ラテンアメリカ人民の闘い

ラテンアメリカの政治経済

現代ラテンアメリカ情勢 (伊高浩昭さん)

というサイトがあって、新しい情報を提供してくれている。
すこし、今回は日本語でお勉強。

はじめに

エクアドルのコレア大統領は経済不況の原因について、①原油の持続的な価格低迷、②中国経済の減速にともなうマーケットの縮小、③国際制裁に伴うロシア市場の縮小、④一次産品の国際価格低下による輸出額の減少、⑤国際的な投資額の減少に伴う外資導入の縮小を、ラテンアメリカ経済共通の困難として挙げている。

これに各国の特殊性に応じた特殊な困難が加わることになるので、実際上は7重苦、八重苦となる。

この中で、アルゼンチン、ブラジルの両大国が相次いで親米派の手に移り、UNASURは事実上解体状況となっている。これに勢いを得た親米勢力はベネズエラつぶしにすべての力を集中しつつある。

しかしことはさほど簡単なものではない。ブラジルのルセウ大統領を陥れた親米派の策略が暴露されつつある。ルセウの復権もありうる。一方で政権をとった親米政権が何をやるのかということもアルゼンチンで示されつつある。

ラテンアメリカは、まるで一つの国であるかのように情報が素早く広がる。親米派の情報管理の壁が崩れたとき、人民の大きな反撃はありうる。そのことを確信したい。

ボリビア

かつてボリビアは中南米最貧国の一つだった。豊かな地下資源があるが、それは一握りの富裕層に独占され、欧米の多国籍企業の支配のもとにあった。

ボリビアの国民は「宝の山の上の乞食」と呼ばれていた。

それが2006年にエボ・モラレスが政権について風向きが変わってきた。

彼は反米親キューバを唱え、民族衣装で国際会議に臨むなど派手な政治パフォーマンスで話題を呼んだが、それだけではなく10年にわたる内政でも着実に成果を上げている。

それが6月に発表された経済白書である。その内容を少し紹介する。

極貧率の減少: 10年前、この国の極貧率は38%であった。現在では半分以下の17%に減少している。ボリビアにおける極貧率の減少はラテンアメリカのなかでもっとも大きい。

極貧率減少をもたらしたもの: エボ・モラレス政権は天然ガス資源を国有化した。これにより国庫が潤うようになった。

政府は財源を救貧対策に集中した。具体的には

①子供(通学児童)、老人、女性(妊娠・出産後)への社会交付金を増額した。

額は子供で年29ドル、老人で平均300ドル、女性で260ドルだから大したものではない。

②最低賃金の段階的引き上げ。10年間にわたり平均5~10%の引き上げ。累積で2倍化したことになる(単純計算の場合)。

以上のような社会的前進にもかかわらず、モラレス政権は政治的には重大な後退を余儀なくされている。2月の国民投票で再選を可能にする憲法改正を図ったが、48%の賛成しか得られず、野党勢力に敗れたのだ。

モラレスは、この間のラテンアメリカの政治的後退を、経済的理由ではなくエディアとの闘いの不十分さに求めている。

これには理由がある。投票直前にモラレスの愛人問題、とりわけ二人の間に子供が一人いたという情報が流されたのだ。現在ではこれがデマだったことが確認されている。

 

コロンビア

6月23日、ハバナで政府とFARCの和平協定が調印された。その後タイムテールの詰めが進み、9月25日に国民投票が施行される運びとなった。今度こそ恒久的な平和の始まりとなることを祈るばかりである。

そもそもこんなに長引いたのは、元FARC活動家の身の安全を政府が保証できなかったからだ。80年代なかばFARCは和平に合意し、武器を捨て山から出てきた。そして政党を結成し選挙に臨んだのだが、その間に数千の活動家がテロの犠牲となった。

彼らはふたたび山に閉じこもった。それは深いトラウマになっている。だから和平が成功するかどうかの勝負はこれからというところがある。

根本にはコロンビアが農業国であり、オリガルキー(寡占層)が支配する構造が改められていはいないことにある。そしてオリガルキーの手先としてのコロンビア軍の残虐性が反省されていないことにある。

ガルシア・マルケスの小説にもあるように、この国は100年以上も血を血で洗うような戦争が続いてきた。第二次産業が安定的に発展するような経済・社会の変革が不可欠であろう。

 

アルゼンチン

15年12月、不況下でアルゼンチン前政権は支持を失い、保守派のマクリが勝利した。

マクリの行ったことはひどいとしか言いようが無い。

マクリは就任早々、電気代を5倍、ガスを3倍化した。おりからのドル高の中で食料品も値上げされた。

これについてエネルギー相(シェルの元重役)は「もしこのレベルの価格で消費者が高いと思うのならば、消費するのをやめたらどうか」と言い放った。

最初の数ヶ月で、解雇が16万人にのぼった。政府も公務員3万人の解雇でこの動きを助長した。労働者たちは、警官たちと公証人によって、職場に入ることを阻止された。書類を読み上げることによって、かれらは解雇されたことを知らされた。

毎日のようにレストランが閉店に追い込まれ、大学、劇場、そのほかの場所は麻痺状態となり、無数の零細企業が廃業となった。

半年を経た現在、新政権の評判は芳しくない。マクリ大統領一族の名がパナマ文書に登場したのである。当時彼はフェルナンデス・キルチネル前大統領の汚職を見つけ出そうと懸命のキャンペーンを張っていたが、釣り上げたのは自分の体だったというお粗末だ。

ただしキルチネルの不正蓄財額は半端ではない。900万ドルの隠匿金のほか、未申告の600万ドルも摘発されている。

世論調査では65%の人がこの半年で貧しくなったと感じており、新政権への支持は減少している。

前政権派が多数を占める議会は、これを抑えるために解雇条件を厳しくする緊急法を採択した。しかしこれは大統領の拒否権発動で不発に終わった。

さらに文化相は軍事独裁時代に3万人の人が行方不明になったという事実を否定した。

 

ブラジル

5月、予算支出について「粉飾」があったとして、ルセウ大統領の職務が停止された。国会における採決はわずか1票差であった。副大統領のテメルが職務を代行するが、ルセウも労働党もこれを認めていない。

上院の調査委員会は「粉飾決算」にルセフが関与した証拠はない、との結論に達した。

本来、大統領弾劾審議は、大統領が直接関与した例外的に重大な過失がある場合に限って認められており、粉飾決算などを弾劾審議開始の理由にするのは違憲である。

「彼女は現在までのところ、一般犯罪との関連で、一つの責任も問われてはいない」(エクアドルのコレア大統領)のである。

ルセウは職務停止を「議会におるクーデター」と呼んでいる。連立与党であったPMDBが財界側に寝返り、ルセウを追い落としたとされる。最近わかったのは、ペトロブラス汚職に絡んだPMDB幹部が自らの訴追を避けるために芝居を打ったということだ。

議会採決の直前、PMDB党首がペトロブラス重役と会い、「捜査を止める唯一の方法は、大統領をルセフからテメルに替えることだ。国軍高官らもルセウ打倒を了解している」と発言。このテープが新聞にすっぱ抜かれている。

首謀者のクーニャ下院議長は、その後汚職によりその座を追われた。共謀者とされるテメル副大統領にも収賄疑惑が浮上している。

少数与党のために国会が支持しなければ政局運営がにっちもさっちも行かなくなるのは当然だが、ルセウは国会議員に選ばれたのではない。全国民の投票で選出され国民の信託を受けたのであるから、三権分立の建前からすれば職務停止は越権行為である。

「新政権」は選挙の洗礼を受けないまま、社会保障の削減と労働者の権利剥奪に動き始めている。労働組合は全国行動などにより反撃を強めている。ブラジル共産党のフェガリは、「このゲームを変える民衆の能力をみくびっている」と語る。

 

ペルー

6月の大統領選挙でクチンスキーがケイコ・フジモリを僅差で破り勝利した。左翼「拡大戦線」(FP)が選挙最終盤でクチンスキー支持に回ったためだ。

前回の選挙もそうだったが、ケイコ・フジモリの主張はつまるところフジモリ政治をもういちど評価せよというものだ。現に国会の過半数(73/130)はフジモリ派が握っている。国民はフジモリを評価しているじゃないかということだ。

フジモリが弾圧を指示し、その結果多くの人が虐殺されたというのが罪状になっている。しからば、そこは問わないで「その代わりに娘が出てきたら、どうなんだ」と問うている。フジモリ政策の本体の評価だ。

リベラル系の論調にはそれが見いだせない。「独裁時代に戻る」というだけだ。

我々はかつて、それに対する答えとしてジャンタ・ウマラに期待した。しかし彼の行った政策はネオリベそのものだった。そしてクチンスキーは金融資本のテクノクラートであるから、さらに右に向かうであろう。

キューバ

米国との国交は回復したものの、50年間に蓄積されたキューバいじめのさまざまな法体系は、自由化の歩みを遅らせている。オバマは再三キューバ封鎖の解除を議会に要請しているが議会にはこれに応える動きはない。

それどころか、米連邦下院の共和党は経済封鎖強化策を予算に押し込んだ。そこには交流の制限、輸入の制限、送金・融資の制限が盛り込まれている。

経済成長はベネズエラ政情不安を受けて鈍化しており、観光産業の隆盛にもかかわらずGDPの伸びは1~2%に留まると予想されている。

キューバでは引き続き企業活動の自由化が進められている。理髪店からレストランに至るまで開業が相次いでいる。外交関係を再開して以来、ワシントンは私企業の発展を優先させており、今後も注意深い観察が必要である。

最後に6月のカリブ首脳会議でのラウル・カストロの開会演説を引用しておく。

ラテンアメリカにおける帝国主義と寡頭勢力による反転攻勢に無関心であってはならない。

米州諸国機構(OAS)は過去も未来も帝国主義の道具だ。キューバはOASに復帰する意志は毛頭ない。

 

ベネズエラ

ベネズエラの経済が楽なわけはない。原油はベネズエラの輸出額の96%だ。原油価格が半分になれば、歳入は半分になる。格付けが下がれば為替価格は低下し購買力はさらに落ち込む。

基礎生活物資のほとんどを輸入に頼るこの国では、それはそのまま物価の上昇に繋がる。生産原料の輸入が止まれば生産は減退する。

これに異常な降雨不足が拍車をかけた。水力発電が止まり、厳しい停電を余儀なくされた。

世論調査でマドゥロ政権への支持率は20%、不支持率は67%となっている。不況の中での国民の怒りをマドゥロが一身に背負っている感がある。

マドゥロ政権は必死に活路を見出そうとしているが、通貨ボリーバルが三通りもある為替相場のもとで、ベネズエラ経済は国際的信頼を失っており、長期の維持は不可能となっている。

ただ、ひとつコメントしておきたいのは、悪名高きガソリン補助金の廃止に着手したのは、マドゥロ政権が最初だということである。

米国の支持を受けた反政府勢力は、ふたたび大統領リコール運動をはじめた。そして大企業による生産サボタージュを強化した。生活必需物資の9割は民間企業が支配しており、物流阻止、物資隠匿などが横行している。

政府は軍を出動し、主要5港を管理下に置いた。倉庫からは大量の食料品や薬品が発見され、供給に回された。

政府はさらに生産を停止させている工場を接収し、産業活動を止めている企業経営者の逮捕を命令した。しかし状況の好転は見られない。

アメリカではベネスエラ中央銀行の支払い用口座(シティバンク)が閉鎖された。「ベネスエラ経済の危機によるリスク増大」としている。

反政府デモは暴力性を強めつつある。指導者カブリーレスは軍に対し「憲法と政府のどちらの味方をするのか」と問いかけた。これはクーデターの呼びかけとも取れる。

米州機構は人権を口実にした攻撃を強め、12月までにリコール投票を実施なければ「米州民主憲章」に基づいて加盟資格を停止すると脅している。

アルマグロ事務総長は「(リコール投票は)12月以前に実施されるべきだ。実施されないと、ベネスエラ人民が意志表示する可能性が出てくる」と発言している。

かつてチャベスの下でラテンアメリカの変革を主導したベネズエラは、今や満身創痍の状態となっている。だが、依然として耐えている。

 

ニカラグア

資源輸出国ではないことから、国際不況の影響もあまりなく着実な成長を遂げている。

3期目(85年にも一度当選)を目指すオルテガ大統領の人気は依然として高く、世論調査では44%が三選を支持。有力な対抗馬もいない。

別の世論調査では、与党サンディニスタへの支持率は89%にのぼっている。

ただ、ニカラグア大運河構想は香港側の事情でかなり遅れる見込みとなっている。そんなものなどないほうが幸せな気もするが…

 

エルサルバドル

映画「サルバドル」でもおなじみの大量虐殺の国エルサルバドルでも、ようやく虐殺者への追及が始まろうとしている。

和平後の93年にいったん恩赦法が制定されたが、サンチェス大統領がこれに異議を唱えた。これにもとづいて最高裁で審議が行われ、この程、恩赦法を違憲と判断した。

背景には和平後も政治全体に睨みを効かせていた軍部の影響力が減退したこと、FMLN政権の安定化があげられる。

従来、法廷と検察は内戦中の事件が問題になった場合、加害者に有利な姿勢をとっていた。無処罰・免罪の見直しが期待される。