数年前にNHKの深夜で「サラリーマン・ネオ」というコント番組があった。
最初は面白くてけっこう見ていたのだが、途中からだんだん嫌になってきた。弱者に対する笑いとか、はみ出し者に対する笑いとか、それを笑う立場に共感できなくなってきた。最後には、「この連中は俺のことも陰で笑いにしているだろうな」と疑い始めると、むしろその陰湿さに吐き気をもよおすほどになってきた。

こんなコントがあった。
ブラジルの奥地に駐在員として派遣される社員が、そのことを告げられるのだが、その社員は徹底したウスノロとして描かれ、転勤を告知する上司が汗だくになって説明するさまを、陰から見ていて笑い転げる社員たち。
これってコントだろうか。

非正規の職人と思しき夫婦が、サラリーマンになりたいと雨の中で懸命に正社員にすがりつくコントは、繰り返し放映された。製作者にとってよほど気に入ったモチーフらしい。

おそらくそれは今のNHKの社員の本音を象徴していたのだろう。
多分それは安倍晋三の心理と響きあっていたのではないだろうか。

与謝野晶子の詩ではないが、風の吹くままになびく草には、揺れているという意識がない。理由はいろいろあるが、根本的には草は人ではないからだ。

ところが草が自分を「人」だと思い始めると厄介だ。風の動きに従わないほんとうの人が、「人ではない」と思いこむようになる。