最近、韓国の政治動向をフォローしていなかったので、今回の大統領選挙の結果を聞いて、「韓国左翼が変わったな」と実感した。
1.社会労働党の躍進と没落
とにかく韓国の世論は右へ、左へと激しく揺れるので、底流を見据えながら個々の動きを評価するのは大変だ。
国民的与望を担って登場したノムヒョン政権だったはずなのが、大した失政を繰り返したのでもなくどんどん支持率を落として、最後には議会に弾劾されるまでに至る。
ところがノムヒョンの応援団がウリ党を起て、総選挙をやったら圧勝する。それなのに半年もしたら、支持率が30%を切る。それが美容整形で二重まぶたにした途端に50%にまで回復する。
そんな中で、民主労働党は一時期は議会第三党にまで上り詰めたが、一心会(親北派)をめぐるスキャンダルであっという間に崩壊していく。
2.主体思想の清算
「親北派」キャンペーンは権力による一大攻撃ではあるが、金日成カルトともいうべき集団が存在したことも間違いない。韓国民主運動はさまざまな困難を抱えているが、「主体思想」との関係を清算し、南北統一へのロードマップを再構築することは中でも最大かつ緊急の課題であった。
思えば2006年以後、今日まで10年間の道のりはそのために費やされたと言っても過言ではない。
そのなかで、もっとも原則的かつ果敢に「自主派」とのたたかいを進めてきたのが、進歩新党であった。私はそう思っている。
3.進歩新党のもつ意味
進歩新党の闘いには二つの側面がある。
第一には親北派との呵責なき戦いである。親北派と対立してきた「平等派」の古参活動家は動揺を繰り返した。一つは自分をより高く売り込むための取引であり、一つは民主労働党のパトロンである民主労総の動向である。もちろん、底流には、民主化運動以来ともに闘ってきた「主体派」の仲間への絶ち難い信頼と友情の関係もあっただろう。
しかし、いまは直近の動向ではなく、真の未来を目指さなければならないのだ。そこには揺らぐことのない一貫性が必要だ。
第二には、資本からの真の独立である。進歩勢力と言ってもさまざまなスペクトラムがあるが、資本からの真の独立と科学的社会主義の視点の確立がなければ、原則と現実的妥協との境目が見えなくなってしまう。
政党である以上、選挙での勝利はもっとも重要なイシューであることは間違いない。とくに韓国では選挙で一定の数を獲得しないと政党要件が消失してしまうという厳しい状況を抱えている。しかし階級政党の意義と任務はそれに尽きるものではない。綱領的立場が選挙戦術に矮小化されてはならないのである。
3.統合進歩党から正義党へ
この二つの立場をもっとも原則に守ったのが進歩新党だった。
そしてその立場を貫けずに民主労働党とのなし崩しの再統一、「統合進歩党」の結成に向かっていったのがシム・サンジョン(沈相奵)らだった。(シムが尊敬すべき人物であることは疑いないが、彼女の方向が金大中2世であることは冷静に見ておくべきだと思う。求められているのは「揺るぎない党」である)
統合進歩党は民主労総の強力なイニシアチブのもとで創設された。さまざまな政治潮流が「統合」されないままにくっついた。「多様性こそが新党の特徴」と公然と述べる国民参与党まで入ってきた。
こういう雑然さこそ民主労働党主流派(親北派)の意図するところであった。党の骨格人事は彼らがガッチリと握っていたからである。
それから半年もしないうちに、統合進歩党の実体は暴露された。親北派は表立っては一言も喋ることなく、実力で議席やポストを抑えてしまったのだ。
激怒したシム・サンジョンらはふたたび党を飛び出して、「正義党」を結成することになる。このドタバタ劇の最大の成果は、民主労働党に代えて自らを民主労総のお抱え政党とすることに成功したことである。
逆に民主労総の後ろ盾を失った民主労働党→統合進歩党は坂道を転げ落ちるように転落していく。機を見るに敏な連中は次々と正義党に鞍替えした。残された親北派は体制の立て直しを図るが、2013年8月に2回めの情報院の攻撃を受け瓦解していく。こうして民主運動の全戦線において親北派は市民権を失うに至った。
4.進歩新党の苦闘
進歩新党も、何度も滅亡の危機に陥った。
最初は社会党との合併で自力強化を図った。しかしこの「社会党」は言っている言葉の割にはへなちょこで、どこか強い力との連合で自分を売り込もうというオポチュニスト集団だったようだ。つぎは環境主義者との連合を図ったが、こんなもの最初からうまくいくわけがない。正義党が結成されると、かつて同じ思いを共有した政党であるがゆえに、かなりのメンバーがそちらに移っていく。
そのなかで進歩新党は未組織労働者の中にかなりの拠点を形成したようだ。彼らはいま労働党と名を変え活動を継続している。弱小とはいえ、活動を継続していけるだけの確かな力を蓄えたようだ。
5.金世均の予言
最後に2008年1月にソウル大の金世均教授が書いた文章を引用しておく。私は韓国政治の基本をついた文章としていまだに正確だと思う。

民主労働党は究極的な政治的目標を持たないまま、議会主義と合法主義、代理主義と官僚主義の道に堕ちた。民主労働党は、民族主義と社民主義の不幸な結婚が誕生させた政党であり、社会的関係の根本的な変革を望む多くのヒラ党員の社会主義的あるいは社会主義指向的な熱望を、民族主義的、社民主義的、議会主義的展望の中に閉じ込める政党だった。
党に未来がないだけではなく、既成の派閥のいずれにも未来はない。NL派は、民族問題を、階級問題や反帝・反戦問題などすべての問題に優先する左派民族主義勢力である。これに対しPD派は、当初は社会主義的な指向を持つ単一の勢力だったが、その後、体制内的改革を追求する社民主義勢力との寄り合い状態となり拡散した。
新しい進歩政党は民主労働党の内部革新や第二の創党運動の中にはない。「資本主義の克服を公に明言し、その克服のために闘う社会主義的労働者階級政党」が展望されなければならない。民主労働党内のすべての階級的左派勢力が、組織的な所属と路線の違いを越え、進歩政党運動の全面的な再構成のために、共に力を合わせていくべきだ。

それから10年の後、いま金世均さんがどう言っているのかを知りたいところである。