鈴木頌の発言 国際政治・歴史・思想・医療・音楽

中身が雑多なので、右側の「カテゴリー」から入ることをお勧めします。 http://www10.plala.or.jp/shosuzki/ 「ラテンアメリカの政治」がH.Pで、「評論」が倉庫です。「なんでも年表」に過去の全年表の一覧を載せました。

 本日の赤旗の一面トップがこの記事だ

「中央アジアに核使用禁止  核保有5カ国が議定書調印」

内容は大略以下のとおり

1.核兵器保有5カ国が、2009年3月に発効した中央アジア非核地帯条約に調印した。

2.この条約は核兵器の研究・開発・所有などを禁止するとともに、核兵器保有国が中央アジア諸国に対して核兵器の使用や核脅迫を行うことを禁じている。

3.国連本部で記念式典が開かれ、パン事務総長は核保有国の遅滞ない批准を呼びかけた。

これだけだ。一面トップにしてはえらく中身が薄い。

今回の「核保有国の議定書調印」の意義を探るためには、少し勉強しておく必要がある。

1.中央アジア非核地帯条約とはどんな条約か

2.非核条約にかかわる核保有国の議定書とはなにか

3.なぜ核保有国は調印を遅らせたのか、なぜ今回調印することになったのか

このへんがわからないと、意味が見えてこない。


1.中央アジア非核地帯条約とはどんな条約か

まず中央アジアという地域を知ることにする

中央アジアを構成するのはカザフ、キルギス、タジク、ウズベク、トルクメンの5カ国。キルギスのほかはすべてスタンがつく。スタンというのは「~人の国」という意味で、「State of ~」ということになる。

一口に中央アジアと言っても、内部には相当の力の差がある。
西側3カ国が石油資源を有するのに対し、タジクとキルギスは山の中の小国にすぎない。

カザフは中央アジアといっても半ばシベリアで、3割がロシア人だ。これはウクライナの倍になる。これに対し、南はアフガンやウイグルとの関係が濃厚だ。

5カ国の中ではカザフスタンが圧倒的な影響力を持っている。面積はほかの4カ国を合わせたより広い。GDPも桁違いだ。一人あたりGDPはロシアをさえ上回るほどだ。

だから中央アジア5カ国としてまとまるためには、カザフスタンのイニシアチブとフェアプレー精神の発揮が不可欠となる。

かつてカザフはソ連の一部であったがゆえに、その崩壊時に核保有国となった歴史を持つ。また、カザフはセミパラチンスクの核爆弾実験場(現在は廃止)をもち、多くの人が核汚染の後遺症に悩む被爆国の一つだ。

だから非核地帯構想は核の放棄の構想でもある。それはたんに核の問題にとどまらず、セミパラチンスクの記憶を頼りとして、この地域の独立と平和、連帯を祈念する象徴となっているように思える。

中央アジア非核地帯条約は2006年9月に締結され、09年3月に発効している。セミパラチンスクで調印されたことから、セミパラチンスク条約とも呼ばれた(現在ではセメイと地名が変更された)

内容は
1.核兵器若しくは核爆発装置の研究、開発、製造、貯蔵、取得、所有、管理の禁止
2.他国の放射性廃棄物の廃棄許可等を禁止
3.核兵器国の核兵器による威嚇を禁止
ということで、放射性廃棄物一般にまで踏み込んだかなり包括的なものだ。
ただ3番目の事項は、核保有国の合意がない限り意味を持たないものであるから、今回の5大保有国の調印で初めて本格的に発効したことになる。

条約の詳報は下記を参照されたい
中央アジア非核兵器地帯条約(抜粋訳)

2.非核条約にかかわる核保有国の議定書とはなにか

ということなのだが、今回大々的に取り上げられた肝心のポイントが見えない。

記事を読んだものはだれでも不思議に思うだろう。条約は2006年に調印され、09年に発効している。それを5大国が承認したことにどのようなニュース性があるのかと。

他のメディアもあたってみたが、どこもぱっとしたものはない。なかではNHKがちょっとコメントしているのが目につく。

世界の非核地帯条約のうち、5つの核兵器保有国がそろって核兵器を使った攻撃や威嚇を行わないと定めた議定書を批准したのは、南アメリカとカリブ海の非核地帯条約だけで、今回の5大国の署名が核軍縮を巡る動きにどのような影響をもたらすのか注目されます。
「なぜそうなったのか」をNHKは語らない。さすがにNHKだ。

そこを説明すると、
06年に調印された時、核保有国の一部に反対があってこの条約を尊重するという議定書に5大国が署名しなかったからであり、それがこのたび合意に達したということである。
それでは誰がどこに不合意だったのか、なぜそれが今頃になって合意に至ったのか、そのあたりの事情が明らかにされないと、ニュースの形を為さないのである。

3.なぜ核保有国は調印を遅らせたのか、なぜ今回調印することになったのか

ここでちょっと難しい話になるが、

核保有国が非核条約を尊重し、核を用いないことを約束することを「消極的安全保障」(negative security assurance)と呼ぶ。それは核拡散防止条約の精神から派生したものである。

(私見だが、negative security assurance はひどい用語だと思う。せめて Moderate とかAccordant とかすべきである。それに対して「積極的に関与する」政策はけっしてPositive ではなく、むしろAggressive というべきだろう)

核拡散防止の本来の目的は、その国が核兵器を保有しないようにすることであり、それが実現するのなら、見返りに核兵器の使用をしない約束を与えることにある。
したがって、非核地帯が実現するためには核保有国の心証が決定的な要素となる。
かなり核保有国にとって虫のいい論理だが、とりあえずそれは受忍しよう。それではどういうファクターが核保有国の心証を形成するのだろうか。

探していたら「原水禁」のページで以下の様な記述を見つけた。

2006年9月の非核条約締結時、条約の尊重を定めた議定書にロシア、中国は賛同したが、米・英・仏は条約に問題点を指摘し、署名しなかった。

その問題点とは、
1.既存の国際条約との整合性
2.核兵器の一時通過権の保留

の二つである。

1.はロシアをふくむ「タシケント集団安全保障条約」(92年設立)との優先度であり、集団安保が優先するならアメリカは核を含む交戦権を維持しなければならないという理屈だ。

たしかにソ連をふくむ地域集団安保など破棄するに越したことはないが、集団安保のほうが優先されてしまっては、そもそもこの条約に意味がなくなる。
それに、アメリカの方もまぁ言いがかりみたいなものだろう。アメリカを盟主とする集団安保体制下にあるラテンアメリカでは、トラテロルコ条約がすべての核保有国によって批准されているから、二重基準になってしまう。

2.は米英仏の本音であろう。トランジットの権利を維持しておけば、核を積んだ飛行機が離着陸できることになる。それに「一時が万時」という。これを認めれば、永遠で なければ一時になる。
その頃イラクやアフガンでの戦闘が続き、イランとも一触即発の危機にあったアメリカにしてみれば、譲れない線であったかもしれない。(ただし この2.項が本当に存在したかどうかは、この文章以外では確認していない)

09年6月の衆議院外務委員会では、東南アジア非核条約について次のような議論が行われている。

(条約は)核保有国に対して、核使用・核脅迫を行わないと定めた議定書第二条への参加を求めている。
これに対し米国は、①一方的に核使用を禁じていること、②経済専管水域まで含まれていることから議定書への署名を拒否した。中国も難色を示している。このため核保有国による署名の見通しは立っていない。
いっぽう、ラロトンガ条約(南太平洋非核地帯)は英仏は批准済み(その後中露も批准)、アメリカは署名(未批准)している。

中央アジア非核条約より10年以上も前に締結された東南アジア非核条約が、未だにこのような状態だ。
中央アジア非核条約では、そこらあたりが、どう調整されたのだろうか。今のところ不明だが、一面トップに据えた赤旗の続報に期待しよう。

ただ原則として強調しておきたいのは、非核地帯条約は核保有国の同意を必要とはするが、お願いしてお許しを頂くという性格のものではない。むしろ正義の名において核保有国に押し付け、認めさせるべき性質のものだ、ということだ。

 

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