前回ウクライナの記事を書いていて、農業の姿がまったく見えないことが不思議だった。「鉄がダメなら農業があるさ」ということにならないのはなぜなのだろうか。

ネットで調べたところ、ウクライナの農業の状況について、農水省の平成24年末のレポートがあった。

「独立」後の経過概要

a.ウクライナは、旧ソ連地域の中でも肥沃な黒土地帯を有し農産物生産国として潜在力が最も高い国である。

b.計画経済から市場経済への移行に伴う混乱やインフレ等のため、穀物生産は半減した。

c.その後、穀物等生産及び輸出量は回復・増加傾向にある。

その背景として、農地改革と農業企業の民営化などの農業制度改革、肥料や農薬の普及、世界的な食料需要の高まり、があげられる。

d.農作物・食品輸出国としての地位を急速に獲得しつつある。

農業生産高

まず驚くべきことは、生産高の驚異的な伸びである。

10年間で、大豆の生産量は約5万トンから約220万トン(44倍)、とうもろこしの生産量は約400万トンから約2,300 万トン(5.75倍)に増大した。

しかもこの数字は過渡的なものとされている。

近代的な農業機械、高収量の種子・農薬及び肥料への投資は未だ不十分である。
現在の生産量は潜在的な生産能力の半分程度とされ、将来は倍加するとも言われている。

ということで、当面のハイリスクを補って余りある魅力となっている。

ただし社会主義時代には4700万トンを生産していたことに留意する必要がある。さらにとうもろこしの生産増大に対し小麦の生産量が減少していることも注意。

大豆の輸出は120万トン、トウモロコシは1400万トンで、トウモロコシの輸出高は世界2位である。

主な輸出先はギリシャ、トルコ、北アフリカ、中東諸国。

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貧弱なインフラ

豊かな可能性に対し、現実はきわめて貧弱である。

a.低い品質

大豆・トウモロコシともに、小粒でたんぱく含有量が低く、硬く、また不良大豆の混入がある。飼料用と油糧用であり食用としては課題が残る。

違法にGMO作物が栽培されている状況があるが、検査・管理は為されていない。

b.劣悪な物流インフラ

穀物エレベーターの保管能力は低く、老朽化も激しい。

内陸輸送の大部分を担う鉄道インフラは、深刻な貨車不足があり、輸出へのボトルネックとなっている。

パナマックス船が接岸できる港は4港に限られる。バースやエレベーターも不足している。

特異な農業生産構造

農業企業(旧コルホーズ・ソホーズ)は、農業経営体全体の0.3%だが、農地面積の78%を保有する。

90年代以降、多国籍企業が進出。主として大豆とトウモロコシを生産。最大のカーネル社は9万haの農地を保有し240万トンを生産する。

法的・政治的環境

問題だらけである。列挙すると、

a.農産物の品質などの情報が乏しい

b.法制度の不備と突然の変更、紛争メカニズムの欠如、土地リース契約の煩雑さなど

c.国内生産状況や国際価格の高騰等を理由に、突然行われる輸出規制

と、投資家にとってはほとんど最悪。


ということで、これまでウクライナ経済を支えてきた製鉄産業が見通し真っ暗、一方でアグリビジネスによる農業発展が今後の支えになるとすれば、企業にフレンドリーな国作りを目指さなければならない。

ただこの国の農業生産構造を考えれば、農地がほぼすべて多国籍企業のものになってしまう危険もある。

言わば「持てる国の悩み」なのだが、国の将来について厳しい選択を迫られているといえるだろう。