FATCA(米国外国口座税務コンプライアンス法)とCRS(OECD自動的情報交換の共通報告基準)の経過

主として重田正美さんの「米国の外国口座税務コンプライアンス法と我が国の対応」を参考にさせていただきました。

2009年10月 Foreign Account Tax Compliance Act(外国口座税務コンプライアンス法)が成立。

2010年3月18日 「追加雇用対策法」(HIRE法)が成立。FATCAはHIRE法の一部として組み込まれる。

米国外の金融機関(FFI)が内国歳入庁(IRS)と契約(FFI 契約)を結ぶことで、当該FFI の米国人口座情報をIRS に提供することを規定

2012年2月8日 米国と欧州5か国(フランス、ドイツ、イタリア、スペイン、英国)が共同声明。欧州5か国の税務当局が米国人口座の個別情報を取得し、まとめて提供することとなる。

2012年6月 OECD 租税委員会、BEPSプロジェクトを立ち上げ。多国籍企業等の租税回避に対応するため、国際課税ルールの抜本的見直しを開始。

BEPS: 多国籍企業や富裕層の租税回避行為(Base Erosion and Profit Shifting )を指す。
スターバックス、グーグル、アマゾン、アップルなどの租税回避が政治問題化したのを受けたもの。

2012年11月 英・独の財務大臣が租税回避を非難する共同声明を発表。仏の財務大臣も賛同する。

2013年

2013年1月17日 米国財務省規則が公表される。「特定保険会社」もFFI の対象とされることが明らかとなる。

財務省規則: ①米国人口座を特定する。②IRSが定める手続に従い、米国当局に毎年報告する。③非協力口座保有者などへの支払に30%の源泉徴収課税を行い、その額をIRS に納付する。

2013年2月 OECD、「BEPS」問題報告書を作成。G20 財務大臣・中央銀行総裁会議(ロシア・
モスクワ)に提出。

2013年6月 「国際的な税務コンプライアンスの向上及びFATCA実施の円滑化のための米国財務省と日本当局の間の相互協力及び理解に関する声明」が発表される。

FFAとして米財務省の直接監査を受けるのは煩雑なため、米国と各国が政府間協定(IGA)を締結する動きが広がった。
IGAには自動型のⅠと要請時型のⅡがあり、日本はスイス、オーストリア、バミューダ諸島、香港とともにⅡを選択した。
全国銀行協会は、Ⅱを許してもらったことに「強く賛意を表明」し感謝している。

2013年7月 OECD 租税委員会、15 項目からなるBEPS 行動計画を採択。FATCAのモデル1をひな形として、金融口座情報等の「自動的情報交換」を多国間に拡大するもの。

2013年9月 サンクトペテルブルクでG20 サミット。BEPS 行動計画をうけ、2015 年末を目途に国内の法整備を進めることで合意。OECDによる国際基準の策定が支持される。

2013年10月1日 OECDの発議した「税務行政執行共助条約」が日本において発効。①締約国における自動的な 情報交換、②租税債権の徴収の支援(徴収共助)、③要請による文書送達(送達共助)を定める。

2014年

2014年1月 OECD租税委員会、自動的情報交換の共通報告基準(CRS)を承認。

2014年2月 OECD、「課税における自動的な情報交換に関する基準」の草案を発表。

2014 年3月6日 米国財務省とIRS、最終暫定規則を発表。50以上の修正が加えられる。

2014年5月 クレディ・スイス、「米国人顧客の脱税を意図的にほう助した」と有罪を認め、米政府などに28 億1,500万ドルの罰金を支払う。

2014年7月1日 FATCAによる規制が日本及び世界で施行される。登録金融機関は世界中で10万以上、日本の金融機関は3,624にのぼる。

日本の金融機関は、米国人対象者を特定し、同意を取得した上で、米国内国歳入庁(IRS)へ直接報告を行う
不同意口座についてはIRSが租税条約に基づく情報交換要請を日本の国税庁にする。国税庁は金融機関から情報を入手し、IRSへ提供する

2014年7月 OECD、CRSのフルバージョンとコメンタリーを公表。金融機関の非居住者口座を政府間で自動交換するためのマニュアルとされる。

この「完全版」は「金融口座の自動情報交換のための新国際基準」(Standard for the Automatic Exchange of Financial Account Information in Tax Matters)と題されている。

2014年9月 G20 財務大臣・中央銀行総裁会議(ケアンズ)で、BEPS報告書第一弾公表。

2014年11月 ブリスベンのG20サミット、CRSを承認。その後97の国・地域が「税に関する自動的情報交換制度」(OECD制度)への参加を表明。日本の参加は遅れる見通し。アメリカは不参加の意向。

全国銀行協会は「OECD の枠組みは、FATCA よりもさらに負荷が大きい。実務面での配慮が必要」とコメント。

2014年12月 この時点で、欧州各国を中心に112の国・地域が米国とIGAを結ぶ。