Horowitz: Tchaikovsky Piano Concerto No. 1
というのがあって、最初の8分間くらいが聴ける。
1943年の演奏で、バックはトスカニーニとNBC。
これがすごい演奏だ。オケの音は最低だが、ピアノの音はしっかりとれている。
この時分では群を抜くテクニックなのではないだろうか。

と思ったら、こっちはもっとすごい。
Vladimir Horowitz, piano: Tchaikovsky: Piano Concerto No. 1 in B-flat minor, Op. 23 (1948)
義父との演奏で多少遠慮していたのだろうか、こちらはまったく遠慮せずに好き勝手に弾いている。バックはワルターとNYフィル。実況録音だ。
音はいじってないから、盛大な針音から音飛びからそのままだ。
のんびり始めたワルターが、最初のホロヴィッツの音を聞いてから俄然ギアーを上げるのがよく分かる。ヤクザなNYフィルもさすがに本気モードだ。
第1楽章が終わるやいなや、嵐のような拍手。聴衆の熱狂ぶりがよくわかる。ホロヴィッツ・マジックだ。
第三楽章では、練磨のオケがハチャメチャになる。多分凄まじいスピードについていけずに、ワルター御大の指揮棒が無茶振りになっているのだろう。最後はとんでもないことになる。それは聞いてのお楽しみ。
お手本になる演奏ではないが、間違いなく「世紀の演奏」だ。

これを聞いた後だと、4年後の同じNYフィルとの再演が、下世話的に面白い。「因縁の対決」である。
多分、48年の演奏会はレジェンドになったのであろう。「4年も経ったし、またやれ」という声が出てきたに違いない。ちょうどホロヴィッツがアメリカにわたってから25年の節目でもあるし、記念演奏会をやろうという話になった。
NYフィルも怖気を振るったが、スポンサーにはかなわない。それで誰が指揮するという話になったが、ワルターは逃げた。たしかにもう引退する歳ではあったが、あの盛大な崩壊はたしかにトラウマだったろう。
さりとて25周年というのに小物では困る。いまさらトスカニーニとはやれないし、ライナーかオーマンディかと迷ったと思うが、結局ちょっと小粒の田舎出セルにお鉢が回ったということではないか。レーベル的な問題もあるかも知れない。(ワルター、オーマンディ、NYフィルはCBS。ホロビッツ、ライナー、セルはRCA系)
これが、Vladimir Horowitz plays Tchaikovsky Piano Concerto No. 1 (live 1953, audio)である。(日時についてはいろいろなクレジットがあるが、音源は同じ)

セルはひたすらオケの掌握に徹している。アップテンポの練習もだいぶこなした。音色はプスプスだが、第一楽章では逆に「なめんなよ」とばかり、突っかかるくらいのスピードで振っている。
これを見たホロヴィッツは、「ウム小癪な」と俄然闘争心を掻き立てられた。そして最後の最後に盛大なアッチェレランドをかましたのである。(ただし自らも自爆している)
オケは突然脳震盪を起こした。立ってはいるが頭は真っ白という具合である。誰の頭のなかにも48年の悪夢がよぎったに違いない。
セルはかろうじてオケを引っ張った。総崩れの軍勢の中でセルの怒声が聞こえてきそうな気さえする。オケは千鳥足ながら最後の音まで出しきった。
おめでとう。
そしてオケをコケにしたホロヴィッツはプッツンして鬱になった。この勝負、辛うじてセルのもの。

でも、けっきょく48年の二番煎じだな。