だいたい学会でケチョンケチョンにやられるのは、結果よりも「方法」のところです。

「このとおり結果が出ているじゃないか」と動画で示そうが、テクニックが少しでも怪しいとフロアーからチクチクといじめられ、壇上で立ち往生になりかねません。

我々、臨床のアバウトな人種には、正直そんなことはどうでもいいので、「いい加減にせぇ」と叫びたくなるのですが、ライバル同士にしてみれば、そうは行かないようです。

ということで、こちらも何やらチミモウリョウの跋扈する「基礎医学」の世界に飛び込むしかなさそうです。

前回の記事で、STAPの実験には5つの段階があると書きましたたが、追試はもっぱらその入口のところ、「多能性細胞の作成」実験に関心が集中しているようです。

ここに的を絞って「ネイチャー」の原文に当たるしかなさそうです。

幸いなことに、同業者の「一人抄読会」さんが日本語に翻訳してくれているので、それを頼りに実験方法を紹介してみたいと思います。

【まとめ】

本研究では、新生児マウスの脾臓からFACSでソートしたCD45陽性リンパ球を酸性溶液(低pH)に30分置いて、LIF含有培地で培養することによりSTAP細胞を作製した。

のっけから学術用語の連続パンチです。分かることは、実験が前処理(FACS)、本処理(酸性液暴露)、後処理(LIF培養)という3つのプロシーデュアからなるということです。

【論文内容】

低いpH刺激によって体細胞の運命転換を起こすことができる

CD45(白血球共通抗原)が陽性の造血幹細胞を「運命決定された分化した体細胞(committed somatic cell)」として用いた。

第一過程: 出生後1週齢のC57BL/6系統Oct4-gfp トランスジェニックマウスの脾臓を採取し、そのリンパ球分画をFACS(蛍光活性化セルソーター)にかけてCD45+細胞をソートした。

FACSというのは“fluorescence activated cell sorting”の頭文字をとったもの。FACS Core Labratory というサイトに説明が載っています。
「蛍光抗体で染色した細胞を液流に乗せて流し、レーザー光の焦点を通過させ、個々の細胞が発する蛍光を測定することによって細胞表面にある抗原量を定量的に測定することのできる機器です」と説明があるが、ますますわかりません。ともかく肝心なことは「特定の細胞だけを、生きたまま、無菌的に分取(sorting)する」ことができるということです。
脾臓をミンチしてその肉汁をぎゅっと押し込んで、装置の細い管を通過させます。どのくらい細いかというと、細胞が一度に一つだけ通過できるほど細いのです。細胞が順番に管の中を通過していく時、レーザーがパッと照射されて、蛍光に合わせて表面抗原の種類が認識されます。
この器械の偉いのは、ただ認識するだけではなく光源の種類にあわせて異なる電荷を与えるのです。それも瞬時にです。そうするとその電荷に合わせて細胞が振り分けられます。その結果表面抗原の種類ごとに細胞が振り分けられ、生きたまま取り出せることになります。

第二過程: 上記で得られたCD45+細胞を酸性の培地に30分おいた。そして5分間の遠沈をかけた。

第三過程: これらの細胞をLIF (leukaemia inhibitory factor)とB27(血清フリーサプリメント)を加えたDMEM/F12培地(LIF+B27培地と呼ぶ) に懸濁して7日培養した。

しかるのちに、GFPを検出することによってOct4の発現を調べた。その結果、Oct4-GFPを発現する球状凝集塊が多数出現した。Oct4-GFP発現細胞は細胞質が少なく細胞のサイズは小さく、核の詳細構造はもとのCD45+リンパ球に比べて明瞭 だった。

Oct4-GFP陽性細胞でT-cell receptor 遺伝子のゲノム再構成が認められたため、Oct4-GFP陽性細胞は分化したT細胞から生じたことが示された。
 

LIF: 和光純薬工業のサイトに説明がある。
LIFは白血病細胞の増殖を阻害し、マクロファージに分化誘導する因子として発見されました。マウスES細胞の分化抑制作用があるため、ES細胞の未分化状態を維持するために細胞培養時に用いられます。
和光純薬にはLIF入り製品が何種類かあり、その内の「D-MEM/Ham's F-12 with Phenol Red, HEPES and Sodium Pyruvate」というのが多分それに当たるのだろうと思う。
500ミリリットルで1650円というから意外と安いものだ。間違いなく久保田の万寿よりは安い。あれはぼり過ぎだ。


他の臓器由来のSTAP細胞

1週齢のOct4-gfpマウスの脳、皮膚、筋肉、脂肪、骨髄、肺、肝臓からの体細胞で同様の運命転換実験を行った。転換効率はさまざまであったが、確認した全部の組織で、低pH刺激後7日目にはOct4-GFP発現細胞が生成された。


【結論】

この多能性細胞へのリプログラミングが低pH刺激に特異的に起こるものなのか、それとも他のストレス(物理的な傷害、細胞膜の穿孔、浸透圧ショック、成長 因子の除去、ヒートショック、高Ca2+への曝露など)でも起こるものなのかは不明である。


ということで、追試を評価する場合、正規のトランスジェニックマウスが使われているかどうか、上の3つの Procedure をふくむ Protocol が守られてるかどうかが、まず問われることになりそうだ。