前項で、5つの宿題を出して、その解答をネット上で探した。

1) エネルギー代謝と飛翔技術

2) ナビゲーション能力

3) ロジスティクス

4) 遺伝子解析

5) そして、何故?→「アサギマダラの哲学」

結論から言うと、少なくとも日本語ネット文献に関する限り、あまり研究している形跡はない。しようとしている在野研究者の「つぶやき」が聞かれるのみである。

1) そして、何故? 「アサギマダラの哲学」

順序が逆になるが、なぜかくも長距離の渡りをしなければならないのか。これには個体保存上の問題と種の保存上の問題がある。

個体保存上は、1ヶ所の食料を食い尽くさないようにするというごく単純な論理がある。これは健全な常識である。

イナゴの大群を考えれば分かる。イナゴが大発生して片っ端から食いつくす。人間も非常に困るが、イナゴはありったけ食い尽くせば後は死ぬしかない。

これは今の富裕層・経団連と同じ発想である。前頭葉が壊死している。

もう一つは、幼虫と成虫では食料が異なるということである。幼虫=イモムシは何かの葉っぱを食べる、成虫は花の蜜を吸う。このサイクルを繰り返さなければならないから、幼虫と成虫は一生の間に住処を代えなければならない。

個体保存上の3つめの問題は、変温動物である以上、外気温に生命が左右されるということだ。だから適正気温を求めて南北あるいは上下に移動する。また飛翔 するものの宿命として体表面積が著しく大きく、体重をギリギリに絞り込むために、環境変化に対する体内バッファーがほとんどない。

2)北上と南下は「大移動」の意味が異なる

その間にも季節は移り変わる。桜前線が北へ進むように食料も北へ(あるいは高所へ)移っていく。

アサギマダラも北上の際はこのような尺取り虫型の北上パターンを取る。それは世代をまたがる北上となる。

とりわけ成虫は、蜜をもとめつつ、交合のための努力を重ね、幼虫の餌となる葉を探して産卵しなければならない。この3つの努力が完遂されないかぎり、物語はそれで終わりとなってしまう。

それに対して冬に南下する時は一気だ。それが我々の注目する「大移動」なのである。

オオカバマダラの研究

渡り(北上)は3,4世代をかけて行われる。成虫の寿命は1ヶ月足らずで尽きる。

オオカバマダラの南下は1世代で行われるが、北上は3世代から4世代にかけて行われる。

南下に際しては多量の蜜を脂肪に変え体内に蓄積する。

2)長距離飛行はオスが雄になるための試練?

種の保存上の問題はとくにオスに厳しく迫る。メスとの交合のためにオスはフェロモンというニオイ物質を発散させなければならない。これに惹きつけられてメスがやってくる。このためフェロモンをふくむ蜜を大量に採集する必要がある。

アサギマダラは成熟に時間がかかるので、羽化してもすぐに交尾することはありません。
オスはメスを誘うフェロモンの生成には「ピロリジディンアルカロイド」が必要です。そのためフェロモンが十分蓄積できるまでは交尾行動に入れない…
これを手に入れるにはアルカロイドをふくむ花から吸蜜して摂取しなければなりません。
フェロモン入り蜜を分泌する花(例えばヒヨドリバナ)はそう多くはないので、オスはフェロモンを求めて東奔西走することになる。

これらが、アサギマダラに長距離移動を強制する動機となる。

3)勝者になるための能力

しかしそれはすべての蝶々に共通する問題であるから、アサギマダラを特徴づける宿命とは言い切れない。

むしろ蝶々の世界の勝者となったことに意義を見出すべきかもしれない。在野の研究者金田 忍さんはこう言っている。

蝶々は日向と日陰、筋肉を使っての発熱、風による冷却などによって体温を生活適温に調整している。
アサギマダラが、ほかのチョウと大きく異なるのは、棲息地を高所、または高緯度の生活適温の地へ移動することによって、より長い生活期間を獲得するよう進化(適応)して来たことだ。
彼らは食草を食い尽くすことなく季節を追って移動しながら、広い範囲の食草を利用している。

つまり、生存を続けるということは自然との適合というだけではダメで、ライバルたちとの競争に勝つことも迫られるということである。

比較優位の獲得というのは、その種にとっては、自然への適合以上に死活的問題なのだとも言える。

4) エネルギー代謝と飛翔技術

エネルギー代謝についてはきわめて簡単なことで、外部代謝については酸素消費量と排泄物の分析である程度の予想はつくし、細胞内代謝についても微小電極を用いれば見当はつくはずだ。

この辺はあまり勉強していないのでわからないのだが、生命の誕生以来の地球環境の激変をくぐり抜けて、昆虫類は未だに栄華を誇っている。それは恒温性という利点だけでは割り切れない、生命活動の効率性があるのではないか。

ごく普通の好気性代謝をしていると仮定するのであれば、むしろ航空力学的特徴に興味が移る。

下記はオオカバマダラの飛翔の技術についての言及である(wikipedia)

① 南下時には一日最低でも80km飛ぶ必要があり、労力を使わないで飛ぶ方法を身につけている。

② タカやワシのように旋回しながら上昇気流を利用して旅をするが、方向性が極めて正確である。大きな湖や海を渡るときには、追い風が吹くまで一週間以上も待つことがある。

つまりヒラヒラと飛ぶというよりは上昇気流を捉えながら滑空しているのだ。他の蝶や昆虫とはまったく異なるスマートな飛び方を身につけているのだ。

これはトリの中でも渡り鳥の飛び方だ。これなら渡り鳥が大陸を越え、海を渡り飛翔するように蝶にも飛べる可能性がある。ただしこれには羽根から翼への「骨格」の変化が必要であろう。

5) ナビゲーション能力

そうなると、焦点はその独特のナビゲーション能力になってくる。

森のアルバム より ★空想するアサギマダラ・①(2009)

室内テストの結果アサギマダラは紫外線に激しく反応する。光に誘引された。光への反応の94%は紫外線に誘引されている。
紫外線が見えるということは風や気流が見えている可能性がある。

ここまで言えるかどうかは別として、新鮮な問題提起ではある。

嗅覚はアサギマダラの行動をリードする重要なキーになっている。アサギマダラが海上で陽が暮れて島が見えなくなっても、海の匂いと島の匂いを嗅ぎ分けるのは、そう難しいことでは無い。

三番目は聴覚です。低周波は夜間でも島を探し当てる手がかりになっている可能性がある。

四番目は触覚ですが、温度センサーについては良く観察されており、季節移動のキーになっているようです。また、圧力センサーについては、夜間飛行の場合等に気圧の変化が分かれば高度を知る重要な手がかりとなっている可能性があります。

その他、人間が失ったと思われるものに体内磁石や体内時計があります。

オオカバマダラの渡りにおける磁気コンパスの利用

Nature Communications 2014年6月

オオカバマダラは、時間補償がなされた太陽コンパスを用いて、飛翔方向を決めているが、太陽コンパスを使えない気象条件(曇天など)でも南の方角へ予定通り飛翔を続けている。

Reppertたちは、人工的に磁気を撹乱させた環境下でオオカバマダラを飛ばし、方向性を失わせることに成功した。

これにより太陽コンパスと連動する光感受性磁気センサーが触角の中に存在していると推測された。

今回の研究によって、人為起源の磁気ノイズが、オオカバマダラにとっても潜在的危険になると考えられた。

この「太陽コンパス」については、Neuron. 2005 May 5;46(3):457-67.でReppert らが検討している。彼らの主張は以下のもの。

複眼の背側領域(Dorsal Rim Area)に紫外線を感受する能力があり、概日時計の制御を行う中枢(“Period”と“Timeless”)と接続し、太陽コンパスを形成している。

この先生、国防予算を狙っているのか、明らかに言いすぎだと思う。「概日時計」という仮定、「太陽コンパス」という仮定、「光感受性磁気センサー」という仮定…

しかし誰もそんなこと言っていないのだから、誰も反論できない。だいたいこういう分野では大風呂敷仮説が学問を前進させるものだ。

6)遺伝子学的検討

2014年10月 AFP

クロンフォーストらは、オオカバマダラのゲノム解析を行なった。その結果、オオカバマダラのわたり行動は数百万年前からのことであり、そのときに単一の遺伝子を獲得したためだと解明した。(ネイチャー誌)

この遺伝子は羽の筋肉の形成と機能にかかわるもので、長距離飛行での酸素消費や飛行に関する代謝効率を高めることに関与している。

そうだ。先ほど書いた「羽根から翼への構造的変化」がそれにあたるのであろう。

遺伝子系統樹のマッピングの結果、オオカバマダラは約200万年前から生息していた祖先に由来すること、その祖先はすでに集団移動する性質を持っていた。

7)残された課題

残された課題と言うよりまったく白紙で未着手の課題というべきだろうが、素人から見て一番興味のある「スタミナ問題」(ロジスティックス)がまったく手付かずである。

おそらくは変温動物であるからこその特質に由来しているのだろうと推測する他ない。

アサギマダラの生き延びる力は驚異的である。栗田昌治 「アサギマダラはなぜ未来が読めるのか?」にはこう書いてある。

アサギマダラを三角紙にはさみ冷蔵庫に入れておくと、水分と糖分さえ補給すれば1ヶ月以上生かすこともできる。
しかし太陽光にあたって体温が上昇すると、すぐに脱水状態になり…致命的となることもある。

おそらくこれは変温動物であることによるエネルギー利用の効率性なのであろうと思う。それは一歩間違えばコロリといってしまう危うさと引き換えのものであろう。