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国際租税回避への対応と 金融証券取引 - 大和総研
国際租税回避への対応と金融証券取引
~金融口座の自動的情報交換とBEPSプロジェクトを中心に~
2015/03/02吉井 一洋/是枝 俊悟
1章 国際課税における問題点 (国際的租税回避の観点で)
1.国外における資産秘匿と脱税ほう助
A) UBS事件
UBSはスイスに本拠を置き、世界最大規模の富裕層向けのプライベートバンキング業務を行っていた。
つまり世界有数の脱税コンサルタントである。
2000 年から07年にかけて、米国の顧客獲得キャンペーンを展開した。やり方が少々えげつない。行員が観光旅行を名目としてスイスから米国に送り込まれ、スイス口座を利用した脱税を積極的に提案していたのだ。
やがてこれが発覚し(こんなやり方がばれないわけがない)、UBSは司法取引で7億8,000 万ドルの罰金を支払う羽目になった。
クレディ・スイスでも同様の事件があり、合計で28億1,500万ドルの罰金を支払わされた。
B) スイスの銀行業務見直し
スイスは歴史的に銀行法において、銀行に対し顧客情報の守秘義務が厳しく課されている。このため、かねてよりダーティーマネーの世界最大の保管場所の一つと指摘されていた。(ゴルゴ13の世界です)
二つの事件の後、スイスは、銀行の守秘義務について見直しを行った。この結果、2009 年には銀行の守秘義務を制限し、
3月に閣議決定により見直し、租税詐欺(tax fraud)だけでなく租税回避(tax evasion)の場合でも口座情報を他国の税務当局等に提供できることとした。(しかし日本の税務当局が情報提供を依頼したという話は聞いたことがない)
2.海外事業の納税額を極小化する戦略
上記の事件は明らかに法律を犯す脱税である。しかし脱税すれすれだが違法ではない「節税」法がある。
とくにグローバル企業の海外事業においてそれが甚だしくなっている。(これについては既述のため省略)
3.ハイブリッド金融商品
近年、資本と負債の中間的な性質を持つハイブリッド金融商品の発行が増加している。ハイブリッド金融商品は、ある国の法律では「債券」、他の国の法律では「株式」と定義が分かれる可能性がある。(よく分からないので省略)
2章 クロスボーダーの金融証券取引の把握
1.米国FATCA
A) 米国FATCAの本則
FATCAそのものは外国に対して直接の法的強制力はない。
しかし、口座情報の提供を行わない外国金融機関(FFI)に対しては米国源泉所得について懲罰的源泉課税(税率30%)が課される。このためFFIはFATCAに対応せざるを得ない。
2)協定の3類型と締結国
FATCAは原則的には個別のFFIと対応するが、米国と協定(声明)を結んだ国については政府による代行が許される。国内のFFIは懲罰的課税を免れることとなっている。
協定のモデルには大きく分けて3種類がある。
Model 1協定 各国が国内法を整備し、FFIが各国税務当局を通じてIRSに間接的に米国口座情報を提供する。
Model 1協定はさらに2種類がある。
a 米国から各税務当局に対する情報提供も行うもの(互恵あり)
b 米国から各税務当局に対する情報提供は行わないもの(互恵なし)
Model 2協定 FFIは「協力米国人」(情報提供について同意した人物)の口座情報をIRSに直接提供する。非協力口座)の情報についてはその総件数・総額をIRSに提供する。
OECD加盟国(米国を除く33 カ国)のうち、29 カ国はModel 1協定を締結した。そのすべてが「互恵あり」である。Model 2協定を締結したのは日本、オーストリア、チリ、スイスの4カ国だけである。(日本がModel 2協定となったのは、銀行業界の強い圧力によるものである)
3)二つのモデルがある理由
もっとも大きな違いは、「非協力口座」の情報の扱いである。Model 1では、「非協力口座」の情報も、FFIから自国の税務当局に提供する。
この場合、個人情報の保護に反するおそれがあるので、この種の情報を提供させる根拠法を整備する必要がある。
Model 2では、米国要請があった時のみ、各国の税務当局が口座情報を入手し、IRSに提供する形をとる。
私の感想だが、これは「互恵」関係を結んだ時に大問題となる。日本人の米国口座に関する情報を、日本政府は受け取らずに済むのである。アメリカにとっては、それはどうでもいいことだから、「いいよ」といったのだろうし、日本の富裕層は胸をなでおろしたのだろう。 |
2.自動的情報交換
1)わが国のこれまでの取り組み
2013 年10 月に改正が発効された税務行政執行共助条約では、締結国が自動的情報交換を行う旨が明確に定められた。
2)OECDのCRS(共通報告基準)への発展
他国の口座を利用した脱税の防止のため、OECDが金融口座情報の自動的情報交換を行う共通報告基準(Common Reporting Standard:CRS)を策定した。
2014年11月までに52の国・地域がCRS導入に署名。この時点で日本および米国は未署名のまま。
(中略)
3章 OECDのBEPS(税源浸食と利益移転)対応PJ
1.経緯
多国籍企業などが、合法的な法的技術を駆使し、二重非課税の状況などを作り出し、租税回避を図る例が増えてきた。
他方で、各国の財政状況の悪化と所得格差の拡大が見られる中で、各国ともより公平で適正な課税を実現する要請が高まって来た。
これを背景にOECDの租税委員会では、2012 年6月にBEPSプロジェクトを立ち上げた。
(以下、かなり専門的になるので略)
2016年05月11日 やさしいFATCAの話
2016年05月10日 FATCA・CRSはどこに向かうのか
2016年05月10日 FATCA(所得主義)とCRS(発生主義)の相補と相剋
2016年05月10日 オバマはFATCAでノーベル賞取れるかも
2016年05月09日 FATCAとCRS 経時記録
2016年05月09日 超富裕層の蓄財状況は「個人情報」なのか
2016年05月09日 最初は軽視されていたFATCA
2016年05月09日 FATCA ショック
2016年05月07日 「パナマ文書」事件はユーロ市場つぶしの一環か
2016年05月06日 「パナマ文書」のいささかの胡散臭さ
2016年05月06日 「パナマ文書」、何が重要か?
2016年04月26日 「パナマ文書」の勉強 その2
2016年04月25日 「パナマ文書」を打ち上げ花火に終わらせないために
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