下記もご参照ください
出会い系バーの基礎知識

昨日行われた前川喜平(前文部事務次官)氏の記者会見で、はっきりさせなければならない問題がある。

前川氏の「出会い系バー」通いを報じた読売新聞の記事について、「個人的には官邸の関与があったと考えている」と指摘したことだ。

前川氏は切羽詰まっている。このままでは「文部事務次官にあるまじき行動」とのそしりを黙認してしまうことになるが、「官邸の関与」まで指弾するとなると、これもまた自身の将来に少なからぬ不利益をもたらす危険がある。

いわば「前門の虎、後門の狼」という状況にあるわけで、前川氏の必死の思いが伝わってくる。

ということで、経過をおさらいしていく。なにせこの手のニュースは消えるのが早い。せっせと情報を集めておくと、きっといつか役に立つ。これがこのブログの真骨頂である。

この事件に関する報道の中ではネットメディアのリテラが出色である。ご参照いただきたい。


1.「出会い系バー」記事への伏線

5月22日の読売新聞の「出会い系バー」記事には伏線がある。

政府と読売新聞との密着ぶりはつとに知られている。それは安倍首相とナベツネの強い関係によってもたらされているが、その関係がこのところさらに強まっている。

4月24日 渡邉恒雄主筆(いわゆるナベツネ)が、安倍首相と都内の高級日本料理店で会食。

5月3日 読売新聞が安倍晋三首相の憲法改正についての単独インタビューを掲載した。この中で、安倍首相は「2020年に新憲法の施行を目指す」と宣言した。

安倍首相は国会で「読売新聞に書いてある。ぜひ熟読していただいてもいい」と発言し、物議を醸した。

5月13日 読売新聞、東京本社編集局長名の記事を掲載。首相の考えを報道することは「国民の関心に応えることであり、本紙の大きな使命」と説明する。

この「使命感」が22日の記事に結びついていると考えるのが自然だろう。

5月15日 「フライデー」誌があるパーティーでのナベツネと安倍首相の仲睦まじいツーショットを撮影している。
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2.「前川前次官、出会い系バー通い」の報道

5月17日 朝日新聞、「総理のご意向」などと記した文書文書が存在すると報道。

おそらく前川氏のリークによるものであろう。それは官邸側も気づいた。

5月22日 読売新聞朝刊に記事が掲載される。主見出しは「前川前次官、出会い系バー通い」脇見出しは「文科省在職中、平日夜」

①前川氏は東京・歌舞伎町の出会い系バーに出入りしていた。

②この店は「売春や援助交際の交渉の場になっている」

③店の関係者は、前川氏が女性と店外に出たこともあったと証言した。

この記事の全文を探しているがまだつかめていない。

→見つけました。(あとでわかったが、これは全文ではない)

文部科学省による再就職あっせん問題で引責辞任した同省の前川喜平・前次官(62)が在職中、売春や援助交際の交渉の場になっている東京都新宿区歌舞伎町の出会い系バーに、頻繁に出入りしていたことが関係者への取材でわかった。

教育行政のトップとして不適切な行動に対し、批判が上がりそうだ。

関係者によると、同店では男性客が数千円の料金を払って入店。気に入った女性がいれば、店員を通じて声をかけ、同席する。

女性らは、「割り切り」と称して、売春や援助交際を男性客に持ちかけることが多い。報酬が折り合えば店を出て、ホテルやレンタルルームに向かうこともある。店は直接、こうした交渉には関与しないとされる。

記事の大半が出会い系バーの「いかがわしさ」の説明に当てられるという異例さが、いかにも異常だ。

ということで、最初の要約で書かれている「③店の関係者は、前川氏が女性と店外に出たこともあったと証言した」という段落が見当たらない。

経過から見ると、前川氏のインタビューを察知して、官邸筋・読売集団が先手を打って、前川氏を貶めようとしたことが明白である。恐るべき情報収集力であるが、情報源が問われてくる。

この記事は「小笠原政治の経済ニュースゼミ」というブログから転載させていただいた。

ついでに小笠原さんのコメントも紹介しておく。

善良な一市民が、自分の趣味でどのような店に出入りしていたといって、それが刑法などで禁じられていない以上、誰が責めることができるのでしょう?

出会い系バーで接待されていたわけでもなく、勤務時間中に仕事をさぼって行ったのでもないのに、それを固有名詞を挙げて記事にする理由が分かりません。

考えられるのは、加計学園の例の文書が流出したのは、この前次官がリークしたからと思っているからでしょう。

出会い系のバーに出入りするようなふしだらな男の流す情報が信用するに値するのか、

まさに印象操作。

ズバリなのだが、この時点ではまだ「なぜ前川氏が出会い系バーなどに行ったのか」という理由が語られていない。実はそれがこの話の焦点なのだが。

3.報道への最初の反応

5月25日 民進党の蓮舫代表が記者会見。

①すでに退職した人が、まだ摘発もされていない店舗に出入りしていたことが報じられることへは違和感を覚える。

②時の権力者に不都合なこと、あるいは侮辱をするようなことを言うことによって、きわめてプライベートな情報が、どこからか漏れるというのが事態の本質だ。

③このリスクは相当怖い。ある意味、萎縮効果につながりかねないと思っている。

5月26日 菅義偉官房長官が記者会見。「出会い系バー」問題で記者の質問に答えた。

女性の貧困問題の調査のために、いわゆる出会い系バーに出入りし、かつ、女性に小遣いまで与えたということだが、そこはさすがに強い違和感を覚えた。常識的に言って、教育行政の最高の責任者がそうした店に出入りし小遣いを渡すことは到底考えられない。


ここまでは読売と官邸筋の見事な連携プレーである。前川発言の正当性をチャラにし、無力化させることに見事に成功した。


5月28日 極めつけは系列の読売テレビの「そこまで言って委員会」である。

須田慎一郎がレポート役となっている。なお彼のラジオ番組には安倍首相がみずから出演するほどの親密ぶりである。

行ってきましたよ、私もその歌舞伎町の出会いバー。入場料6000円も取るんですよ。で、前川さんが連れ出したっていう女の子、私も取材しましたよ!

ここで司会の辛坊治郎氏が「で、何ができるの?」と、あきらかに買春を前提としたようなゲスな茶々を入れたのだが、須田氏は声高にこんなことを言い出したのだ。

(ピー音)とか行けるらしいんだけど、私はこういう立場ですから、やっぱり行かなかったんですけどね〜。前川さんは行ったらしい! 行ったらしいよ。

裏取りした。だって(ピー音)ちゃんに聞いたもん。前川前次官と一緒に(ピー音)に行った(ピー音)ちゃんに聞いたもん。

スタジオは大爆笑に包まれた。

これが読売の一番やりたかったことであろう。
しかし「週刊文春」「週刊新潮」「FLASH」など各社が取材したが、前川氏がホテルなどに行ったという裏は取れていない。「(ピー音)ちゃん」は存在していない可能性が高い

このあと、官邸サイドの暴走と読売の下劣な報道に批判が吹き上がる。

5月26日 前川記者会見の翌日、ネットメディアのリテラが、「前川前次官問題で“官邸の謀略丸乗り”の事実が満天下に! 読売新聞の“政権広報紙”ぶりを徹底検証」という記事を掲載した。この記事は必見である。
読売OBの大谷昭宏氏が面白いことを指摘してる。

東京、大阪、西部(福岡)各本社の紙面での扱いが同じだった。これは(各本社の編集部の頭越しに)会社の上層部から指示が出た可能性が高い


4.狂い始めた官邸・読売の筋書き

このえげつない攻撃のさなかに、前川氏が記者会見を行い、重大発言を行ったというのが事態の真相である。そのことが徐々に明らかになっていく。
5月25日 読売報道の3日後、朝日新聞や週刊文春が「行政がゆがめられた」などと証言するインタビューを掲載した。週刊文春は前川氏の独占インタビューを掲載。記者会見の発言内容を詳細に報じる。

本筋の問題はここではあえてとりあげない。

質疑応答の中で出会い系バー問題について質問が出た。
前川氏は(バーに)行ったのは事実と認めたうえで、「女性の貧困を扱う報道番組を見て、話を聞いてみたくなった」と理由を説明した。(具体的にはバーの外で「カウンセリング」的な行動をとっていたことが後日の報道で明らかになっている)

前川氏は続けて、行為の違法性を否定し「個人的行動をなぜあの時点で報じたのか、まったく分からない」と述べた。この時点では、前川氏はボランティアの教師をしていたことは明らかにしなかった。

5月25日 山井和則・民進党国会対策委員長、「前川氏のスキャンダル的なものが首相官邸からリークされ、口封じを官邸がしようとしたのではないかという疑惑が出ている。背筋が凍るような思いがする」と述べる。

では読売新聞は5月26日、前川会見をどう伝えたか。

1面の見出は、「総理の意向文書“存在”と文科前次官」1字空けて「加計学園巡り」である。さらにそのあとに「政府は否定」と付け加える

前川会見は3面でもとりあげられる。ここでの見出しは「政府“法的な問題なし”」、脇見出しは「文科省“忖度の余地なし”」の見出し。

社会面では、会見の中身を使うかたちで、例の「出会い系バー」通いに言及。発言者である前川の人格を問う。

5月31日 萩生田光一官房副長官が国会で、「政府として情報を収集し、マスコミにリークしたという事実はない」と答弁した。読売報道の効果が浸透したと見計らってのことであろう。

しかし彼らの意に反して、周囲の状況はどんどん不利になっていく。
6月1日 週刊文春が「出会い系バー相手女性」と題する記事を掲載。女性がいろいろ親身なあつかいを受けたこと、性交渉などはなかったことを明らかにした。

生活や就職の相談に乗ってもらい、「前川さんに救われた」と話す。この女性は、父と話した上で前川氏のことを話すことにした。

週刊文春はこの「出会い系バー」問題で毎回特集を組んで、読売報道の偽りを暴露する報道を連打し続けた。だいたいこの手の話で週刊誌と全国紙がケンカしたら週刊誌のほうが強いに決まっている。おまけに今度は「正義の味方」だから張り切る。

女性の周囲からの聞き取りも次々に掲載される。

前川氏と3年間で3、40回会った「A子さん」だけでなく、「A子さんから前川氏を紹介された女性」、「前川氏とA子さんが通っていたダーツバーの当時の店員」も、前川氏と女性達との間に売春、援助交際など全くなく、生活や就職等の相談に乗り、小遣いを渡していただけであったことを証言している。

週刊FLASH6月13日号の記事でも、前川氏と「店外交際」した複数の女性を取材し、「お小遣いを渡されただけで、大人のおつき合いはなし」との証言が書かれている。前川派の機関誌となった週刊文春だけでなく、週刊新潮や週刊FLASHが次々と証言を集めたことで、「事実」問題については決着がつく

6月3日 読売新聞サイトから「出会い系通い」の記事が削除された。記事の多くは時間が起てば順次削除されていくのだが、注目記事はこの限りではない。やや早いのではないかという印象は残る。とくに削除した翌日に釈明記事を掲載するのは、仁義に反すると思う。おかげで私はたいそう困っている。

6月3日 読売が釈明記事を掲載した。読売新聞東京本社の原口隆則社会部長の署名入りである。

見出しは2本が並列。1本は「次官時代の不適切な行動」、もう1本が「報道すべき公共の関心事」となっている。

①「不公正な報道であるかのような批判が出ている」とし、記事掲載の目的が批判への回答であることを明示。

②「こうした批判は全く当たらない」とし、批判を全面的に拒否。「独自の取材でウラをつかみ、裏付け取材を行った」と主張。

③その理由として

a. 「違法行為が疑われるような店」に出入りすることは不適切である。「公人の行為として見過ごすことができない」

b. ゆえにそれは「公共の関心事」であり、

c. それを報道することは「公益目的にかなう」

と説明する。

原口部長の論理は、「出会い系通い」の記事が前川氏の社会的バッシングを意図したものであることを明らかにしている。

6月4日 「ワイドナショー」(フジテレビ系)でこの問題を取り上げる。

調査を目的とした出会い系バー通い、という前川氏の説明に対し、松本人志さんは「苦しいなぁ」と感想を述べる。森昌子さんは「(前川氏が妻子持ちであることから)自分のことだけしか考えていない」と批判。泉谷しげるさんは前川氏がボランティアとして貧困家庭の子供に勉強を教えるなどの活動をしていたことをあげ、「志の高い官僚さん」と肯定的な評価を下した。

まぁワイドショーなどどうでもいいけど、フジ・産経系の読売との距離感が意外である。

ついでのついで、

森昌子の発言は前後関係で見ておく必要がある。信頼できる口コミというあまり信頼できないブログの記事が、ワイドショーの顛末を詳しく伝えている。事実関係のみを抜き出してみる。

あるコメンテーターが「JKを買うのは犯罪だけど、JKと付き合った上での性行為は別に悪いことじゃない」と語ったのに対し、森昌子が「女子高生と付き合うなんて許せない。謹慎解くの早すぎ。永遠に謹慎してろ」と発言した。(JKが何なのかは不明)

ゲスト女子高生「私は純愛だったら良いと思う」、森昌子「あなた何言ってるの?そんなの絶対だめ」

てなやり取りがあったあと、前川元事務次官の話に移る。

森昌子「前川氏を攻撃する為にあんな報道を出して子供と奥さんが可哀想」、他コメンテーター「政府のやり方がえぐい」


と続いたあと、くだんの発言に至るのである。

5.メディアの総攻撃

「泉谷しげるさんは前川氏がボランティアとして貧困家庭の子供に勉強を教えるなどの活動をしていたことをあげ」と書かれているが、おそらくどこかに情報があるのだろう。まだ見つけていない。

見つけた。

キッズドア 渡辺由美子 オフィシャルブログ(すべての子どもたちに夢と希望を)

というブログ(5月27日付)である。

ブログそのものを見ていただければ、何も付け加えることはない。

あえて言えば、「隠し玉」などと失礼なことを言ったことをお詫びするしかない。

少々長いので要点を紹介しておく。

最初の数段落はすべて転載する

前川氏は、文部科学省を辞めた後、「キッズドア」で、低所得の子どもたちのためにボランティアをしてくださっていた。

素性を明かさずにボランティア説明会に申し込み、その後、活動にも参加してくださっていた。

現場のスタッフから「この方は前文部科学省事務次官ではないか」という報告は受けていたが、特別扱いを好まない方なのだろう、と推測していた。

説明会や研修でも非常に熱心な態度で、ボランティア活動でも生徒たちに一生懸命に教えてくださったそうだ。

報道との関係で肝心なのは次のところだ。

今回の騒動で「ご迷惑をおかけするから、しばらく伺えなくなります」と連絡くださった。


基本的には、貧困児童教育に対するボランティア活動を隠すつもりでいたのだ。美談仕立てにされるのを嫌ったのだろう。

だから「女性の貧困を扱う報道番組を見て、話を聞いてみたくなった」というトンチンカンな答えをするしかなかったのだ。
渡辺さんは前川氏の気持ちを以下のように忖度している。(これが忖度の正しい使い方)

前川氏が、自分には何の得もなく逆に大きなリスクがあり、さらに自分の家族やお世話になった人たちに迷惑をかけると分かった上で、それでもこの記者会見をしたのは、

「正義はある」

ということを、子どもたちに見せたかったのではないだろうか?

週刊文春と産経の予想外の反応に続いて、週刊新潮も読売の官邸丸乗りを暴露する記事を掲載し反旗を翻した。

安倍官邸は警察当局などに前川前次官の醜聞情報を集めさせ、友好的なメディアを使って取材させ、彼に報復するとともに口封じに動いたという。事実、前川前次官を貶めようと、取材を進めるメディアがあった。

「あなたが来る2日前から、読売新聞の2人組がここに来ていた」と前川氏は語った。

安倍首相・官邸=ナベツネ=NHK(政治部)のトロイカは、反共メディアからさえも攻撃されるようになった。

6月13日 読売新聞、朝日新聞の取材に「一部報道等の誤った情報に基づいたご批判の声も寄せられていますが、支持する声は数多く届いています」と答える。
6月21日 週刊文春が、読売新聞の読者センターなどに寄せられた意見を集計した内部文書を暴露した。

これは5月30日付の「東京・読者センター週報」というものである。

週刊文春によれば、“出会い系バー”報道以降、加計学園問題で寄せられた意見は2000件に達した。その大半が批判的なものだった。解約に言及した読者の声は300件を超えた。

またこの記事では、“出会い系バー”報道が社内のチェック機関である「適正報道委員会」の審査を通していなかったことも明らかにされる。

まぁ、通せばボツになったでしょうね。そういうヨタ記事が大谷氏に言わせれば「社のトップ筋」から発せられて、ドカンと載ったのだから、いざとなれば社のトップの責任が問われることになるでしょう。

6月25日 前川氏が日本記者クラブで記者会見。

6月25日 リテラ が、前川氏の示唆したコメンテーターの実名を報道。

NHKの黒塗り報道は、安倍首相に忖度する報道局長と、安倍首相にもっとも近い記者と呼ばれる岩田明子が幅を利かせる政治部によって断行されたもの。

コメンテーターとは田崎史郎、「森友学園のとき」のコメンテーターとは田崎と並ぶ御用ジャーナリストである山口敬之をさす。(ただしどちらが性犯罪者であるかは不明)

その後の調べで、山口敬之氏が強姦容疑で告発されていることが判明した。しっかりした複数の証言があって、かなり容疑は濃いようだ。岩田明子氏についてはこちらを。
メディア論の論客である服部孝章さんは。「十分な裏付けなしに、前川氏に違法行為があったかのような印象を与えており、名誉毀損が成立する可能性があると指摘、民事(場合により刑事裁判)での戦いの方向を明確にした。

官邸の逃げ切りも許さないが、読売の逃げ切りも許せない。土下座でもしてもらわないと、こちらの気持ちは収まらない。