この際、前川氏の「出会い系バー」通いの問題について詳らかにしていきたい。たしかに本線は「加計学園問題」ではある。しかしそこから派生した読売記事問題(前川氏のいう「もう一つの問題」)は、「アベ政治」の権力構造の奥底につながる点でむしろこちらが本線ではないかとの印象を持っている。
しかも前川氏の逆襲により権力の強さだった側面(メディア支配と闇の情報収集)が弱点につながっていく可能性を秘めている。

1.読売報道の背景について

会見の重要な柱となったのが「出会い系バー」通いの問題だ。
要旨を箇条書きにすると

①「出会い系バー」通いを報じた読売新聞の記事についてこれはもちろん私としては不愉快な話だ。
② 背後に何があったのかということは、これはきっちりとメディアの関係者の中で検証されるべきだ。
③「個人的には官邸の関与があったと考えている」

とりわけ③の問題は、きわめて重大かつ深刻な内容をふくんでいるので、そう考えるに至った経過をかなり立ち至って説明している。

2.官邸関与の経過

① 事務次官在職中、「出会い系バー」通いについて杉田和博官房副長官(官邸筋)から「そういう場所には行くな」と注意を受けた。
② 5月20日、21日 2回にわたって読売新聞から取材を申し込まれた。これには応じなかった。「正直申し上げて、読売新聞がそんな記事を書くとは思いませんでした」
③ 5月21日 文科省の後輩にあたる幹部から「和泉さん(和泉洋人首相補佐官)が話をしたいと言ったら、応じるつもりがあるか」
と打診があった。これにも応じなかった。

3.NHKの奇怪な動き
「加計文書」をめぐって最初に取材に応じたのはNHKだったが、「その映像はなぜか、放送されないままになっている。いまだに報じられていない」

4.「民放コメンテーター」の不思議
民放に出演するコメンテーターのあり方も言がおよんだ。
「名前を出すことは控えるが、森友問題で官邸を擁護し続けた中には、ご本人の性犯罪が検察、警察にもみ消されたという疑惑を受けている方もいる。警察・検察によって(疑惑が)もみ消されたのではないか」
もちろん、それ以上のえげつない発言はせず、「こういったことを踏まえて考えると、私は今の日本の国の国家権力とメディアの関係については、非常に不安を覚える」と持っていく。

5.国家と民主主義のあり方
最後はこう締めくくられる。
これが私以外にも起きているのとするならば、大変なことだと思います。監視社会化、警察国家化ということが進行していく危険性があるのではないか。
権力が私物化されて、『第4の権力』と言われるメディアまで私物化されたら日本の民主主義は死んでしまうと、その入り口に我々が立っているのではという危機意識を持ちました。

さすが前事務次官、なかなかの「知能犯」である。おそらく西山事件の教訓も踏まえ、プロットA、B、C…とあらゆる筋書きを読み切っているのだろう。何か心理ドラマを見ているような気さえする。