最後にドマニシ原人。

知恵蔵2013

近年、グルジア共和国のドマニシ(Dmanisi)遺跡では、約175万年前の原人(Hominid)の化石が相次いで発見されている。脳容積は600~770立方センチ、身長は140cmほどで、これまで東アジアで発見されていた原人よりも原始的である。オルドバイ型石器や動物化石も豊富に見つかり、狩猟活動が盛んだったと考えられる。

自費出版のリブパブリのブログより

ドマニシはグルジア共和国の首都トビリシから南西に80キロ。中世の城塞の下から、これまで4個体分のほぼ完全な頭蓋、それにこれまた完全に近い骨格を含めて多くのホモ属化石が見つかってきた。

発掘を率いたグルジア国立博物館のスタッフは、最小の脳容量(わずか546㏄)、長い顔、突出した上顎、大きな顎と歯から、より原始的なホモ・ハビリス、ホモ・ルドルフェンシスとの類似を指摘する。

5個の頭蓋は、地下の巣穴と思われる所から発掘されている。彼らは肉食獣に捕食され、その骨が1箇所に集められたのだろう。

同一時期に生きていた同一集団と想定されるが、それにもかかわらず、極めて形態の変異が大きいことが注目された。

ホモ・ハビリスとホモ・ルドルフェンシスとの変異幅とも大差ないというから驚きだ。

このことから、「ドマニシ猿人をふくめた初期ホモは、単一の進化系統のもとに進化した」、という推定が成り立つ。それから見ればネアンデルタール人とホモ・サピエンスの通婚などちょろいものだ。

ホモ・ハビリス、ホモ・ルドルフェンシスという細分は意味を失い、ホモ属の大きな単一種にまとめられる可能性があるということだ。早期ホモ属はすべてホモ・エレクトスに一括されることになる。

もう一つの可能性は、彼らが肉食獣の捕食の対象となるほどに濃密に存在していたということである。つまり彼らは肉食獣に怯えつつも、それなりの繁栄を維持していたことになる。

「ネイチャー」2007年9月におけるチューリヒ大学グループの発表

「ドマニシ原人」はアフリカ大陸から初めて移動したたもっとも初期のホモ・エレクトスである。

身長は1.4~1.6メートルと小さかったが、現代人と同じプロポーションで、脚は腕より長く、長距離を歩いたり走ったりすることができた。

ドマニシ原人を分類学的・系統学的に位置づけるのは難しい。身体的にはホモ・エレクトスよりもその前段階のホモ・ハビリスに似ている。

「人類の祖先は全てアフリカを起源としていると考えられます。問題は、いつアフリカを出たかです。ドマニシ原人は最初の拡散とも考えられます」

『サイエンス』 Science

ドマニシ遺跡の新たな頭蓋と初期ホモ属の進化 より一部引用

大きな顎前突の顔や小さな脳容量(546㎤)や大きな歯が特徴となっており、アフリカの最初期のホモ・ハビリス属と解剖学的に類似している。同時に、エレクトスと共通する派生的特徴も混在している。

ハビリスは少なくとも、エレクトスの出現から40万年以上共存しており、混住していた可能性もある。

200万年以上前に、ハビリス的な人類の一部からエレクトスの直系祖先が分岐し、徐々にエレクトス固有の派生的特徴を強めていったと思われる。

そして、ドマニシ人的な人類とエレクトスの系統が分岐する前に、ドマニシ人の直系祖先が他のホモ属に先駆けてユーラシア大陸に進出したのではないか。

この「サイエンス」論文にはいくつかの有力な反論が寄せられている。「それは言いすぎだよ」というものだ。

やはり外形的特徴による分析のみで、DNA解析の裏付けがないことが弱点だ。


外形的特徴からいろいろと議論されているようだが、私としては一番衝撃的なことは「食われるものとしてのヒト」という性格だ。

人は雑食で植物も採れば動物もとる。しかし食う側であって食われる側ではない。

もし食われる側から食う側に立場を変えたとすれば、それは人にあらゆる面での発想の逆転をもたらすであろう。

かつて狼は天敵であった。それが今では狼を駆逐し、絶滅に追い込むいっぽう、狼を犬として家畜化し、飼いならしている。

この劇的な立ち位置の変化を人類史の中で必ず位置づけなければならないだろう。