友田さんの和歌山での公開講演会(2011年)の記録である。この中の「発達過程の子どもの脳の脆弱性」という部分を紹介する。

A イントロ

1.ストレスの衝撃によって脳に癒されない傷がつく

最近(1980年代末以降)ではその「脳の傷」を可視化することができる。

2.大量のストレス・ホルモンが脳の発育を遅らせる

虐待ストレスによって扁桃体の興奮が高まり、ストレス・ホルモンの放出閾値が下がる。

B 虐待の既往のある健常ボランティアを対象とした調査

問診、心理テスト、脳MRを施行した。

性的虐待例(女性)では後頭葉の視覚野の容積減少が見られた。容積減少率は虐待期間の長さと相関していた。

暴言虐待では、聴覚野を構成している領域に異常が見られた。MRIトラクトグラフィにより大脳白質の神経線維の走向を調べたところ、ブローカとウェルニッケ中枢を結ぶ弓状束の軸索数減少が確認された。

体罰では、前頭前野の内側前頭皮質に異常が見られた。ここは行為障害、感情障害と関係する領域とされる。
「テンソル画像解析」による調査の結果、
視床から大脳皮質へと走る疼痛の神経伝導路の描出が著明に低下していた。

傷つく脳
友田さんの「子ども虐待と脳の発達」というページから、「児童虐待により傷つく脳」という図を転載させて頂く。

C 調査の副次結果

以上が主要な調査結果であろうと思う。

かなり大規模な調査なので、副次的にいくつかの結果(傾向)も出てくる。この内、被害時年齢との関連について他研究のレビューもふくめながら言及されている。

1.虐待を受けた年齢と脳障害の関係

海馬では3歳か4歳頃の体験が海馬の低容積化に最も強く影響する。

脳梁では9歳から10歳、前頭前野では14歳から16歳の虐待体験が低容積化に最も強く影響する。


非常に貴重なデータです。熱意がもたらしたアツい研究でもあります。もちろん、解釈は慎重を要するでしょうし、まだまだ技術的・手法的な洗練が求められてくるとは思いますが、なによりもその先駆性と独創性に心打たれます。