出会い系バーの基礎知識
読売新聞の論建てで、気になる点が二つある。
一つは出会い系バーを「汚らわしい」と見るところから議論を出発させているのではないかという懸念である。
もう一つはプライバシーを侵害することについての基準の曖昧さである。
1.売買春は「汚らわしい」から悪いのではない
これまでの議論の中で置き去りにされているが、読売新聞の三段論法の最初におかれているのが、「売買春」=違法という考えの基礎のところである。
売買春が違法であることは言うまでもないのだが、それは「汚らわしい」からではない。
ここに「汚らわしい」という価値基準を持ち込むと、とたんに話は怪しくなる。以前は「娼婦狩り」と称して売春婦(街娼)が牢屋にぶち込まれたこともあった。
途上国では「美観を損ねる」と言ってスラムが壊され、浮浪児が投獄される(「保護」ともいう)事態がしばしば起きている。
2.売春を違法とする根拠
売春を違法とする大本の原理は、女性の人間としての尊厳を保護することにある。
現代において女性の尊厳は二重に損なわれている。一つは愛情の表現(人間性の発露)としての性交渉が商品化されることで、人間の尊厳が損なわれるからであり、一つはそれが性産業による収奪の手段となるからである。
ただし最初の点は時代や社会状況によっても色々なので、厳密な線引は難しい。
したがって外形的には性産業の関与するいわゆる「管理売春」が違法性の対象となる。売春することではなく、売春させることが犯罪となるわけだ。
もちろん性産業の方も色々手は打ってくるわけで、グレーゾーンが幅広く存在する。
いろいろ情報を集めてみると、出会い系バーの営業者は出会いの場所を提供しているにすぎないとも言える。しかし出会い系バーの女性の多くが売春を行っていることは間違いないようだ。
問題は営業者が女性を何らかの形で管理しているかどうかにかかっている。
この点は事実に即して判断するしかない。
これが売春に関する現代的常識であろう。
3.「買春」について
買春の違法性を措定するのは難しい。第一の規定からすれば、女性の尊厳を直接的に侵害する行為であり、容認されるものではない。
しかし線引は困難である。むしろバーの女性を強引に口説いてホテルに行くほうがはるかに犯罪性は高い。
第二の規定からすれば、おそらく買春は売春の幇助ということになるのであろう。
管理売春が違法であるがゆえに、それを幇助することも違法となる。
結局これも「出会い系バー」が管理売春かどうかで決まってくると思われる。
4.プライバシーの権利について
個人の権利の中の重要な柱の一つとして「私事権」がある。プライバシーというと、日本語では個人の秘密を保護する権利ということになっているが、実はもっと広い。
これは他人に迷惑をかけない限り、法律に違反しない限り、自分の好きなように生きる権利である。そしてそれを邪魔されないように保護して貰う権利である。
もっとぶっちゃけて言うと目障りでいる権利であり、目障りであり続ける権利である。
これは「せめて私のことは私の好きにさせて頂戴」という消極的な権利であるが、根源的な要求である。
それはしばしば「良くないこと」であったり、社会規範と衝突するために、社会的バッシングを受ける。
目につくところでは、服装に関する私事権、作法に関する私事権、TPOに関する私事権などがある。
服務規程や校則で実質的に禁止されているものもあるが、これらについては本来違法・違憲性が問われる可能性がある。
新聞ネタでは、ゲイの問題、君が代拒否問題、ゴミ屋敷問題などがある。
本来は私事のはずだが法律で禁止されているものもある。オートバイのヘルメット、運転手のシートベルトは罰金刑である。
私の経験では思想に関する私事権侵害が大きかったが、最近では喫煙に関する私事権が深刻である。
5.読売新聞の三重の過ち
今回の読売新聞の報道は、どこをどう押しても、まごうことなき私事権の侵害である。
当の読売新聞が「報道は公益目的にかなう」と、社会的バッシングであることを宣言しているのだから間違いない。
しかもその根拠は「違法行為が疑われるような店」に出入りしたことであり、違法行為を行ったわけではない。それどころか、女性を救わんとして赴いた可能性が高い。
のであれば、読売新聞は誣告と私事権の侵害という二重の過ちを犯したことになる。
さらにそれが政治権力や公安と結びついた謀略の一環として行われたとすれば、読売新聞は三重の罪に問われることになる。
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