以前、「特養を出たい」という相談を受けたことがある。
特別養護老人ホーム(通称特養)はある意味で人生の終着駅(の一つ)だ。病気で具合が悪くなって入院して、ある程度落ち着くと、慢性期の施設に移る。
例えば脳卒中の後遺症みたいなものが残ると回復期病棟というところに行く、ただしここには期限があってそれを過ぎたら出なければならない。
それが後遺症どころでなく重い障害を残すと、療養型病棟というところに移る。例えば中心静脈栄養(IVH)とか胃ろう栄養(PEG)とか人工呼吸器とかである。だいたいこのような人は長くは持たないで、療養病棟で命を終えることになる。
それで話が戻るが、回復期病棟の期限がすぎると、あるいはリハの必要がない人の場合なら、老人保健施設(老健)という施設に入る。老健で経過を見ながら自宅復帰の準備を進めて、「大丈夫」ということになったら家に帰ることになる。
ところが、家に帰れないほどの後遺症が残ってしまう人も少なくない。私の経験ではほとんどの入所者が帰れる展望はない。そうなると、終の棲家を探さなければならなくなる。それが特養である。
だから特養は「療養放浪記」の最終章なのだ。
ここから出るのには二つある。一つは病気が悪くなって病院に送られる道である。それでどうなるかというと、ざっと見て半分はそのまま病院で帰らぬ人となり、残りの半分は戻ってくる。しかしそういう人は必ずと言っていいほどまた悪くなる。そしてまた病院に送られる。それで帰ってくる人は殆どいない。
もう一つの道は、病気というより老衰であって、生命機能が落ちてきて、生きようという意欲がなくなる。もちろんその殆どは認知症を伴っている。この場合、家族ともお話した上で、静かに看取らせていただくということになる。
早い話が救急車で出ていくか霊柩車で出ていくかという選択になる。
どちらにしても特養をそれ以外の方法で出ていくことはありえない。そう思っていた。
ところが突然「特養を出たい」といわれたから驚いた。
担当者から話を聞くと、聞くも涙の物語だ。
個人情報になるので詳しくは話せないが、つまりは特養に入所していくだけのお金がなというのだ。
特養にも自己負担があって、もちろん以前からあるのだが、去年の改定で一部負担料がドーンと上がったというのだ。
旦那が入居していて、その旦那の年金で夫婦二人が生活していた。いままでもカツカツの生活で、それでもなんとか頑張っていたのだが、毎年年金は下がるは一部負担は上がるはで、「もうとても切り詰められません」という話になった。
それで「療養型ならもっと安いのでそちらに移りたい」のだという。おそらくどこかで小耳に挟んだか、誰かに吹き込まれたのだろう。
「紹介するのはやぶさかでありません。しかし受けてくれるような病院があるかなぁ」とその場は受け流して、なんとか制度活用や、資産処分とかでもう少ししのげないか、最後は福祉の方でということで、ケースワーカーの方に話を持っていった。その後話しは沙汰止みになったようなので、それなりに落ち着いたとは思うが、なんとなく後味の悪い話であった。

と、ここまでが話しの前段。
本日の赤旗に、「全国施設長アンケート」の結果が紹介されている。
まずアンケート調査の主体だが、老人福祉施設の運営者らで作る「21世紀・老人福祉の向上を目指す施設連絡会」という組織。略称を「21・老福連」という。民間の有志組織のようだ。
この「21・老福連」が、全国の特養の施設長にアンケートを取った。この内回答があったのが1,589施設。特養そのものは全国に7,708施設あり、その20.6%であるから、かなりバイアスがかかっている可能性はあるが、事例を見ていく上では説得力のある調査だと思う。
調査そのものの主眼は、15年の介護保険制度改定の影響を、施行後1年の時点で調べることにあった。しかし、いわば副次的に、入所者への影響が浮かび上がってきている。そこに赤旗が注目して記事にしたというのが話の筋道だ。

記事の見出しは「支払い困難 理由に退所――100超す特養で」 脇見出しが「自公強行 介護改悪ずしり――低所得者の入居 厳しく」

記事ではいくつかの結果が列挙されている。
1.約半数が介護保険制度改定が「入居者に何らかの影響があった」と回答した。
2.101の施設で「支払いの困難を理由に退所したものがあった」と回答した。(人数は調査していない)
3.311の施設で「配偶者の生活苦が強まった」と回答した。
4.その他の影響として、「個室から多床室への移動」が222回答、「利用料支払いの滞納」が206回答あった。
アンケート調査ではこれらの影響が何故生まれたかを問うている。施設側の評価を尋ねたものである。
5.408施設では「低所得者への部屋代の補助、食事代の補助を定めた『補足給付』の要件が変更されたため」と回答している。また367施設では「利用者負担が1割から2割に増えたため」と回答している。

ここまでが調査結果の紹介。以下は『補足給付』についての説明。
元々は14年6月の「医療・介護総合法」によって方向付けられたもので、それを具体化した15年の介護保険制度改定で給付の要件が厳しくなった。
1.預貯金などの資産が一定額を超える場合は補助の対象外となった。
2.一定以上の所得があれば利用料負担は1割から2割に引き上げ。
でこれがダブルで来るとボーダーライン層には、相当きつくなるだろうと予測されたが、今回それが事実として明らかになったということだ。

特養というのは、いわば老人にとって最後のセーフティ・ネットのようなものだ。だから困窮者には補足給付などの方法で「排除されない仕組み」を作ってきたのだが、これでは崖っぷちの下流老人を後押しすることになりかねない。
特養に対するそもそもの考えを、原点に立ち返って今一度検討すべきではないだろうか。