そろそろ解説文献がネット上に出始めて、勉強しようかという矢先に、追試がうまくいかないという情報が流れてきたので、どうしようかと悩みつつ、少し読んでみた。

最初は理化学研のホームページから、30日付の記事「細胞外からの強いストレスが多能性幹細胞を生み出す」というもの。

これは非常にわかりやすく、動画も添えられていて入門者にはありがたい記事だ。

1.これまでの定説

一度分化してしまった体細胞は多能性を回復できない。

多能性の回復のためには何らかの人為的な遺伝子操作が必要である。

しかし一部の生物では、分化した細胞に成長因子を作用させると未分化な状態に戻らせることができることが知られている。

2.小保方の研究

マウスの体細胞に、酸性処理などの強い外部ストレスを与えると、初期化を起こし、多能性を回復する。

初期化はGFPの発現で確認され、多能性はマウス胎盤内での培養で確認された。

3.方法

a. GFPは蛍光を発するマーカーである。

b. Oct4 遺伝子は多能性細胞にのみ出現する遺伝子の一つ。多能性を示す指標となる。

c. 遺伝子改変マウスで、Oct4 遺伝子とGFPが特異的に結合する系統がある。

という3つの条件のもとで実験を行った。

A) 多能性細胞の作成

遺伝子改変マウスのリンパ球を取り出し培養した。

これを酸性(pH5.4~5.8)の溶液で約30分処理すると、30~50%の細胞が死んでしまう。

しかし、生存細胞の約30%は2日後には細胞体が縮小してOct4 を発現し始めた。

7日後には、これらの細胞は、リンパ球に特異的なタンパク質の発現が失われていた。Oct4 だけでなく他の多能性マーカー遺伝子(SSEA1NanogSox2等)も発現していた。

B) 多能性細胞のDNA解析

DNAメチル化パターンの解析で、エピジェネティックな情報も多能性細胞型に変化していた。

C) 分化培養

多能性細胞は内・中・外の三胚葉すべてに分化した。

増殖因子(ACTH, LIF)を添加した培地で培養すると、増殖力は高まる。その増殖力はES細胞に匹敵する。

D) マウスへの移植

皮下への移植実験では、テラトーマを形成した。

STAP細胞を胚盤胞に移植すると、全身の細胞に分化した。STAP細胞由来の子マウスを得られた。

これは、STAP細胞が、ES細胞などの多能性細胞よりもさらに未分化な「全能性」を有していることを示す。

E) リンパ球以外の細胞での実験

マウス胎児由来の脳、皮膚、筋肉、脂肪など試みた全ての組織の細胞から誘導できた。

4.総括

笹井グループディレクター : 本研究は、細胞外部からの強烈な刺激に細胞を晒すことで、細胞の分化の記憶を消し去り、新たな多能性細胞を生み出せることを示した。
本研究は、決して誇張ではなく、発生生物学の歴史を塗り変える大きな革新をもたらすだろう

小保方 : 今回の成果は、再生医療だけでなく、細胞老化やがん研究にも結びついていくと考えられます。
まずは、このSTAPという驚くべき現象の詳細なメカニズムを解明することが、私の次の大きな目標です


一読して、かなり前のめりな研究であることが分かる。しかも後ろの方の実験系になるほど、「大言壮語」が目立つ。

ある意味で、きわめてプリミティブな発想に基づく実験であるために、なぜそれが今まで発見されなかったのか、そのピットフォールに迫ることが一番重要なのだと思う。

これは発明ではなく発見なのだ。

培養系の問題、培地の問題、刺激の方法、添加物質など、どこかに問題を解く鍵がありそうだ。
「多能性でなく全能性だ」などとはしゃぐ前にそこを探るのが「科学の目」ではないだろうか。