「クアラルンプール宣言」と日本共産党のとった立場

今朝の赤旗を見て仰天。おっ、善隣会館事件の再現かと見まごう。

日本共産党と中国共産党の事実上の決裂だ。

他のメディアではまったく触れられていないから、とりあえずは赤旗報道を読み込むしかない。

私のような年表オタクには、時刻表的経過があいまいで、率直に言えばきわめて分かりづらい文章だ。「柳条湖」事件ではないがどちらが先に発砲したのかはもう少し続報が出てこないと確定できない。

記事を読みながらジグゾーパズルのように事実を当てはめて行く事になる。総会は2,3,4の三日間行われたので、1日目、2日目、3日目というのと1日づつずれるので注意が必要だ。ここでは1日目、2日目、3日目と記載することにする。


まずは事実経過から

9月2日からクアラルンプールで「アジア政党国際会議」(以下ICAPP)が開かれた。

日本共産党(以下JCP)は以前からこの会議にたいへん力を入れていて、今回も志位委員長が自ら出席し、総会演説を行っている。

そこで会議が総会宣言を発表することになった。


1.総会開始までの経過

総会前から宣言起草委員会が開かれ検討が開始されている。JCPはこの委員会のメンバーではない。委員としては参加していない。ただしこの会議の常連としてこれまで活躍してきた実績がある。

JCP代表団は総会の開始前に、核兵器廃絶、平和の枠組みなど三点について事務局に文書提案していた。この提案は起草委員会に一定の重みを持って受け止められたようだ。

JCP代表団は開会前日(9月1日)の未明、開催地マレーシアの首都クアラルンプールに到着した。たまたまそこしか取れなかったのかもしれないが、異例の到着時刻である。物見遊山ではない。多分ホテルか会場のいずれかに詰めて仕事していたのだろう。

この日の夜、総会参加者を歓迎するレセプションが開かれた。志位委員長らJCP代表団は、ICAPPのホセ・デベネシア、チョ ン・ウィヨン両共同議長らをはじめ、参加者にあいさつし、交流した。

おそらくその席上で、事務局長は「積極的なこの提案に感謝する」と述べた。ここが一つの伏線となる。

想像するに、総会開始の前日までに、起草委員会は第一次草案を完成させた。そこにはJCPの主張する「核兵器禁止条約の国際交渉の開始」(called for a prompt start of negotiations on a nuclear weapons covention) という内容が明記されていた。


2.総会の1日目(9月2日)

ICAPP総会が始まった。会の模様については、「ベトナム・フォトジャーナル」が短く伝えている。

冒頭で、マレーシアのナジブ首相が歓迎のあいさつを行った。

クアン委員長が基調演説を行った。

アジアは安全保障と発展などの面で多くの試練に直面している。各国は、平和、安定、繁栄、領有権紛争の平和的解決、衝突防止、持続的かつ平等な発展のための互恵協力、各国間の発展格差の是正、環境保全、気候変動への対応、各国国民間の友好関係の強化などに対する責任を負う必要がある。

というもので、全体としてはバラ色というより一定の情勢の厳しさをにじませたものであった。

おそらく第一日目の会議開始に前後して、「宣言起草委員会に参加しているある代表団」が、JCP代表団に草案を見せてくれた。

どこの国かは分からないが、それは大したことではない。別に深刻な話ではないから軽い気持ちで見せてくれたのだろう。

ただもちろん非公開の文書を非公然に見せてくれたのだから、証拠はない。あっても証拠能力はない。

ところが、その日、総会参加者に配布された「宣言草案」はそれとはまったく異なるものであった。

表現上の問題としては

1.核問題で、核兵器禁止条約も国連事務総長の提案にもまったく触れていない。

2.領土問題では、領土に関する紛争問題を国際法にしたがって解決するという点がふくまれていない。

という点で不十分なものであった。

さらに聞き捨てならない「非公式情報」として

3.「中国共産党代表団が、日本共産党の提案を採用することに否定的な態度をとっている 」という情報。

4.紛争問題を国際法を基礎として解決することを宣言に書き込むことに、中国共産党代表団が強く反対しているという情報。

が飛び込んできた。

この4点はJCPとして容認出来ないポイントであった。

ただし第3点については、その真意もふくめて、よほどの裏付けが必要な間接情報である。この点については後ほど最大の問題となる。

第4点は、これまでもASEANの会議などで同じような事態があり、コンセンサス会議では一定の妥協も求められるかもしれない。

とりあえずやらなければならないことは明白である。まず文章表現の問題では、1.2.の点について「一次草案」の復活を求めることだ。

これがJCP修正案の提示だ。(内容は重複するので省略)

この修正案はICAPP常任委員会、宣言起草委員会のメンバーになっている各党に手交された。

3.CCPとの2度の会談

最大の問題は言うまでもない。3.の不確かな、しかし深刻な疑念についてCCP側の真意をたしかめることだ。この点においてJCPは果敢に行動したと思う。緒方さんには心から敬意を評したい。

まず緒方さんが修正案を携えてCCP代表団長のところに押しかけた。第一日目の午後の事のようだ。

団長は李軍という人で肩書は中連部の「部長助理」となっている。楊潔篪とサシで話せる人物であることは間違いないだろう。

実は緒方さんは李軍とは面識がある。彼は06年の6月に東京を訪れ緒方さんと「夕食をともにしながら懇談」している。この時の肩書は中連部第二局局長だ。

この頃のCCPはまだとてもよかった。中堅クラスが入れ代わり立ち代わり現れては懇談を積み上げていた。李軍もその一人だったはずだ。

だからか、李軍は完全に逃げ腰た。「過去のことは知らない」、「この問題については議論したくない」と言ったと、緒方さんは書いている。

ここで緒方さんは一旦戻って志位委員長と協議した。そして「問題の重大性を考え、中国共産党に再度の話し合いを提起」した。

李軍はあげくの果ては「あなたは覇権主義だ。自分たちの意見を押し付けている」とまで言い出した。ここまで来ると完全に「泣き」が入っている。

4.1日目夜(9月2日)の宣言起草委員会

事務局長が日本共産党の修正案を議題とした。中国共産党を含めて異論は出ず、全員一致で修正案が受け入れられた。

5.2日目(9月3日)の経過

志位さんの総会演説は2日目の午前に行われた。(私は、今日、本当はその内容を紹介するつもりだったのが、とんでもないことになってしまった)

演説を終えた後、志位委員長は、午後に国営ベルナマ通信の取材を受けた。赤旗報道を読む限り、当り障りのない返答。ベルナマ通信の記者が「包括的な提案で感銘を受けた」と語るのとは対照的だ。

午後に総会参加者に2回目の宣言案(当初案を入れれば3回目)が配布された。この宣言案はJCPの修正案が受け入れられたもので、つまり当初案と同じものであった。

6.3日目(9月4日)の経過

閉会式の前に、3回めの宣言案が新たに配られた。

1.「核兵器禁止条約についての速やかな交渉開始を呼びかけた」の部分が削除。

2.「潘基文国連事務総長が提案しているような、核兵器のない世界」という表現上の換骨奪胎。

閉会式の開始直前、事務局長は「ある国の代表団が強硬に要求してきた。本国の指示だと思う。宣言を採択するためには受け入れるしかなかった」と釈明した。
JCP代表団は以下のように判断した。

1.「核兵器禁止条約のすみやかな交渉開始」は2014年のコロンボ、10年のプノンペンの総会宣言にもふくまれており、「重大な後退」と考えられる。

2.しかも草案からの削除は総会の民主的運営という点から見ても重大な問題をはらむ。(記事では「総会の民主的運営を乱暴に踏みにじるやり方」と最大級の非難を浴びせている)

そこでJCP代表団は、宣言案への「部分的保留」を表明し、その旨の文書を議長団に提出した。同時に「一代表団」=中国共産党代表団への強い抗議を表明した。

7.「保留通告」の意味

JCP代表団は「総会の民主的運営を乱暴に踏みにじ」った事務局への非難は避けている。

その理由は、おそらく事務局のやりかたがコンセンサス方式だからだろう。つまり一党でも反対する党があれば、それは宣言には盛り込まれないということになる。コンセンサスを前提とする限り、事務局は「総会の民主的運営を乱暴に踏みにじ」ったとは言えない。(「宣言」を出さないという選択もあったが)

その代わり、JCP代表団はこの重大な変更が中国共産党(以下CCP)の干渉によるものであることを暴露し、攻撃する。

つまりこの大々的報道の主要な目的は、CCPトップの干渉への非難ということになる。

8.JCP代表団の帰国後の動き

日本共産党の志位和夫委員長ら党代表団は4日午後、成田空港に到着、帰国した。

午後と言っても1時から11時まで幅があるがよく間に合ったものだ。

4日の昼までには会議が終わったらしい。空港までの移動や出国審査などを考えると、それでないと間に合わない。

それから常任幹部会が行われた(はずだ)

それにしても、思いもかけぬ3日間の強行軍、ご苦労さまでした。

9月5日には、記者会見が行われた。志位さんをふくむ代表団員は参加せず、小池書記局長が対応した。

「非常に不当な対応だ。1998年に日中両党間の関係を正常化して以来初めてだ」と強い言葉で中国側を非難した。(ただしこれは時事通信の配信で、赤旗には野党共闘についてのみ言及)

同じ日に志位さんはツィッターに下記のコメントを載せている。

核兵器禁止条約の国際交渉」を盛り込んだ宣言案に対して、総会の民主的運営に反する横暴きわまる方法で削除を強要した中国共産党代表団のふるまいは、まったく道理がなく厳しく批判されねばなりません。

8.日本共産党がケンカする腹を固めた理由

JCP代表団がケンカする腹を固めた理由はCCP代表団が突然態度を変え、強引に草案を書きなおさせるに至った一連の経過であろう。

相手は中国政府や中国軍関係者ではない。CCPそのものである。中連部の意向を代表して参加しているはずのCCP代表団の見解を、一夜にして一変させる権限を持つのは誰か。それは習近平をふくむ党の最高指導部以外にない。

彼らは杭州で20カ国首脳会議を主催しながら、クアラルンプールのかなりマイナーな会議にまで目を光らせ、状況を一気にひっくり返させた。サミット開催中だからこそ、抑えこんだのかもしれない。

なぜこのような会議にまで党のトップがかかわるのか。それはよく分からない。非公式な情報が言うように「JCPの提案を採用」させないことにあるとすれば、かなり容易ならざる事態であることは言うまでもない。

いずれにしても国際連帯に当たる人々にとって、論争のさなかに行われた志位演説の内容を今一度しっかりと把握することが必要だろう。