ウクライナを把握するのは相当手強い。

一筋縄ではいかない。

我々が学校で習ったのは豊かな穀倉地帯だということで、地理の試験問題風に言えば「ウクライナ=黒土地帯」だ。

これは現在もあながち誤りではなさそうで、ウクライナを「大いなる田舎」として把握すること自体は今でも誤りではなさそうだ。

小学校の頃、「ボルガ・ドン運河」というのが完成して、なにか世界最大とかというのでニュースになった。映画館でニュースで見た覚えがある。

あとはずっと降って、チェルノブイリだ。

一般人にはこのくらいだろう。

あとはムソルグスキーの「展覧会の絵」のフィナーレが「キエフの大門」、それから「屋根の上のバイオリン弾き」がウクライナが舞台だったかもしれないな、という程度。

左翼系の人だと、これに「戦艦ポチョムキン」の舞台となったオデッサの街、スターリンによる農業の強制集団化、いわゆる「祖国大戦争」の舞台としてのウクライナが加わる。

これでウクライナのイメージを持てと言われても、なかなか容易ではない。

スラブ人でギリシャ正教ということで、西側のポーランド、ルーマニアとは自然国境がありそうだ。しかしベラルーシ、ロシアとは区別がつかない。

結局言語と歴史ということになるか。しかしめまぐるしい歴史を見ると、ウクライナ民族としてのエンタイティをすくい取るのはなかなか難しい。これはベラルーシも同様だ。

私は、その国を見る場合、たいていその歴史から入るのだが、率直にいってこの国の歴史は七面倒くさい。しかもあまりポジティブではないから、やる気が湧いてこない。

まず一般地理から入るか。

面積は60万平方キロ、日本の2倍近い。ほとんどが農耕可能な平地だから、実感としては10倍位になるだろう。

人口はおよそ5千万人、日本の半分だから多いとはいえない。

同じ農業国のアルゼンチンと比較すると、アルゼンチンの面積300万平方キロの1/5、人口はアルゼンチンの4千万より一回り大きい。

アルゼンチンの可耕地は国土の半分程度だろうから、似たような国土構成だ。

GDPはアルゼンチンの6千億ドル、一人1万4千ドルに対し、3千億ドル、一人7千ドルだから経済規模は半分である。

ヨーロッパ市場に陸続きで隣接していることを考えれば、とくに農業の近代化という面で、かなり遅れをとっていることが分かる。

ウクライナの産業構成

農業の近代化の遅れと書いたが、じつは輸出品のトップは農産物ではなかった。ウクライナの輸出品トップは鉄鋼だ。

今回の政変も根っこは鉄鋼不況にある。ウクライナは製鉄に必要な鉄鉱山と石炭鉱を併せ持っている。すべて自まかない可能だから有利だが、技術が低いため国際競争力に乏しい。

それがリーマン・ショック後の国際不況のアオリをまともに食らった。輸出は激減し、財政は破綻し、対外債務は急増した。すでに事実上のデフォールト状態にある。

これは2001年12月のアルゼンチンと似たような状況だ。暴動が起きるのは時間の問題だった。しかし暴動で政府が転覆されても事態が好転する見込みはない。

ここが双方にとって辛いところだろう。

人口分布を見てみる

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北西部に高く南東部に低い傾向がある。

ウクライナそのものが一種の辺境だが、その中でも南東部が辺境となっているといえる。(ただし、ただの辺境ではない。ここに製鉄産業が集中している)

民族構成を見ると、意外に単独構成で、ロシア人の17%を除けば他民族は1%以下の存在である。旧ユーゴのような多民族のモザイク国家ではない。このことは抑えておく必要があるだろう。

ところが、民族構成と言語構成は必ずしも一致しない。

ウィキペディアには以下のように記載されている。

統計によれば、ウクライナ語を母語とする国民は5割強であり、多くの国民はウクライナ語とロシア語の2言語を理解する。実際に、ウクライナ語のみで日常生活を送る国民は西部を中心とした一部地域に限られ、大半の国民はウクライナ語とロシア語を併用している。

ただしこのくだりには、[要出典]のタグがバチバチ貼られている。

言語分布は人口分布と類似するパターンを取る。この読み方は難しい。

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ロシア語使用者の比率により色分けした図である。

数字から見てロシア語を使用するウクライナ人が相当の数に昇ることが分かる(首都キエフにおける高い使用率がそれを示唆する)。もう一つはこれらの地域からウクライナ人が排除された可能性があることである(オデッサの高使用率)。クリミア半島については、もともとウクライナの一部ではなかった可能性もある。

ただいずれにせよ、

1.ごく一部の地域を除けばウクライナ人でウクライナ語を話す人が過半数を占めており、

2.しかも人口分布ではウクライナ語圏である中西部に人口が集中している。

このことから、民族・言語の問題はウクライナにおいて決定的な問題ではないといえる。

ウクライナ人の立場に立って考えてみる

とりあえずの話だが、ウクライナは一つだ。割れることはない。

ソ連には頼らざるをえないが、そのままでは未来はない。投資が必要だが、あてはない。

製鉄産業は民営化と積極的誘致以外にはない。

農産物輸出はマーケットの開拓なしには望めない。

やはり長期的にはEUとの関係強化しか道はない。

ここまではウクライナ国民の共通認識だろう。

まずは債務の整理だ。もう一度国民には泣いてもらわなければならないし、その覚悟を促さなくてはならない。

EU諸国への過度の幻想が深刻な結果をもたらすことは、前の大統領の時に経験済みだ。

黒海周辺国の共同市場づくりなど、経済建設にはより自主的な目と構えが必要だろう。