山本真也(京都大学霊長類研究所ヒト科3種比較研究プロジェクト特定助教)
以下は私の抜粋ノート
「徳」の進化的基盤
ヒト以外にも「徳」の進化的基盤がみられると考えられる。その典型が利他行動や協力行動である。このような「徳」につながる行動が霊長類をはじめ動物界に広くみられる。
チンパンジーの手助け
相手の要求に沿って、働きかけられたチンパンジーはそれぞれの状況に応じた反応を示した。
要求されれば手助けする。しかし、自発的に助けあうことは少々難しいようだ。
要求に応えるチンパンジー、自発的に助けるヒト
利他行動の発現には、相手の状況の理解と要求の理解がともに重要である。
ヒトでは、相手の困っている状況を見ただけで、相手が何を必要としているのかを理解し、要求されなくても相手を助けることがある。
状況の理解 と要求の理解 の自動的な結びつき、つまりは利他行動の自発性がヒトとチンパンジーの大きな違いであろう。
「要求に応じた利他行動」は、認知的負荷が小さく効率的である。これが進化的な基盤となり、ヒトでは自発的な利他行動がみられるようになる。
それは、こころを読む能力が発達するにしたがって、高度化し多様化する
利他の文化
人間の観察では、大人からの明示的な要求に応じて手助けすることが多かった18カ月児に対し、30カ月児ではより自発的に手助けするようになった。
しかし、自分の欲求を多少なりとも放棄しなければならない利他的な手助けは30カ月児でも難しい。さらに社会的・道義的な規範の理解が進む必要がある。
集団での協力
集団での協力行動は、ボノボに比べてチンパンジーでより発達している。チンパンジーは競合的な社会を築いている。隣接群とは敵対的関係にあり、時には集団間で殺し合いの戦争に発展する。
このようなチンパンジーにとって、集団で協力する能力は必須である。
これに対し、ボノボにとって、集団で協力するという能力はチンパンジーほど発達していない。
この事実は、ヒトで顕著にみられる「協力」と「戦争」という2 つの側面が簡単に正と負に切り分けられないことを示している。
協力の未来に向けて
チンパンジーやボノボでも、利他や協力といった「徳」の基盤がみられる。
チンパンジーやボノボでみられる手助け行動や食物分配はあくまで2 者間の関係である。手助けしない個体や食物分配を拒否したからといって、第三者から非難されることはない。
人の大きな特徴は、利他や協力を「道徳的行動」として社会規範化したことにある。
このシステムは、利他・協力社会を発展させる上で重要であるが、「おせっかい」や、さらには「ありがた迷惑」という負の面もあわせ持つ。
この意味では、チンパンジーの「要求に応える手助け」は、もっともシンプルで的を射た利他行動だと言えるかもしれない。
相手本位の行動であること。それが、なによりも利他行動で大切なことなのではないだろうか。それはたんなる「基盤」ではなく「原点」であるのかもしれない。
ボノボの進化的位置づけに興味がありグーグルしてみたが、思いの外まともな文章が少ない。
ボノボ イコール 平和愛好という決めつけや、性行動の出歯亀的観察のはなしばかりだ。
上の文章は肩のこらないエッセエだが、自然集団としてのボノボの観察から説得力ある議論を導き出している。
とくに利他行動と集団協力を分けて考える発想は出色だと思う。
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