

65 Op.36 マズルカ 第8番 ト短調

同じマズルカでもおよそショパンらしくないマズルカだ。リャプノフはバラキレフとともに地方に採譜に出かけたりしており、ナマのマズルカを耳にしたかもしれない。

そのイメージをそのまま膨らませて曲に仕上げたのであろう。これはこれでよい。

66 Op.57 3つの小品 第2曲 春の歌 イ長調

あとはズルズルと創作力が落ちていく。それが人生の最後近くになって、なんともしみじみとした曲を残した。

それが1913年に発表された3つの小品の一つ、「春の歌」である。あの重々しい左手の低音は消え、サラサラと曲が流れる。

それに乗せてなんとも懐かしいメロディーが小川のように流れていく。私としてはリャプノフ最高の曲にランクしたい。