アルツハイマーと記憶障害
アルツハイマーと記憶障害
まずはアルツハイマー病で記憶障害が起こるメカニズムについておさらいしておく。
2015年09月23日 アルツハイマー病 研究の歴史
から、記憶障害に関する事項を拾っておく。1901年 精神科医でクレペリンの門弟アルツハイマーが、嫉妬妄想、記憶力低下などを主訴とする患者アウグステ・Dを症例報告。
1910年に師匠のクレペリンが教科書を発表。この中で「アルツハイマー病」として大々的に取り上げる。
1911年にアルツハイマー患者の剖検脳を、鍍銀染色で検討した結果が発表される。病理所見は次の3つにまとめられる。
1.大脳の萎縮,皮質の神経細胞の減少,
2.老人斑(シミのような異常構造)の多発,
3.神経原線維変化(神経細胞中の繊維状の塊)
これは50年後に電子顕微鏡で更に詳しく検討され、老人斑の本態はアミロイドであること、神経原線維の変化は神経細胞の成分であるタウが過剰リン酸化により変性したもの、というところまで進んだ。
アミロイドについてはその後の検討で、アミロイド・ベータ蛋白であることが分かった。この蛋白は細胞膜を構成するAPPという蛋白の壊れた残骸で、脳で常に産生されており、これが排出されずに細胞内にとどまり蓄積していることが分かった。
このアミロイド・ベータ蛋白が細胞内の過剰リン酸化をもたらし、これによりタウが変性を起こし、最終的に脳細胞の死をもたらすようだが、どうもこの辺の機序は良く分からない。
次はは素人向けのやさしい解説。
認知症に関する記憶の種類には、短期記憶、長期記憶、エピソード記憶、手続き記憶、意味記憶の5つがある。(1)短期記憶障害
海馬に格納される記憶。時間の経過とともに忘れ去られるか長期記憶に移行される。
認知症の記憶障害の主徴候を成す。
(2)長期記憶障害普段は考えていなくても、何かのキッカケで記憶の底から思い出すことのできる記憶(分かりやすそうで分かりにくい説明)
(3)エピソード記憶の障害体験したこと(エピソード)そのものを忘れてしまう障害(これも分かりにくい説明)
(4)手続き記憶の障害身体で覚えたことを忘れてしまう障害。
(5)意味記憶の障害言葉の意味を忘れてしまう障害
ということで、素人向けに端折っているので、かえって分かりにくい。まぁ5種類あるということが分かればよいか。
それにしても非論理的な分類だな。いかにもアメリカ心理学風だ。
次は「アットホーム介護」というサイトの「なぜアルツハイマー型認知症は記憶障害から始まる?その謎に迫る」というページ
人間が物事を記憶し、思い出すには3つのプロセスが必要です。
まず、新しい物事を覚えること「記銘」し、次に、それを脳の中にしっかりと「保持」し、次に必要な時に取り出す「想起」というプロセスを経て、初めて物事を記憶し、思い出すというプロセスが成立します。
ウーム、前のが現象的分類だとすれば、今度はメカニズムによる分類だな。
アルツハイマ―型認知症を発症すると、この記憶の中枢的存在の海馬付近に病変が発生します。アルツハイマ―型認知症の始まりは、海馬近辺です。その、海馬から側頭連合野や頭頂連合野といった別の脳の部位に移された記憶には、初期段階のアルツハイマー型認知症の影響が及んでいないのです。
というが、本当にそうか。認知症は「海馬病」なのか? そこが知りたいのだが…
別のページにもこう書いてあった。
アルツハイマー病では、学習に関連する海馬の脳細胞が最初に損傷を受けることがよくあります。そのため、特に最近学習した情報を思い出すことができなくなるといった物忘れが、しばしばこの疾病の初発症状となっています。もう一つ別のページ
アルツハイマー型認知症の特徴として、大脳の後半部(側頭葉、頭頂葉、後頭葉)の萎縮が次第に進むことです。
まず、脳の側頭葉と呼ばれる部分の海馬の脳神経細胞が減るところからはじまります。
理研のプレスリリースにこんなのがあった(2016年3月17日)。何かスタップ細胞を思い出してしまう。
「アルツハイマー病で記憶は失われていない可能性 -アルツハイマー病モデルマウスの失われた記憶の復元に成功-」
ADでは、記憶の形成、保存、想起に重要な海馬の周辺で神経細胞の変性が始まることから、海馬の異常が記憶障害を引き起こす可能性が指摘されていました。その記憶障害が記銘障害なのか想起障害なのかは不明である。
今回はモデルマウスに嫌な思いをさせ、その最中の「記憶エングラム細胞」というところを遺伝学的標識でマークした。
翌日ふたたび嫌な思いをした環境に突っ込んだが、認知症マウスはたじろがなかった。ところが「記憶エングラム細胞」に青色光線を当てて活性化してやると、マウスは明らかに嫌がって、たじろいだ。
ということで、研究者は記憶障害は記銘障害ではなく想起障害だと推量しています。
ただこれも、アルツハイマーの主座が海馬であるという前提です。
なお、このニュースを「アルツハイマー病になって失われた記憶は復元できる可能性が示される」と報道しているサイトがありますが、この研究はあくまでもリサーチです。
ということで、どうも記憶障害は「海馬病」ということだ。
しかしアルツハイマーと「海馬病」は同じ病気ではない。アルツハイマーは遥かに広範な変化である。
ある説明ではアルツハイマーは海馬から始まって全体に及ぶようなニュアンスで記載されているが、果たして本当であろうか。
第二に、病理学的変化はさておくとして、臨床症状が海馬障害から始まるのにはなにか理由があるのか、これも良く分からない。
第三に、記憶といえば海馬と戻ってくるが、本当に海馬がすべてであろうか。むしろ判断する中枢のそばにそれぞれに特化した記憶装置があると考えるべきではないか。例えば (4)手続き記憶と書いてあるのは、かなり頭頂葉・小脳に属する記憶ではないだろうか。
いずれにしてもアルツハイマーにおける記憶障害を概念付けるためには、まずは海馬の構造と記憶の過程から始めて、脳の記憶システムの全体像へと進んでいくしかなさそうだ。
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