シリーズ「日本の物理学100 年とこれから」

素粒子の物理—-先駆と展開の鳥瞰

長島順清

平成17 年6 月4 日

という文章を見つけた。「素粒子物理学の100 年を日本の著名な科学者の業績と思考に重点を置いて述べた」もので、素人にもそれなりに“分かりやすい”。年表にしてみる。

1897年 トムソン(J.J.Thomson) が最初の素粒子である電子を発見

1919年 ラザフォードが最初のハドロン族素粒子の陽子を発見

1929年 ハイゼンベルグとパウリが、素粒子記述の数学的枠組みである「場の量子論」を提唱。粒子と波動の2面性解明の努力。

1932年 チャドウィック(J.Chadwick) が中性子を発見。ハイゼンベルグは原子核が陽子と中性子でできており、電気的性質以外は同じ性質を持つと提唱する。

1934年 フェルミが「弱い相互作用」の理論を発表。素粒子を生成消滅する実体として捕らえた最初の試み。

1935年 湯川が、核子間に働く新種の力として「核力の場」を提唱。核力の場に伴う粒子としてパイメソン(中間子)の存在を予言。(著者はこれを近代素粒子論の幕明けと位置づけている)

1937年 アンダーソン(C.D.Anderson) ら、宇宙線の中に中間子を発見。(これはミューオンだったため、しばらく混乱が続く)

1947年 パイメソンが発見される。坂田らの2中間子論により決着がつく。

1947年 最初のストレンジ粒子が発見される。新世代加速器の開発により新ストレンジ粒子や新共鳴粒子が続々と発見される。

1949年 朝永らが繰り込み理論を確立。ハイゼンベルクの「場の量子論」の難点を克服。

1949年 コロンビアグループ、量子力学からのずれと見られる異常現象が、真空偏極という場の量子論効果を取り入れれば正確に再現できると発表。

この二つの発見により量子電気力学(QED) が確立する。

1954年 ヤン・ミルズ(C.N.Yang and R.L.Mills) の「一般ゲージ理論」が発表される。、力の場(ゲージ場) を電磁場と類似したものと捉えるいっぽう、重力と同じく、一般相対性理論にも適応。

1964年 ゲルマンがクオークモデルを提唱。(前概念として1956年の坂田モデル)

1964年 南部陽一郎が「自発的対称性の破れ」を提唱。ある温度を境に、ある種の整列化が一斉に生じ、それまで見えていた対称性が隠れてしまう現象で、物性では相転移という名で知られる。

1964年 ヒッグス、真空が無の状態ではなくて、相転移を起こす媒質(ヒッグス場) で充満しているならば、ゲージ対称性を保ったままゲージ場が質量を獲得できることをしめす。

1965年 南部、クォークは3色の色荷を持ち、色荷が強い力の場(グルーオン場) を作るとし、量子色力学(QCD)を提案。

1967年 ワインバーグらにより電弱相互作用の統一理論が提唱される。質量を、環境変化により発生する後天的な性質と見立てることによって、電磁力と弱い力をまとめて一般ゲージ理論の枠組みに収める。

1969年 新加速器による電子・陽子大角度散乱が可能となる。これにより、ハドロンの中に点状の粒子が実在することが明らかになる。

1970年代 電子とニュートリノ反応の比較により、この点状粒子が、半端電荷をもつクオークであることが証明される。

1973年 漸近自由性が発見される。電気力とは逆に至近距離では有効色荷が小さくなり、遠距離で強くなる(反遮蔽効果) 現象をさす。クォークがハドロンの中でほぼ光速で自由に飛び回っているにもかかわらず、あたかも袋の中に閉じ込められたように外に飛び出さない矛盾を解く鍵となる。

1973年 小林・益川が、3 世代6種のクォークによる世代混合によってCP 非保存を導くモデルを提案する。その後予言通りにチャーム、ボトム、トップのクォークが発見された。

1974年 チャームクォーク(c) が発見される。クォーク間にはクーロン型のほかに、距離とともに増加するポテンシャルも存在することが証明される。これによりクオークモデルが受け入れられるようになる。

1978年 電弱相互作用統一理論と強相互作用理論QCDが、一括して「素粒子の標準理論」と呼ばれるようになった。さらに強電弱3つの力の「大統一理論」が提唱される。

1978年 吉村ら、大統一理論にCP(粒子と反粒子の鏡映対称性) の破れを組み込み、ビッグバンから反物質消滅過程を経て、今日の物質宇宙形成へ至る道筋を示す。

1981年 佐藤勝彦ら、大統一の相転移時にインフレーション(宇宙初期の急激膨張) が起きると提唱。

1984年 グリーンとシュワルツ、「超紐の理論」を提唱。(湯川は、場の量子論の欠陥を克服するには、点ではなく広がりを考えなければならないと主張していた)

1990年 ウィッテンが「M理論」を発表。超紐理論の5つの要素がひとつの体系の異なる側面であると提唱。相対論と量子力学の整合性を共に要求すると、超紐理論は10次元時空でのみ成り立つ。したがって、我々の住む4次元時空は、10次元空間に浮かぶ4次元の膜宇宙であるとされる。


と、時系列で並べてみたが、相変わらず何のことやら分からない。

ところで著者、長島さんの最後のフレーズはなかなか印象的である。

 私は、重力に宇宙、電磁力に原子分子、強い力には原子核・ハドロン・クォークと、各種根元力には司る重要な階層があるのに、自然が弱い力だけ除外するはずはないと考え、新しい階層が再び現れると信じる者の一人である。

しかし、これは少数意見である。

現代物質観では、「我々は既に物質の究極に到達した。根元力は4 種で尽きており、次の階層は大統一もしくはプランク距離にあり、途中は何もない砂漠である。」という考えが主流である。

状況は、ある意味で19 世紀末に似ている。当時、すべての現象は古典物理学で説明でき、なすべきことは精密理解だけであると考えられていた。