ここまでの話では、爪白癬に効くツケ薬だということ、かなりお高い薬だということがわかった。
しかしなぜ効くのかの説明はない。
なぜ効くのかを説明するためには、
1.一般的な抗白癬薬の作用機序。
2.従来型の抗白癬薬ではなぜ経皮的使用が無効なのか、その理由。
3.クレナフィンの従来型抗白癬薬との構造的違い(特異性)
4.クレナフィンの経皮使用が有効な理由(作用機序)
を説明してもらわないとならない。
今ひとつ納得がいかないのは、いままでの抗菌剤が効かないのが、ケラチンとくっつくと失活してしまうということなのか、それとも別の理由によるものなのか、そのあたりが説明されていないことだ。
まず順を追って勉強していこう。
1.白癬菌はどのように繁殖するのか
皮膚の角質はケラチンという硬い物質で保護されている。ケラチンの本態は蛋白である。普通は固くて消化できないのだが、白癬菌はケラチナーゼという酵素を持っているために、ケラチンを消化できる。そして、それを栄養として繁殖するのである。
したがって栄養源を立って兵糧攻めにすることはできない。殺すしかないのである。
抗白癬薬と言われるものはすべて殺菌作用を持つ。それ以外の民間療法は効かないと考えるべきである。
2.一般的な抗白癬薬の作用機序
これまで、有効とされてきた抗白癬薬はすべて、白癬菌の細胞膜を壊すことで白癬菌を殺す働きを持っている。
此処から先はケラチンもケラチナーゼも関係ないので、せっかく覚えたばかりで恐縮だが、一旦忘れてほしい。
3.細胞膜はこうして作られる
細胞膜の成分は、大ざっぱに言うとリン脂質で出来ている。リン脂質というのは、大ざっぱに言うとコレステロールにコリン、リン酸、炭水化物が結合したものである。
リン脂質の種類は動物により異なっている。その違いは、リン脂質のボディーを形成するコレステロールの種類の違いによるものである。
それ以上の話は、それだけで何冊もの本になるので省略する。
白癬菌の細胞膜を構成するリン脂質は、下図のような流れで作られていく。
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この経路の最初はコレステロールの生成過程と共通であり、経路の途中までは人間の細胞膜を構成するコレステロールと共通である。
ラノステロールという物質から白癬菌特有のコレステロールとなり、最終的にはエルゴステロールという物資に至る。
これにコリン、リン酸、炭水化物が結合することによってリン脂質になり、白癬菌の細胞膜を構成する。
4.抗白癬薬は細胞膜合成を阻害する
この経路を何処かで切断すればエルゴステロールができなくなり、エルゴステロールがなくなれば、細胞膜ができなくなり、白癬菌は死んでしまう、という仕掛けである。
このようなまどろっこしい兵糧攻めでなく、直接細胞膜のエルゴステロールに取り付いて細胞膜を壊すというプーチン型抗菌剤もある。これは命を脅かすような真菌の殺し方で、たかが水虫にそこまでやることはない。 |
経路を切断するには、その経路を推進している一連の酵素のどれかを不活化させてやればよい。
安全のことを考えればできるだけ下流で切ったほうが良い。
目下狙われているターゲットは、ラノステロールを“むにゃむにゃトリエンオール”に変換する酵素で、「ラノステロールC-14脱メチル化酵素」と呼ばれる。
5.抗白癬薬はどうやって効くのか
やっと2番めの話題に移ることになった。薬がどうやって効くかはわかった。しかしアセチルCoAからエルゴステロールまでの経路が進行するのは白癬菌の細胞の中だから(小胞体)、細胞膜に接するまで薬が行かなくてはならない。
そこまで行ったら、今度は細胞膜を通過して細胞内に入らなければならない。つまり2つのバリアーがあることになる。
ところが、はっきりしないが、印象としては後者のバリアは意外とかんたんに通過できるようだ。そして菌の細胞内に入ってしまえば、菌を殺すことも意外にかんたんなようだ。だから普通の皮膚白癬は薬を塗っておけば結構良くなってしまう。
結局、爪そのものというバリアを薬剤が滲み通して菌のところまで行けるかどうかが最大の問題になる。
テロリストが入国するためには、入国審査よりその国にたどり着く飛行機や船の手配のほうが大変だということだろう。
だから「抗白癬薬はどうやって効くのか」という問題は、どうやって白癬菌のところまでたどり着けるかという問題に帰すことになる。
水虫の薬はどのようにして効くのか爪白癬の付け薬 ほんとうに効くのか
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