やっていてふと思いついたのだが、ミトコンドリアの導入に基づくTCA回路の獲得は、古細菌のシアノバクテリアへの逆襲ではないかということだ。
その昔、35億年くらい前のこと、真正細菌と古細菌は覇権を争っていた。
ところがある日、真正細菌は光合成装置を獲得した。
光によって炭酸ガスから炭水化物の合成に成功し、これを解糖することでエネルギーを獲得するという代謝経路が出来上がった。炭酸ガスは当時地球に溢れかえっていたから、増殖の資源は無尽蔵だ。これで一気に生物界の覇権を握る。
これに対し、メタン菌などの嫌気性代謝を営む古細菌は数の上で劣勢に追い込まれる。さらに酸素を嫌う古細菌は増え続ける酸素の中でバッタバッタと討ち死にしていった。(酸素が毒だというのは経験上からも分かる。むかし植物状態で人工呼吸していたヒトの病理解剖を行ったとき、脳がどろどろに溶けていた)
もはやこれまでかと思われたとき、思いもかけぬ救いの手が差し伸べられる。それがミトコンドリアだ。酸素利用型燃焼装置はエムデン・マイヤーホフ型装置に比べ10倍以上の効率を持っている。
燃料となる酸素はシアノバクテリアがバンバン作ってくれる。かつて古細菌にとって毒ガスだった酸素が救いの神になる。
古細菌と真正細菌とのこの新たな関係は、ある意味でウィン・ウィンのところがある。シアノバクテリアはエネルギーの獲得にあたって酸素を消費し炭酸ガスを産生する。しかし代謝にあたっては嫌気性代謝(ピルビン酸生成の直前に多少の酸素を消費する)のままである。好気性代謝を営む古細菌の登場は、炭酸ガス→酸素という一方通行に陥っていた真正細菌にとっても歓迎するところであった。
かくして酸素対二酸化炭素の動的バランスが成立し、ミトコンドリアを獲得した古細菌は真核生物へとモデルチェンジし、動植物界の祖先となっていく。(真核化とミトコンドリア取り込みの順は逆かもしれない)
という筋書きは成り立たないだろうか。
ただし、その後真核生物の一部は光合成装置を体内に取り込み、みずから光合成を営むようになった。この結果、真性細菌は生物界の主役を奪われ、辺縁的・寄生的存在に貶められていくことになる。