昨日の安倍首相の記者会見をめぐって、天地をひっくり返すほどの議論が沸騰しつつある。

集団的自衛権そのものも重要な争点だが、やはり主要な問題は憲法解釈を閣議で決定してよいかどうかだろう。

内閣の閣僚を選ぶ権限は総理大臣にあるから、閣議と言っても総理大臣の意思一つということになる。時の総理大臣の意思一つで憲法をいかようにでも運用できるというのは、「独裁」と言わずして何なのか。

議論も手立ても尽くすと言っているが、そんなセリフはなんの慰めにもならない。第一、まじめにそう考えている人物なら、こんなことをするはずがないだろう。


それはそれとして、議論の舞台に上がっていない話題を提起しておきたい。

グレーゾーンをめぐるケース・スタディーで提示されている事例は、実のところほとんどが中国を仮想敵国としていることである。

アメリカ艦船が攻撃されるという。「誰に?」、中国以外にない。仮にそれが北朝鮮だったら、アメリカは日本を呼ぶことなく独力で対処するだろう。場合によっては韓国軍を動員するかもしれないが、日本に声をかけることはないだろう。

より面倒になるに決まっているからである。

だから、日本が集団的自衛権を発動するということは、中国と戦争を始めるということにほかならない。

それは中国に対するもっとも危険な挑発行為にほかならない。

問題はそれにとどまらない。より深刻なのは、「中国がそう捉える事になるだろう」ということである。

米中が戦う場面は近い将来においてきわめて想像しにくい。

しかし尖閣で日本と中国が衝突する可能性はきわめて高い。現に中国の軍艦がミサイルの照準を日本の巡視艇にあてるという「偶発事件」が発生している。

ことがどこまで発展するかは、中国側が日本にどのくらい敵意を持つかによって規定される。

このような瀬戸際的挑発は、日本国民に安全を保証するどころか、偶発戦争の危険を押し付けるものにほかならない。

さらに、それは冷えきった両国関係をさらに悪化させ、経済・貿易面でも深刻な影響をおよぼすことになるだろう。