生物の系統発生学でゲノム解析の技術が導入されて以来、これまでの常識が次々と覆されている。とくに昆虫の世界では既存の系統図がほとんど役に立たないほどの有様となっているようだ。また人類の起源においても次々に新説が飛び出してくる。

困ったのは、それがどのくらいの信憑性があるかというのが、判断しかねることだ。どれが正しい技法による解析なのか、どれが不正確なものなのかが分からない。

なかには、科学的な装いを凝らした大法螺もあるだろう。現在の学会はどこもプライオリティーでしのぎを削っているから、スタップ細胞みたいなスキャンダルが生まれかねない。

ゲノム解析の前に、我々はミトコンドリアDNA、Y染色体など類似の手法に親しんできた。それらを組み合わせながら従来の説を補強してきた。

これらに比べるとゲノム解析の情報量ははるかに多いので精度は格段に上がる。逆に資料の問題、コスト問題などから検査対象となる個体数は多くはない。

したがって統計的手法がとりにくい。したがって対象生物の個体差が干渉する余地が大きい。

こういう二面性を踏まえておくべきであろう。

とにかく、ゲノム解析の方法、その限界について最低限の知識を持っておくべきだろう。

ということで、勉強を始めたのだが、何せ新しい学問だから聞きなれない言葉のオンパレード。まるで外国語文献を読んでいるようだ。

とはいえ、私も医者の端くれ。「知らない」では済まされない。これまでの蓄積もある。まずそことの端をつなぐことから始めなければならない。

この手の学問は、何かとてつもない技術的なブレイクスルーがあって一気に発展するものだ。そしてこの技術を用いて次々と新発見が繰り返され、その中で新たなコンセプトやカテゴリーが構築され、それらに名前がつけられていく。

こうしてあっという間に知識の一大ビルが立ち上がってしまうのである。かつてそういう前線の一翼を担ったものにとっては、そういう体系的な認識はなく、後から来た人たちがそれを「学問体系」として把握しているのを見て、「はぁあ、そういうものだったのかねぇ」とひとりごちてしまう。

いつまで戸口の前で、しゃべっているのだ。まずは言葉の理解から。