「ハッピーバースデー・トゥー・ユー」といえば誕生日の定番曲だ。ところがこれに著作権があって、歌うたびに払わなければならないらしい。

赤旗の記事ではベタのトピックス扱いだが、TPP問題と絡めると、これはかなり深刻だ。

まずはウィキペディアで「ハッピーバースデー・トゥー・ユー」の項目

ただしウィキペディアの説明は要領を得ないところがあり、下記の記事で補っている

ギガジン 2015年9月24日

 

「ハッピーバースデー・トゥー・ユー」の発祥

世界で一番歌われている歌としてギネス・ワールド・レコーズに載っている。また「世界で最も金を稼ぐ歌」としても知られる。理由は著作権があるからだ。

アメリカ人のミルドレッド・ヒルとパティ・ヒル(以下ヒル姉妹)が作詞・作曲した「Good Morning to All」のメロディを原曲としている。これの替え歌が「ハッピーバースデー・トゥー・ユー」になったのだそうだ。

原曲が作曲されたのは1893年。明治で言えば26年。日清戦争の始まる前の年になる。替え歌のほうは1920年頃だそうだ。

Good Morning to All を含むソングブックが出たのが1924年、ぎりぎりまだ大正だ。

この曲の替え歌が広がって、1931年にはブロードウエイのミュージカルでも歌われるようになった。

この後は、Wired の記事から

「ハッピー・バースデー」の歌詞は、1911年にメソジスト監督教会発行の歌集の中で掲載されている。その歌集には、この歌の所有者や著作権に関する記述はなかった。
また、それより前の1901年には、インディアナ州のある教師が、「ハッピーバースデー・トゥーユー」という歌詞の曲を子供たちが歌ったという記述を残している

1912年まで、さまざまな企業が未許可で楽譜の出版を始めており、その中にはハッピーバースデー(トゥーユー)として今日知られている歌も含まれていた

ヒル姉妹の著作権の訴え

ここでヒル姉妹が登場する。このミュージカルが無断使用に当たるとして訴訟を起こしたのだ。このときは著作権が成立していなかったため、請求は棄却された。

この頃アメリカ国内では登録していない曲の著作権は認められていなかった。

そこで改めてヒル姉妹は曲に対する著作権を登録した。

ここで変なのは、ヒル姉妹が登録したのは曲であって歌詞は登録しなかったのです。ところがエージェントのほうでは Good Morning to All の歌詞も登録しているようです。

さらに変なのは、こちらの出所はウィキではなくギガジンの記事ですが、

原曲よりも人気になった替え歌「Happy Birthday to You」の著作権は、1935年にクレイトン・サミーらによる共有名義で正式に著作権登録がされています。

さらにCNNニュースでは、クレイトン・サミーが姉妹から著作権を託されたとある。

曲の著作権、Good Morning to All の歌詞、Happy Birthday to Youの歌詞の三つの異同がどうもはっきりしない。これが分からないと後の訴訟問題が分からない。困っている。

ここまでが著作権の成立に関する経過。

著作権法の変遷(ミッキーマウス保護法)

国際的な著作権に対する取り決めには「ベルヌ条約」というのがあって、加盟国には著作者の没年後少なくとも 50年間保護する義務が課せられている。

この保護期間は長くても良いので、実際にヨーロッパでは70年間に設定されている国が多い。

したがってベルヌ条約によれば、後に死んだ妹が1946年没なので、少なくとも1996年までは保護されることになる。

アメリカにはベルヌ条約とは別に独自の著作権法がある。1909年の第一次著作権法では登録後最大で 56年間保護されることになっていた。

76年の第二次著作権法、93年の著作権延長法が成立した。これにより登録後95年間は著作権が保護されることになった。

ギガジンによると、この二度にわたる著作権の延長は、下記の事情によるようである。

アメリカでは、ミッキーマウスの著作権の効力が切れそうになるとディズニーの強力なロビー活動を展開。これにより著作権法の有効期限が延長されるのが常でした。過去何度も繰り返されてきた一連の著作権の延長措置は「ミッキーマウス保護法」と揶揄されています。

つまり現状でもアメリカ国内では2030年まで著作権が成立し続けるのである。

GMTY vs ワーナー

ウィキペディアには

今回問題となったのは、「タイム・ワーナー」が著作権を主張したことである。

と書いてあるが、これはダブル間違いのようである。以下はギガジンから。

まず事件の発端

ニューヨークの映像制作会社「グッドモーニング・トゥ・ユープロダクション」(以下GMTY)が、2013年に「Happy Birthday to You」というタイトルのドキュメンタリー映画を制作。映画の中にこの曲を挿入した。

これに対して著作権を管理する音楽出版会社「ワーナー・チャペル・ミュージック」(以下ワーナー社)が使用料の支払いを求めた。

映画製作会社は料金支払いを拒否し、「ワーナーは歌そのものの著作権を保持していない」として提訴した。

話がややこしいのだが、

1.ワーナーというのは楽譜出版社であって、映画会社の「ワーナー」ではない。(ただしワーナー・ミュージック・グループの傘下にあり、ワーナー映画と結びついているかも知れない)

2.支払いを請求したのはワーナーだが、裁判所に提訴したのは、つまり原告は映画制作会社である。

ワーナー社は、1998年にヒル姉妹のエージェントだったサミーの会社を買収。歌の著作権もワーナーに帰属することになった。

訴訟のてん末

GMTYの女社長ジェニファー・ネルソンは相当戦闘的な人。「サミー社が(ヒル姉妹から)譲り受けたHappy Birthday to Youの著作権は、歌そのものではなくピアノを使った編曲に限られる。そのためワーナーがサミー社を買収することで承継したのはピアノの編曲部分に限られ る」と主張した。

何か「ベニスの商人」みたいなせりふだが、肝心なことは、作者を保護すべき著作権が作者のあずかり知らないところでビジネスの道具になって、芸術を圧迫することへの怒りであろう。

Happy Birthday to Youの歌詞が含まれる1924年に発行された書物「Harvest Hymns」を手に、ワーナーが保有するというHappy Birthday to Youの著作権の効力に疑問を投げかけるネルソン氏。 (ギガジンより)

そして2015年9月22日、カリフォルニア州連邦地裁の判決が下った。

1.著作権継承の事実は認定

2.ピアノを使った特定の編曲にのみ著作権を限定

3.裁判官の個人的意見として、「1935年の著作権登録作者とされるパティ・ヒルがこの曲を作曲したかどうかは疑問が残ると指摘する。

ということで、原告側の言い分が認められた。しかし判決内容はCNNニュースでは異なっている。

「サミー社はハッピー・バースデーの歌詞についての権利は取得しなかった。従ってサミー社の権利を引き継いだ被告には、ハッピー・バースデーの歌詞に対する有効な著作権はない」とされている。

今回、話題になったのは

今回、またこれが話題になったのは、下記のニュース(2016年2月15日)

「ハッピーバースデー・トゥーユー」の著作権使用料を徴収してきた音楽出版社のワーナー/チャペルが、これまでに使用料を支払った人たちに1,400万ドル(18億円)を払い戻す和解案に合意した。

この報道に続いて、多少の解説が加えられている。

ワーナー/チャペルは1998年以降、ハッピーバースデー・トゥーユーの使用許諾料で、毎年200万ドル(2億4千万円)以上を売り上げている。総額でおよそ5000万ドルを手に入れた。さらに著作権保護期間の終了する2030年までの間に、さらに1650万ドルが入る見通しだった。

無断使用には15万ドル(200万円)の制裁金が課せられる。考えればあこぎな会社である。

もうひとつ訴訟には内容があった。それは使用許諾料を支払ったすべての人たちに代金を返せという内容だ。これにワーナー側が同意したのが今回の和解の内容だ。

今後「Happy Birthday to You」はパブリック・ドメインとして扱われる

めでたしめでたしか?

ワーナーが和解に応じたのは、

このまま裁判に負ければ、これまで取り立ててきた著作権使用料をも返還しなければならない可能性が出てきました。ワーナー・チャペルは裁判を和解に持ち込むことで、すでに得た利益を守るほうが得策と判断したといえそうです。

とされている。(

つまり、まだそれでもワーナーの側には儲けが残るのである。いわば「やり得」だ。

考えてみると、この件では著作権をめぐる強引な拡大解釈がある。曲(メロディー)に関して著作権を主張するのは当然だが、作曲年が1893年の作品が百数十年を越えて有効という解釈には無理がある。

第二に替え歌であるハッピーバースデーの歌詞に著作権を主張するのはまったく筋違いだ。もし著作権があるならそれは替え歌を作った人に帰すべきだ。

もっともその人はメロディーを盗用していたことになるから、メロディーの使用料をヒル姉妹に払わなければならないことになる。