「文化で食べていく国」へ

キューバ経済の今後は広義の「観光」にかかっている

経済危機を目の当たりにした私は、この国の行く末を真剣に考えたことがある。

なんとか耐えなくてはならない。だがその先にあるのは何か?

おそらく両手を上げてしまったら、この国はブルドーザーでなぎ倒され、さら地にされてしまうだろう。

ふたたびサトウキビの農場や果樹園だけがひたすら続く国になってしまうだろう。

おそらくそれは成功するはずだ。肥沃な土地はみのりを待っている。しかしそこには革命前のような貧しいコロノや農業労働者の住む余地はない。

すでに農業のハイテク化は完成し、もはや労働力など必要としないからだ。

農業地帯に人がいなくなれば、地方都市は破綻する。ひたすらハバナへの一極集中が進む。それは巨大なスラムの出現を意味する。

片手を上げるとしたら、どちらの手を上げるのか。それは雇用を守ることに尽きる。

実は現在も、キューバは膨大な潜在失業者を抱えている。なぜか、産業がないからだ。

この国は投資を必要としている。しかしその金が利益を生まない限り、投資はありえない。

経済が収縮しても失業者が生まれる。だが経済が成長しても、利益第一主義を取る限り、失業者は減るどころか増える。主要には農村人口の「余剰化」による。

これはある程度はやむを得ないことだ。ではその余剰人口をどこで吸収するか。これについてはきっぱり言おう、第三次産業しかない。

それも広い意味での観光産業しかない。

これは1992年以降の、政策実績がはっきりと物語っている。

ただ、「観光しかない」というのはネガティブな表現ではない。世界には観光を売り物に出来ない国がたくさんある。

現代社会は、一方において深刻な飢餓を抱えつつも、ある意味で物質的には飽和された社会である。

動物的欲望は飽和され、それに代わって文化的欲望、すなわち真の人間的欲望が広がっていく時代となっている。その欲望実現のとば口が観光という行動なのである。

この大きな流れが18世紀の前半、イギリスにもあった。グランド・ツァーの時代である。

それまで続いたヨーロッパの戦乱が落ち着きを見せ、宿や駅馬車、交通網など旅行に必要な環境が整ってきた。

当時文化的な先進国であったフランスとイタリアが主な目的地で、一種の修学旅行ともいえる。

旅行は数年に及ぶこともあった。

同行の家庭教師が付くのが一般的で、旅行の間、若者は近隣の諸国の政治、文化、芸術、そして考古学などを同行の家庭教師から学んだ。(ウィキペディアより)

こういう高級なものばかりでもなさそうで、ケネディは議員になる前ハバナに数ヶ月滞在し、日夜女色に勤しんだという。

余談になってしまった。

観光する者にとって観光とは知り、学ぶことなのだ。そしてそれは欲求なのだ。

とは言いつつも、生理学的快楽もそこには必要なのだ。「飲む、打つ、買う」の三要素は必要だし、そこで儲けさせてもらうことも必要なのだ。

ここは大いに民間に開発してもらう。ここに多くの労働力を吸収してもらう。そのためには多少のことには目をつぶる。肝心なことは利益が再投資されることであり、雇用が増えることである。

率直に言って、今のキューバ人にはあまり働く気がない。労働市場での競争が成り立つには、しばらくは時間が必要である。

観光業は付加価値率がきわめて高い業種である。しかし陳腐化すればクズである。

それ自体が競争にさらされている。これは「水商売」と心得るべきである。今日持っている優位性をさらに活かすべく、イノベーション努力が必要である。

同時に、その優位性を大いに広げる営業努力がいっそう必要である。これもキューバ人の最も苦手とする分野である。

最後に、キューバ観光の優位点を上げておこう。

1.自然がそのままに観光資源である。長い海岸線、サンゴ礁とサンゴの作った白い砂。亜熱帯特有の環境。ただしカリブ海には似たような環境はたくさんある。

2.安全性は何物にも変えられらない社会資源である。ただしこれがいつまでも守られるかどうかは定かではない。それでも近隣国に比べれば比較的安全である状況は続くであろう。

3.アメリカに近いという地理的利点は同時に危険因子でもあるが、これは動かしようがない。「真夜中のカウボーイ」のラストシーンはマイアミ行のバスであったが、これがハバナ行の飛行機に変わる日は遠くない。島中アメリカ人だらけになるだろう。

4.非自然的な観光資源は、文化の多様性にある。何段階にもわたる白人文化と黒人文化の融合からキューバ文化は生まれた。キューバ音楽にとくに顕著だ。それが魅力となり、多くの観光客がリピーターとなる。

5.キューバ革命の精神もそれ自体が文化であり、キューバという国を輝かしている観光資源だ。フィデルとゲバラの精神は、キューバの美しい風土以上に美しく気高い。

6.観光インフラとロジスティクスには相当不安を抱えているが、対応策はこの文章の主意ではない。