3.韓国のナショナリズム 近代化と自由化

A) ナショナリズムの定義

前の章までがいわば総論と言うか枠組み設定だったのに対し、ここからは韓国政治の各論となる。

まずナショナリズムを定義するために次の文を提示する。

ナショナリズムとは、国内において近代化を確立する、そして対外関係においては自主、平等を確保する、こういう二つの目標を同時に追求する運動です。

一般的なナショナリズムは近代化を追求する努力と自主化を追求する努力が相乗の関係にある。

次いで旧植民地諸国におけるナショナリズムの定義に移る。

旧植民地においては、近代化と自主化は相殺関係になる

というのが、南さんの考えだ。これもあまりにも単純で素直には首肯できない。

とにかく話をすすめる。

さらに旧植民地の中でも韓国には歴史的特殊性がある。朝鮮王国時代は清国への臣従状態があり、その後は日本の植民地となる。戦後は国土が分断され、永続的な戦争状態に置かれ、アメリカの軍事的・政治的・経済的隷属を余儀なくされる。

このあと、独特の言い回しがしばらく続くが、うんと図式的に言うと

①李承晩時代 自主性↑、近代化↓

②朴正熙時代 自主性↓、近代化↑

③金泳三時代 自主性↑、近代化↓

④金大中時代 自主性↑、近代化↑

ということで、金大中の時代に初めて自主化と近代化が結合して捉えられるようになった、ということらしい。

南さんはこういう。

日本との不平等条約によって自主の国となり、植民地の下での日本による近代化を経験したことによって、韓国のナショナリズムは両車輪が逆回りになってしまい、前進出来ずグルグル回ることになってしまった。

韓国のナショナリズムはどうしても日本との関係で語られます。戦後においては米に対するナショナリズムも大きな意味を持つようになりましたが、基本的に韓国のナショナリズムは日本絡みのものです。

ただこれをもって日韓関係の基軸概念とするのには抵抗を覚える。

日本の植民地支配はわずか30年足らずであった(その前10年間の属国時代を入れれば40年)。それが如何に理不尽なものであったとしても、それは70年以上も前に終わった。朝鮮は爆撃の被害もほとんどなく、日本人資産は無傷で残され無償で接収された。

終戦以来の20年間、日韓関係はほとんど断絶していた。朝鮮戦争への出動も日米同盟の枠内の行動であり、韓国という国家そのものとは縁がなかった。

朝鮮戦争後も李承晩政権とは没交渉の時代が長く続いた。私の朝鮮現代史年表でも李承晩時代に日本絡みの項目はほぼ皆無である。

私の子供の頃の韓国といえば、李承晩ラインを設定して日本の漁船を拿捕する報道しか知らない。民間レベルではむしろ北との関係のほうが重視されるくらいだった。

アメリカからの強力な後押しがなかったら日韓条約にも積極的に応じたとは思えない。

つまり、ここまで説明された範囲では対日ナショナリズムの強力さ(執拗さ?)は理解できないのである。