ということで、友田さんの研究を私なりに敷衍すると、

1.虐待ストレスの形態には視覚ストレス、聴覚ストレス、痛み(肉体的苦痛)ストレスがあって、それぞれに対して適応が生じる。

2.しかしそれはあくまで受身的適応にとどまり、脳の全面的発達を犠牲にする形でしか実現できない。

3.それはおそらく神経線維の髄鞘化(ミエリン化)を部分的に中止し、発達プログラム通り実行しないことで実現される。

ということになる。

神経核(灰白質)でなく神経線維(白質)に着目したことは優れたアイデアだろうと思う。

複合的ストレス(例えばネグレクト、飢餓)については三大ストレスの組み合わせで理解されることになるだろう。

友田さんのいう「脳の萎縮」は、これらの効果をネットとして捉えたものであろう。「萎縮」を言葉通りに捉えるなら脱髄過程ということになるが、脱髄はそれ自体が疾患であり、病的適応過程(病的環境に対する生理的反応)ではなく病的過程そのものである。

髄鞘化の概念

脳の神経細胞は生後間もなく出揃う。しかしこれらが十二分に力を発揮するためには通信速度の向上が必須であり、それには十数年にわたる髄鞘化の過程を待たなければならない。

髄鞘化の過程は生体内にロードマップとしてプログラミングされているものであるが、高次脳機能に関してはかなりエピジェネティックな要素が強いのかもしれない。DNA本体ではなくペプチド鎖の末端がアセチル化される過程は、ソリッドではなく強いストレス下では可変ないし可塑的となる可能性がある。

髄鞘化抑制因子

髄鞘化が抑制される原因のひとつとして高度ストレスが存在すると考えられる。

友田さんは、これらの過程の現場プロモーターとしてストレス・ホルモン、具体的にはステロイドを想定している。

これは例えば冬眠誘導物質などを想定すると分かりやすい。

しかし、発達の障害というかなり長期にわたる変化を見るときには、神経内分泌学的ネットワーク全体の中で考えなければならないだろう。カテコールアミン→ステロイドをイニシエータとして、各種ペプチドホルモンの複合作動系の中に、髄鞘化促進因子の発現を抑える何らかの要因が出現するとみるべきであろう。

間脳の作動機序の解明が中核的課題

これらの過程の中枢にあるのは生命活動の核心としての間脳(視床・視床下部複合体)だ。ここでの神経内分泌学的なダイナミックスを解き明かすのが、研究の究極目的となるのではないか。
それは赤旗のインタビューでの、ウツに関するコメントにも共通するターゲットだとおもう。