「マガジン9」というサイトに孫崎さんのインタビュー記事がある。

日中領土問題で得をしたのは誰なのか?」と題されている。

ここでは尖閣問題についての考えがかなり系統的に述べられており、ほぼ意は尽くされているものと考える。

内容については9割以上が納得しうるものである。そのうえで、いくつかの疑問を呈したい。

第一に、無住の地に対する先有権の問題は納得出来ないところがある。

私は南沙諸島のことを念頭に置いているのだが、中国側に尖閣を固有の領土とする根拠はない。彼らの主張には無理がある。これは国際法上譲れないところであろう。

沖縄の漁民がここを漁場として使ってきた歴史、一時はそこに家屋も建てられ、人が生活していたという事実は重い。これに対し、中国は1970年ころまでの間、異を唱えたことはなかった。

第二にカイロ・ポツダム宣言の問題だが、「本州、北海道、九州及四国並ニ吾等ノ決定スル諸小島」についてはそもそもが誤りである。一言一句が不易というものではない。

沖縄も小笠原もまぎれもなく日本人が万古の昔より居住してきた、紛れも無い日本固有の領土である。そのことは、あらためて国際的にも主張するべきであろう。おそらくそれは全世界から認容されるだろう。

おそらく孫崎さんはそういうことに異を唱えるつもりではなく、「外交技術上はそうなりますよ」ということを言いたかったのであろう。

とすれば、やはり孫崎さんは舌足らずである。そこで終わってはいけない。日本の側の当然の主張として理を押し出すべきであろう。そうしないと、まさに「いちゃもん」と受け取られる可能性が非常に高い。

第三に「棚上げ論」の問題だが、日中国交回復の交渉過程で中国側が「棚上げ論」を持ちだし、日本の側がこれを受け入れたというのは通説になっていて、この点については孫崎さんも否定していない。

なぜ「棚上げ論」を受け入れたのかという非難もあるが、受け入れた経過が詳らかにされ、「コチラは納得しちゃいませんょ」ということが明らかになっていれば、受け入れ自体は主要な問題ではない。まさに「智恵」である。問題は主として中国の側で生じるだけだろう。

第4に中国漁船拿捕問題だが、まず孫崎さんの陰謀説はすべて認める。すべて認めた上で、二つの要素も指摘しておきたい。

これはたしかに「作戦」として始まったが、その後「重大事件」に発展した。だからこれは「尖閣事件」の発端として、背景もふくめて評価しなければならない。

一つは、漁船の「違法操業」が中国の外洋拡大路線と密接に結びつきながら展開されていることである。軍が出る前にまず漁船の違法操業で相手の出方を伺う。場合によっては挑発行為を取り、中国艦船出動の口実とする、このような路線が組織的に行われていることが予想される。情況証拠は山ほどある。

したがって、いつかはこのような事件が発生しただろうことは想像に難くない。そのうえで、なぜあの時期にああいう形態で、拿捕作戦が行われたかということであろう。

もうひとつは、日中両国間の力関係の変化、いわば地殻変動が積もり積もって爆発した事件だということである。そこには地震と同じメカニズムが働いている。

拿捕作戦で、ここまで両国関係がバタバタするとは米国も思っていなかったのではないか。

問われているのは、相対的力関係の変化に応じた新たな両国関係の構築である。それをサボってきたツケが、尖閣問題という形で噴出したのである。

中国漁船の拿捕に続いて起こった一連の事象を、全て一括して陰謀的な「拿捕作戦」と見るか、拿捕作戦によって誘発された「重大国際事件」と見るかで評価の仕方は異なってくる。失礼ながら、「情報屋さん」のレベルで評価する問題ではないと思う。

第5に、「断固として領有権を守る道か、紛争にならないように考える道のどちらか」という発言であるが、これは二者択一ではないと思う。

領有権に矮小化するのがそもそもの間違いであって、断固として守るべきは国際法の精神なのだ。領有権を守るのも、紛争を防止するのも、ともに国際法の順守あっての話だ。

「智恵」としての棚上げ路線は、外交技術的には保持する必要はあるかも知れない。だが領有権そのものについては、もはや棚上げなどせずに大いに議論すべきだ。今や「棚上げ路線」に固執することは「浅知恵」でしかない。

その際、我々の覚悟としては、国際法的に決着がつけば、最悪、領有権の放棄もふくめそれを受け入れるということだ。その場合は、領有権を巡る争いに敗北したとしても、国際法順守の原則を擁護する闘いには勝利したことになる。

憲法前文にある「我らは国際社会において名誉ある地位を占めたいと思う」というのは、そういうことではないか。

孫崎さんに一考をお願いする次第である。